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四話~街到達~

 意識が浮上する。

 微睡みから覚めるような心地良さを感じながらカズモリが目を開くと、薄暗い空間に自分がいることを認識した。


 足元には青い魔法陣が光を失った状態で描かれており、目の前にはぽっかりと開いた穴から太陽に光が差し込んでいた。


 「出口だ!」


 駆け出したカズモリは自身の身長より遥かに大きく開いている穴から身を乗り出し、そこから周囲を見渡す。


 そこは草原だった。


 半径四十メートルほどの周囲には草花が広がっており、その先には木々が視界を遮っている。


 穴から身を乗り出していたカズモリが外へ全身を出し、後ろを振り返るとそこには天に向かってそびえ立つ立派な大木があり、その内部がどうやらダンジョンへの入り口となっていたようだ。


 「とりあえずここから移動しなくちゃ始まらないよな……地図でもあればいいんだけどなあ」


 そう呟いて手持ちを確認してみると、いつの間に持っていたのか腰のベルトに掌に収まるサイズの黒い箱がぶら下がっているのに気付いた。


 「あれ、こんなものベルトに付いてなかった筈だけど?」


 疑問に思いながらその箱を興味本位で開けてみると、頭の中に言葉が流れてきた。


 (もしもーし 聞こえますか~?)

 「エレノア様!? え、どうして?」

 (このメッセージを聞いているということは、私が送った箱に気が付いたということですね。今貴方が開けたその箱はアイテムボックスといって、武器、防具、食べ物や雑貨に至るまで種類ごとに分けて収納されるこの世界の冒険者の必需品です。種類によって容量が異なりますが、貴方に渡した黒い箱は冒険する分には不便を感じないくらいの容量がありますので安心してください」


 どうやら会話は一方通行らしく、カズモリの声は聞こえていないようだ。

 口振りから察するに、カズモリがこの箱を開けた際に自動的に流れるようにしてあったのだろう。


 「なんていうか、無駄に手が込んでるなあの人、いや人じゃないか」


 そうぼやきつつもアイテムボックスの中身を調べようとすると、脳内に情報が流れ込んできた。


 「うわっ、なんだこれ? 食料……武器、道具? ひょっとして、この箱の中身か?」


 どうやらアイテムボックスの中身が表示されているらしいことは分かったので、中身を確認していると『道具』の項目の中に『地図』と『メモ』、そして『魔石』という見慣れない単語が目に入った。


 「えっと、どうやって取り出すんだ? っとと、出てきた……」

 取り出したいと考えたら自動的に出てきた地図とメモ用紙を驚きながら手に取り、地図を広げてみる。


 「……いや、世界地図でどうやって現在位置を理解しろと?」


 さっぱり分からなかった。

 

 仕方ないのでメモの方を見てみると、これまた驚きの内容だった。


 『もしも現在位置や近くの町の場所を知りたければ魔法を使えば調べられます。ただし、一守さんは代償魔法を通さなければ魔法の行使が大幅に制限されますので注意してください。』


 「良くも悪くも代償ありきってことか……」


 さらに読み進める。


 『普通に魔法を使えば一守さんの希望に沿った規模や精度に比例した代償が自動的に支払われますので難しくはないと思います。ほぼ全ての魔法を扱える筈なのでどうかうまく利用してください。使用できる魔法の種類を知りたければステータスの項目に乗せておきましたのでご覧になってください。頭の中で「ステータス」と念じれば情報が出てきますので。 追記:くれぐれも力加減には気を付けてくださいね』


