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悪堕ち勇者達で滅亡寸前な世界の神官事情  作者: イマノキ・スギロウ
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第3話「勇者が現れた」

「勇者だー!、勇者が現れたーー!!」

「急いで住民を避難させろ!」

「衛兵隊は避難が終わるまでなんとしても勇者を押しとどめるんだ!」


 勇者が襲って来たって事はあれか? 例の悪堕ち勇者って事か?


「マサシさん、悪いけど一人で神父様のところに行いける?」


「ちょっとまて、ルアスはどうするんだ?」


「私はこれでも街を守る衛兵だから、」


「けど、勇者なんて呼ばれる奴に向かって行ったらやられちまうんじゃ…」


 マサシの問いかけに一瞬だけ黙り込んだ後、ルアスはニコっと笑顔を作って言った。


「……もー、マサシさん、さすがに失礼だよ? 大丈夫。マサシさんや神父様が逃げるだけの時間は絶対稼いで見せるから」


「いや大丈夫じゃないだろそれ、」


 マサシの視線の先には必死に虚勢を張って笑顔を作るルアスの顔ではなく、恐怖に震える彼の足があった。 


「私にできることはこれくらいしないから」


「よし、俺も行く」


「ダメ! あなたが死んだらこの世界の希望が本当に無くなっちゃう!」


「その希望になる為に俺は来たんだろ? だったらここで逃げるようじゃ希望になんてなれねーよ」


「でも、」


「じゃあ約束だ、俺は死なないように努力するから、ルアス、お前も死なないように努力しろ。それなら良いだろ?」


「全然良くないよ! ヘタしたらほんとに死んじゃうんだよ!? いいから今は逃げてよ!!」


「……あーごめん、もうそれ無理そうだわ」


 二人が会話をしている間にいつの間にかルアスの背後にルアスと同じような皮鎧を着た衛兵達が吹っ飛んできた。


「ぐ、あぁ、」

「ほ、骨がぁ、」


 かろうじて息はあるようだったが、頭から血を流している者や腕や足があり得ない方向に曲がっている者など、とても戦える状態ではないのは見るまでもないことだった。


「ああぁん? まだクソ雑魚が残ってたのか?」


 衛兵たちが吹っ飛んで来た先から大柄な体格の人物がゆっくりと姿を現した。

 姿を見せた人物は女性だった。

 身長は余裕で2メートルに届く長身で、下はしっかり着込んでいるのに上半身はなんというか、ビキニアーマーとでもいえるような軽装と網タイツを合わせたような恰好で鍛冶屋のおっさん並みに筋骨隆々なのに十分グラマラスと言えるだけの肉付きの良い身体をしたブラウンのウェーブした髪が特徴の美人さんだった。


「あれが、勇者?」


「そ、そうだよ、あれはたしか女勇者のリコエラだ」

 

「ちょうどいい、お前らこの街の教会がどこか知ってるか? 素直に教える気があるんだったら一発殴るだけで勘弁してやるぜ?」


「きょ、教会?」


「知ってんだったらさっさと言え、知らねーんだったらさっさと死ね」


「あ、いや知ってます」


「ちょ! マサシさん!」


「いいから話合わせてくれ、隙を見てスキルを使ってみる」(小声)


「…わ、わかった」(小声)


「なにごちゃごちゃ話してんだ? 言う気がないならとっとと死ね!」


 女勇者リコエラはいきなり手に持っていた大剣を振りかぶり、マサシ達に向かってゆっくりと歩きながら斬りかかって来た。


「ちょっ、まてっ、教会の場所わかんなくていいのかよ!」


「とりあえず家を一個ずつぶっ壊していけばいずれ見つかるだろ」


「そんな脳筋(バカ)な!」


「はあ!」

「っ!」


 ガキィィン!


 リコエラが大剣を振り下ろそうとした瞬間、ルアスが腰に下げていた剣を抜き放ち、その剣を防ぐために、リコエラは大剣の軌道を変化させた。


「マサシさんはやらせないよ」


「へえ、このあたしとやろうってのか。面白れぇ!!」


 標的を俺からルアスに変更したリコエラは大剣を構え、ルアスとの戦いを開始した。

 ルアスはマサシが想像していたよりもはるかに早く動き、リコエラの攻撃をギリギリで躱しながら斬り返しで反撃まで加えていた。


「なかなかやるじゃねぇか! 本気で行くぜ!」



 うそ!? 今の段階でもリコエラとルアスの動きを目で追うのがやっとだったのに、まだ本気じゃなかったの!?



「そらそらそらそら! ぶった斬れろおらぁ!!」


 本気と言ったリコエラの言葉に偽りはなく、さっきよりもさらに早い剣速で大剣を振り回し、ルアスは 躱すのがやっとの状態に追い込まれた。


「くう、は、早い、」

「おら死ねぇぇぇ!」


 ルアスが斬撃を躱してわずかに動きが硬直した瞬間、リコエラはトドメの一撃を加えようと剣を振りかぶった。

 

「させるか! スキル発動!」

「なに!?」


 リコエラの素早い動きになかなか発動のタイミングを計りかねていたマサシだったが、ルアスにトドメを刺そうとしてリコエラも動きが遅くなった隙をついてスキルを発動させた。


「があぁぁぁぁぁぁ!!」


 【浄化の光】が発動してリコエラが光に包まれてい、って俺もなんか光に包まれてる!? 

