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三話~魔法適正~

 目を覆いたくなるような眩い光が収まり、目を開けるとそこは待ちわびた出口。

 ではなくつい最近訪れた相談室だった。


 「……」

 「……」


 カズモリは何故か前回とは違う真っ白なソファーに座りながら、これまた何故か申し訳なさそうな顔をしている目の前の神様にどう話しかけたらいいか迷っていた。


 「……あの――」

 「済みませんでしたっ!」


 と、残像が見えるほどの速さで頭を下げて謝罪をしてきたエレノアにカズモリは慌てて頭を上げるよう懇願する。


 「え? ちょっと、エレノア、様? とりあえず落ち着いてください! 一体何に対して謝っているんですか?」


 そう言うとようやくエレノアは頭を上げ、おずおずと話を切り出した。


 「一守さんを召喚する場所を間違えてしまいました……」


 曰く、本当は安全な街の近くに召喚するつもりだったらしいが、ちょっとしたミスで離れた山の中に送ってしまったらしい。

 カズモリがこれから体験する冒険にワクワクしていたらうっかり手元が狂ったらしい。


 実はこの神様結構ポンコツなんじゃないかと思ったが、流石に二度目の人生(しかも不死というおまけ付き)を頂いておいてそんなことを言うのは憚られたので口を噤む。


 「単に山の中に送っただけならばそこから再度転送することも出来たのですが……私が一守さんを探している間にダンジョンに落ちてしまったらしく……」


 曰く、ダンジョンの中は魔物の気配や魔力なんてものがかなり濃い場所らしく、そこからカズモリの存在だけを探すのは流石の神様にも不可能だったらしい。


 しかし、カズモリが出口に向かう魔法陣に足を踏み入れたことでようやくその存在を感知できたらしく、急いで謝罪と賠償をするためにここに呼んだらしい。


 「今回は完全に私の不手際なので、何かお詫びをさせて頂きたいのですが……」

 「いえそんな、お詫びだなんて、確かにビックリしましたがお陰様で自分が不死身ということも理解できましたし」


 カズモリがそう言ってもエレノアは。

 「いいえ! ここで何のお詫びもしないなんて神の名折れです!」

 とやたら可愛らしく張り切るばかりで引き下がろうとしない。


 すると突然、頭の上に電球が見えるほど分かりやすく『良いこと思いつきました!』とでも言いそうな顔をした。


 「そうです! 良いことを思いつきました!」


 本当にそのままだった。

 コホン、と仕切りなおすように咳払いをしたエレノアはカズモリに対して話を切り出した。


 「一守さんが転生した世界では魔法というものがあります。まあ貴方の希望に合わせた世界を選んだので当然なのですが、あの世界で暮らしている全ての生命にはそれぞれに『魔法適正』というものがあります」


 「魔法適正、ですか?」


 聞き慣れない単語に思わず聞き返すカズモリにエレノアは更に解説を続ける。


 「はい。これは一言で説明すれば『魔法を扱う才能』のようなものです。『火』という魔法に適性を持つ者は火属性全般の魔法を扱う才能がある。ということですね。まあ同じ『火』の適性がある生命でも個々に才能の差はありますが、まあ魔法を使う力、魔力の方向性のようなものだと思っていただければよろしいかと」


 そう一度に説明すると、エレノアはいつの間にか手に持っていた用紙の束をカズモリに渡す。


 「一守さんには本来『光』と『風』の魔法に適性がありましたが、今回は特別にこのリストの中から好きな魔法適正を選んでください」

 「選ぶって、生まれ持った適性を変えることなんてできるんですか?」

 「はい。ここにいる貴方は肉体から離れた魂だけの存在です。肉体という器に収まっている魂は無理ですが、今のあなたの魔法適性を変えることは造作もありません。」


 もっともな質問にエレノアは「これでも神ですから」と胸を張りながら答えた。

 どうしてか初めて会った時よりも随分俗っぽい印象を受けたが、これがエレノアの素なのかもしれないとカズモリは勝手に納得し、リストに目を通した。


 「…………」


 カズモリは予想以上のバリエーションの多さに驚いていた。


 先程聞いた『火』や『光』、『風』の他にも『水』や『闇』などゲームでよく目にする属性はもちろんだが、『打撃』や『切断』、『刺突』といったものから『重力』や『時空』、挙句には『死』や『奇跡』という概念のようなものまである。