 「そういう大事なことは最初に言ってくれませんかねえ……」


 溜息を吐きながらステータスを閲覧する。


 ===================================

 時田一守 21才 人間族 男

 ランク ―


 HP:150


 筋力:15

 魔力:50

 技術:20

 耐久:15

 速度:10

 幸運:20


 魔法適正:代償  才能:特大


 特性:不死人

 ===================================


 「こんな便利な情報あったのかよ!」

 と大声で叫んでしまったのは仕方ないだろう。


 ページを切り替えると、代償魔法を通すことで使用可能な魔法の一覧がずらっと並んでいる。

 エレノアに見せられた魔法リストに載っていた魔法が全て載っているのではないかと思うほどの項目の多さに呆然としていた。


 「えっと、まずは近くの拠点になりそうな場所を探さないとな。何か良い魔法は……っとと」


 カズモリが目的地まで案内してくれる魔法はないかと考えていると、膨大な量の魔法の中から『探知魔法』という項目が浮かび上がってきた。


 「絞り込んでくれたのか? 親切な世界だなあ」


 どうせなら最初からこれくらい親切でも良かったのに、と考えてしまっても致し方ないことだろう。

 カズモリは『探知魔法』の中から自分の目的に沿った魔法を探す。


 「これかな? えっと、『我が眼前に道程を示せ』……おおっ!」


 カズモリが詠唱すると、足元から前方の木々に向かって白い光の線が走った。


 「この先に行けってことか? ――凄いなこれ。距離も分かるし、『リバイブ』って町の名前? まで理解できる」


 魔法の便利さを実感したカズモリは歩き出そうとし。


 「あれ? 体が――っ!?」


 そのまま倒れかけた。


 「あれ? 眩暈が、何で急に 耳鳴りまで……」


 体内で何かが失われたという喪失感がカズモリの体を襲ったのだ。

 そこで理解する。

 メモには確かに『魔法を使えば一守さんの希望に沿った規模や精度に比例した代償が自動的に支払われます』と書かれていた。


 つまりこれは、カズモリが望んだ情報を表示するために必要な対価だったということだろう。


 「クソッ 貧血か? これだけ正確な情報の代わりに血を捧げたってことか?」


 この症状はそれで説明がつくな、とぼんやり考えていると、少しづつ異常が治まってきた。


 同時に喪失感も薄らいでくる。


 「ふう、やっと落ち着いた…… これ、血が戻ってきたのか?」


 疑問に思いながらも再び歩き始めたカズモリは、取り出すのを失念していた『魔石』をアイテムボックスから出してみた。


 それはあの獅子を倒した時の戦利品となった石だった。


 「いつの間に入ってたんだ? って言ってもエレノア様か」


 それにしても『魔石』とは一体何なのだろうか? 

 そんな疑問が浮かんできたカズモリの脳内に、別の魔法が浮かんできた。


 「何これ? 調査魔法? そんなものまであるのか……」


 ついでにこの魔石が何なのか調べてみようと思い至ったカズモリは、また貧血で倒れかけても困る、ということで別の代償を払うことはできないかと考える。


 「うーん、左手の、小指でも捧げてみようか。戻らなかったら一度死ねば再生されるだろうし」


 と、ほんの一日前の自分なら考えもしなかったことを口に出す自分に内心驚きながら、調査の魔法を行使する。


 「『眼前の正体をわが身に記せ』と……魔物の魔力が結晶化した物体?」


 すると魔石の情報が頭の中に流れ込んできた。それほど多くはないものの、カズモリが知りたかった情報は粗方知ることが出来た。


 「『用途は魔法の行使時に不足してる魔力の代用、もしくは体内に取り込むことで結晶化する以前の魔物の力をその身に宿すことが可能。ただし、急激な魔力の増加は拒絶反応を起こす可能性が高いので要注意』……ええっ!? そんな凄い石だったのかコレ?」