 あぁぁぁぁぁぁぁ!!   



「マサシさん!」

  


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 


 リコエラと一緒に光に包まれたマサシは奇妙な空間にいた。


「なんだここ?」


 足元には大きな泡のようなものがいくつも点在してふわふわと漂っていた。


「この泡なんだ?」

 

 バチッ!


「うわ!」


 泡に触れようとした瞬間、静電気の数倍はある衝撃が手に発生し、マサシは慌てて、手を放した。


「今のは……、」


 衝撃で弾かれる瞬間、マサシは確かに見た。多少ちいさくはあったが、リコエラ姿が確かに見えた。


「…………あれが俺の考え通りの代物だとしたら、」


 マサシは再び泡に触れ、そしてまた強い衝撃が発生する。


「いっつ、けど、さっきよりもよく見えた」


 二回目に泡に触れたマサシは先ほどよりも多くの情報を読み取ることが出来た。


「やっばりこれは、リコエラの記憶か」


 二回泡に触れたマサシはリコエラの幼少期から勇者になるまで過程を断片的に読み取ることが出来た。


「でもこれってどう意味があるんだ?」


 ひとまず三度目は別の泡に触れてみたマサシはそこで驚くべき光景を見た。


 ・

 ・

 ・

 ・ 


「ああ!! やめて! あたしのお人形を返して!」


「リコエラ! お前は勇者の素質があるんだぞ! いつまでもこんな小さい子どものおもちゃで遊んでいるのではなく、もっと勇者としての実力を磨く鍛錬をせんか!!」


「いやぁ! あたしは勇者になんかなりたくない!」


「なにを言う! 勇者になればお前は国に召し抱えられ、我が一族はますますの繁栄を約束されるのだぞ!? お前のわがままなど聞いている時ではない! 何が何でも鍛錬は始めるぞ!」


「いやー! お父様なんて大嫌い!!」


 ・

 ・

 ・

 ・ 


「今のって昔のリコエラと父親の会話か?」


 再度泡に触れたマサシの視界に今度は別の場面が飛び込んできた。


 ・

 ・

 ・

 ・ 


「くそっ! 離せ!」


 今の姿と変わらない背格好のリコエラがうねうねとうごめく黒い触手に縛り上げられ、その拘束から抜け出そうとリコエラは必死にもがくが、触手はびくともしない。 


「……抵抗は無駄だ」


「お前が魔王か?」


「……答えろ、お前はなんの為に戦っている?」


「なんの為? そんなもの勇者として人々の安寧の為に、」


「……嘘だな」


「な、何が嘘なものか!」


「……お前は嫌々勇者をやっている。違うか?」


「そんなことはない!」


「……無理に偽る必要はない、私はその触手に触れている者の考えが手に取るようにわかる」


「人の心を覗き見るっていうのか?」


「……そうだ、そしてお前は自分が勇者になる事を強要した者達を心の奥底で恨んでいる」


「そ、それは、」


「……隠さなくていい、お前は叶わぬ想いを押し殺し、その怒りすら封印してずっと自分を偽ってきたのだろう? そんな生き方を強要した者達をなぜ助ける必要がある?」


「お父様は、わ、私の勇者の力を伸ばしてくれた。その恩を返すために」


「……その力を使うかどうかはお前が選ぶことだろう? 好きに使えばいいではないか?」


「私は勇者だ、そんな自由に生きるなど、」


「……出来る、それが出来るだけの力をお前は持っている」


「そ、そんな、そんなことをしたら、」


「……邪魔をする者は倒せばいい。私とともにお前がしたい生き方を選べば良い、」


「私がしたい生き方……?」


「……お前が望むならばお前の邪魔をする全てを排除して好きな事を自由に出来る世界が手に入る」


「す、好きな事を出来る世界?」


「……さあ、手を取れ、お前の望む世界を見せてみろ」


「…………、」


 ・

 ・

 ・

 ・


「なるほど、この後にリコエラは悪堕ちしたってわけか」


 泡から読み取れるイメージを見終わったマサシはリコエラが悪堕ちするに至った原因がどういうものだったのかを大体理解した。


「で、これを知ったとして、どうすりゃいいんだ?」


《奴に付け込まれた彼女の心を引き戻してあげればいいんだよ》


「わ、びっくりした。今の女神様?」


《ぴんぽーん、君がスキルを使用してくれたから一時的にこっちに干渉が出来てるんだ。時間が無いから手短に言うけど、ただスキルを使うだけじゃ、彼女は解放されない。理由を調べた上で彼女がこっち側に戻りたいと望むように君が導いてあげないといけないんだ》


「導くって言っても、どうすれば?」


《そこを考えてもらうために君を呼んだんだよ。この世界の人間に出来る発想ならこの世界の人間で済ませてるトコだけど、それじゃダメだったからね》


「あ、もう失敗してるんだ」


《うん、だから頑張ってね》


「気楽に言ってくれるなぁ」


《そりゃ私はそうほいほい世界に干渉は出来ないからね 君だけが頼りだ! このさらに下の方にこの勇者の心の中心があるから、説得はそこでやってごらん》


「……とりあえず、やってみます」


 女神様との話を終わらせ、俺は言われた通りリコエラの心の中心に向かって進んでいくことにした。



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