 驚くカズモリにエレノアは解説をする。


 エレノア曰く、このリストは世界が誕生した時から今までの全ての適性を網羅しているらしく、今代に至るまで一人しか持っていない適性も載っているそうだ。


 余りにも選択肢が多く、決めかねていたカズモリはふと浮かんだ疑問を口にする。


 「あの、この適性を持っていない魔法っていうのは使うことはできないんですか?」


 もしも適性外の魔法は使えないのなら尚更慎重に選ばなければならなくなる。

 そう思ったカズモリだが、エレノアは微笑みながら否定する。


 「いえ、適性外の魔法も行使すること自体は問題ありません。才能の壁を努力で埋める人も少なくないですよ。『火』の適性しか持っていなくても他の魔法を実用的なラインで行使することはできます。ただ、やはり同じ努力をすると適性の有無は如実に表れてしまいますが」


 (つまり、頂上まで階段で登るかエスカレーターを使うかの違い……いや、才能にも差はあるって言ってたし本当の天才ってのはエレベーターってレベルまで到達してる人もいるんだろうな)


 何となく理解したカズモリは安心して再びリストに目を通す。

 すると、無性に目を惹かれる項目があった。


 『代償』


 抽象的過ぎてどんな魔法かピンと来なかったカズモリがエレノアに聞くと、少し困ったように答えた。


 「『代償魔法』ですか……自身の肉体や精神、魂そのものを文字通り『代償』として消費することで通常とは規格外の結果を生み出す魔法のことです。通常なら掌サイズの火球しか生み出せなくても何か代償を差し出せば限界を超えた規模の炎を生み出すこともできます。――もっとも、適性のない人なら数倍の威力にするだけでも残りの人生を犠牲にする覚悟が必要ですが」


 「つまり、差し出す代償と結果が個人単位だと釣り合わないってことですか?」

 「はい。その代わり、適性がある人は皆この世界に何かしらの功績を遺した偉人となっていますね。その気になれば最上位の概念魔法ですら行使できる適性ですから。それだけに扱いは気を付けなければいけません」


 そこまで聞いたカズモリは考える。

 この魔法は、自分の不死の体と最高の相性ではないかと。


 「あの、この体で代償魔法を使用した場合ってしっかりと再生するんでしょうか?」

 「はい。一守さんの不死性は魂の奥深く、時田一守さんという存在そのものに定着させているので、例え魂の一片も残さず消滅したとしても『時田一守』さんという存在を保つために必ず再生されるようになっています」

 「つまり、ノーリスクで使えると?」

 「えー……そうなりますね」

 「これでお願いします」


 考えるまでもなかった。

 例え他の適性がなくてもこの魔法一つあれば十分過ぎるほど代用が可能なのだ。


 (これなら、これからの冒険もきっと楽になるに違いない!)


 高揚する気分を抑えきれないカズモリにエレノアは。


 「……分かりました。それでは、一守さんの魂に代償魔法の適性を施します。」


 そう告げると一呼吸してからこう続けた。


 「ですが、くれぐれも扱いには気を付けてください。代償魔法は説明したとおり、その気になれば取り返しのつかない惨事を引き起こす可能性もあります。一守さんがこれからあの世界でどんな生活を送るかは想像もできませんが、必ず貴方にとって大切な人ができる筈です。どうかその『大切』まで巻き込んでしまわないことを祈っています」


 「……はい」


 カズモリの返答に納得したのか、エレノアは両手をカズモリへ向けた後、詠唱を始めた。

 言語は解らないが、恐らくは魔法適正の書き換えを行っているのだろうということは理解できた。

 カズモリ自身の魂の奥が変化したような、元々あったものが別の何かに変化していくような違和感を感じたからだ。


 そのまま意識が薄れ、またあの世界へ戻っていくのだと感じる。

 するといつかのように。


 「頑張ってください」


 そんなエールが間違いなく聞こえた。

 

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