 想像していたよりも立派な石だった事に驚きながら、左手に違和感を覚える。

 目をやると、代償として捧げた左手の小指がサラサラと粒子になって消失していった。

 根元まで消えたところで止まったが、血の一滴すらも出ていない。

 まるで元々無かった様な錯覚を覚えたが、直ぐに別の違和感を覚え、小指を注視する。


 すると、確かに代償として消失した小指の生えていた部分に粒子が集まり、まるでDVDの巻き戻しのように再生しつつあるという現象が映った。


 「死んでなくても少しづつ再生されるのか……さっきの貧血が治ったのもこういうことね」


 死ななくては再生が始まらないものだと考えていたカズモリは、自身の肉体への信頼を更に強いものにしたところで調査したばかりの魔石に意識を戻す。


 「取り込めば魔物の力を……拒絶反応とか大丈夫だよな? 不死だし」


 仮に問題が起きても死ぬことはないだろうと思い、魔石を自分の胸に当ててみる。

 すると、抵抗することなく魔石はストンと体の中に収まっていった。


 一拍遅れて、ドクン、と鼓動が高鳴った。


 血流が加速し、通常では考えられないほどの速度で体内を駆け巡る。

 苦痛こそ感じないものの、体内を未知の物体に支配されていくような感覚に必死に耐える。


 「――っ! ふ、はぁ、くあぁ……!」


 ぎりっ、と歯を食いしばりながら違和感に抗い続ける。


 どれだけ経っただろうか。気が付くと体の異変は消えていた。

 その場に蹲っていたカズモリは体を起こし、荒い息を整える。


 「ふう、ふう、終わったのか? 今のは、成功でいいのかな?」


 ステータスを確認してみると、その違いは一目瞭然だった。


 ===================================

 時田一守 21才 人間族 男

 ランク ―


 HP:2150


 筋力:180

 魔力:140

 技術:180

 耐久:200

 速度:300

 幸運:20


 魔法適正:代償  才能:特大


 特性:不死人

 ===================================


 「いやいや待て、どんだけ強かったんだあのライオン!」


 総合的に十倍近くは能力値が上がっている。


 速度に至っては三十倍というインフレっぷりだ。

 カズモリが自分の目を疑い二度、三度と数字を確認するのも仕方ないだろう。

 とはいえ、未だに誰かのステータスと比べていないのでこの世界の平均的な能力値というのが分からず、強いのか弱いのか判断できないところであった。


 そんな事を考えながら歩いていると、目の前でようやく森が途切れていることに気付く。


 森を抜けると、明らかに整備された道に出た。

 アスファルトではないが人が通るには十分な広さがあり、左右に続いている。


 光の線は右に向かって伸びており、その先には確かに街の様なものが見える。

 あれが『リバイブ』なのだろうと確信し、カズモリは再び歩き出した。


 およそ十分後、カズモリは街の正面に辿り着いた。


 眼前には自身の三倍ほどの大きさの門が設置してあり、その横には小さな勝手口のようなドアが見える。


 門の前には門番と思われる鎧装備の壮年の男性が二人立っており、カズモリを見るなり駆け出し、警戒しながらこう質問してきた。


 「おい! 君、そんな血塗れで大丈夫か!?」

 「え? あ! いえ、これはその、返り血ですので、何の問題もありません……よ」


 どうやら自身と獅子の血で真っ赤に染まったカズモリの全身に反応したようだ。

 すっかり失念していたカズモリは当たり障りのない言い訳で切り抜けようと弁解する。

 門番達はカズモリをじっと観察していたが納得したらしく、警戒を解きホッと息を吐く。


 「そうか、いや良かった。普通に歩いてきたので問題は無いだろうとは思ったが、魔物が化けている可能性もあったからな」

 「えっと、もう疑ってはいないんですか?」

 「ああ、これでも十年以上はこの仕事をしているからな。近くで見れば人か魔物かの区別はできるさ」


 ハハハ、と笑う門番は更に質問をする。


 「君はこの町は初めてみたいだな? 冒険者志望か?」

 「は、はい。冒険者になるには何処に行けばいいんでしょうか?」

 「ん? それなら冒険者ギルドに行けばいいさ。街に入って右手に見える大きな建物さ。看板があるから直ぐに分かると思うぞ」


 そう教えてくれた門番は勝手口を開けてカズモリを中に通す。


 「ほら、あれが冒険者ギルドだ。中に入って受付に行けば後は流れで登録できるはずだ」


 そう言って指差した方向には三階建てと思われる大きな建物が見えた。

 目立つ看板に書かれているのは日本語ではなかったが、カズモリは『冒険者ギルド リバイブ支部』という書かれているのだと読み取ることが出来た。


 「ああ、最後に一つだけアドバイスだ。死ぬなよ、生きていれば何度でもやり直しができるんだ。自分の命だけは何があっても大事にしてくれ」


 それだけ言うと門番は「それじゃあな」と手を振ってドアの向こうへ消えていった。


 「命を大切に、か……」


 既に数回死亡した体を見て何とも言えない気持ちになりながらも、カズモリは親切な門番に内心で礼を言いながらギルドへと歩き出した。

 やっと拠点となる街に到達しました。

 長かった……


 思ったよりも筆が進まずにグダグダしましたがここから本格的にカズモリの冒険が始まります。


 どうか次回もご覧になっていただければこちらとしても嬉しい限りです。

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