第2話「タミツナの街にようこそ」
ルポ神父に連れられて俺は街の中にある教会にやってきた。
教会に入ると、ルポ神父はお茶を用意してくれて、俺と神父、それから神父と一緒にいた鎧の美少女の三人でティータイムとなった。
「タツミナの街へようこそ、では、さっきも話したが、改めて自己紹介をしておこう。この街の神父をしているルポ・ユーグストじゃ、よろしくの」
「俺は女神に頼まれてこの世界に来た新井 正志です」
「マサシ殿じゃな、わかった。 ああ、それからこっちはこの街を守る衛兵のルアスじゃ、仲良くしてやってくれ」
「よ、よろしくお願いします」
「こっちこそよろしく」
美少女と仲良くしたくない奴なんてまっとうな男ならまずいない。よろこんで仲良くするぜ!
「では、本題に入るが、お前さん何をするかは女神様から聞いておるかの?」
「寝返った勇者をこっち側に戻すって聞いてますけど、」
「ふむ、それは知っとるか、ではこっちの世界についての知識はあるかの?」
「特にはなにも聞いてないですね」
「そうか、ではしばらくはこの街でいろいろと学びながら勇者に対抗する術を教えて行こうかの」
「そうですね、それでお願いします」
「ふむ、ではもうすぐ日も暮れるし、ルアス、マサシ殿を湯殿に案内して差し上げてくれ」
「あ、はい、わかりました」
「マサシ殿、夕食の支度をするからその間にルアスと一緒に湯あみをしてきてくれ」
なんですと!?
聞き間違いでなければこの美少女と一緒に風呂に入ってこいと言ったぞこの神父?
いいのか? いくら異世界とはいえこんな美人さんと一緒に風呂って……、
「マサシさん、こちらです。 どうぞ!」
ルアスは扉を開けてにっこりと笑顔で俺が来るのを待っていた。
……異世界バンザイ。
「はい行きましょう! すぐ行きましょう!!」
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十数分後……。
「どうじゃった? 広くてゆったりできる湯殿じゃったじゃろ?」
「……ええ、まあ、」
「どうした? なにか元気がないのう?」
「私と一緒にお風呂に入ってからずっとあんな調子なんです」
「ルアス、なにか気に障るようなことでもしたのか?」
「い、いいえ? ちゃんと失礼のないようにマサシさんの背中を丁寧に洗わせていただきましたし、お湯に浸かっている間もきちんとそばでなにか用があれば対応できるようにずっと付いていましたよ」
……ああ、確かに付いてたな。
「ふむ、分からんのぅ、マサシ殿なにか嫌な事でもあったかの?」
「……パオーンがあったのが嫌だった」(小声)
「なに? すまん、よく聞こえなかったんじゃが、もう一度言ってくれんかの?」
「……いや、誰かと一緒に風呂に入ると気を使っちまうから今度から一人で入らせてくれないかな?」
「おぉ、そうじゃったか、マサシ殿がそう望まれるなら次からはそうしよう」
「頼みます」
「とはいえ、同じ男同士なのじゃから機会があればこれからもぜひルアスと一緒に風呂に入ってくれ」
「……まぁいずれ」
くっそー! 完全に容姿に騙された!! なんの躊躇もなく鎧を脱いだ時点で気づけばよかった!!
「さて、では食事にしようかの」
ルポ神父の用意してくれた食事は野菜の入ったスープと黒パン、何かの焼肉数切れあとはミルクだった。
「神父様、私の分まで良いんですか?」
「ここのところ衛兵連中もろくなものが食えてないと聞いたからの、他の連中には秘密じゃぞ?」
「は、はい、ありがとうございます」
「ろくなものって、そんなに食糧不足なのか?」
「……このあたりはまだマシな方じゃ、魔王軍の勢力圏に近い街や村はもうろくに食える物がないとの噂じゃ」
「だ、だからこそ女神様がマサシさんを遣わしてくださったんです! 人々を救う為にも寝返った勇者達を元に戻せる力を持ったマサシさんがなんとかしてもらえればきっと!」
「そうだな、そのためにもマサシ殿には明日からいろいろな事を知ってもらわねば」
「わかったよ。それよりまず食べようぜ、せっかくのあったかい食事が冷めちまう」
そうして食事を終えた俺はルポ神父に用意してもらった寝室のベッドで眠りについた。
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翌朝、俺は陽の光と外から聞こえる声で目を覚ました。
「……」
「……ぁ!」
「…やぁ!」
「……なんか誰かの声が聞こえるな、」
のっそりとベッドから抜け出して窓の外を見てみると、そこには木剣で素振りをするルアスの姿があった。
「あ、マサシさん、おはよう!」
「ああ、おはよう」
「昨日はよく眠れました?」
「寝心地は良かったよ」
「よかった」
「……一つ聞いていいか?」
「なんですか?」
「ルアスってその、まわりの人から女の子みたいって言われない?」
「! ……やっぱりそう見えますか?」
「うん、悪いんだけど、最初見た時俺も勘違いしてた」
「分かってはいるんですけど、なんというか、私、その普通の男の子の振る舞いがどうしても好きになれなくて、むしろ女の子たちが好むものをいいなぁ、って思っちゃうくらいなんです。そのせいで衛兵仲間からもバカにされる事が多くて、上官からもよく怒られたりしちゃって、はは、ダメですよね私って」
「あー、そういう感じか」
元の世界でもそうだったが、こういうタイプの人間は大抵周囲の人間からの理解を得づらい。俺個人としては別に肯定も否定もするつもりはなく、それは本人の問題だと思っている。 実際話を聞く限りでは性格異常者でない限り多少考え方違うだけでそれ以外は普通の人となんら変わることのないだから接し方も特段変える必要などないと思う。現にこうしてルアスは意識しなければ普通に会話ができているしな。
「ルアスがそうしたいならその生き方でもいいんじゃないか?」
「え? で、でも変でしょ? こんな女の子みたいな衛兵なんて」
「可愛いんだしいいんじゃないか? それで誰かに迷惑かけてるわけでもないし、周りに迷惑をかけないのであればルアスがしたいように生きてもいいはずだぜ」
「……いいのかなぁ?」
「どっちにしろいきなり男っぽくなれって言われても無理だろ?」
「うん、たぶん出来ない」
「じゃあ好きな生き方を選んだほうがよっぽど良い」
「…………マサシさん、ありがとう。なんかとっても気持ちが軽くなった」
「どーいたしまして」
社畜してたせいか、つい自由な生き方をしろとかなんて言っちまった。本来俺が言える事じゃないけど、まぁ、ここ異世界だし、いいか。
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昼になって俺はルポ神父に言われてルアスとともに街を見て回る事になった。
「まずはこの街の事を知る事から始めよう。戻ってくる頃に勇者やそのほかの事について説明できるように準備をしておくから楽しみしておいてくれ」
あれって絶対準備が間に合わなかったからその間出掛けて来いってことだよな。
まぁ、別にそれはいいよ。けど、贅沢いうんだったらせめて道案内は女の子が良かったです。
今朝の一件からなんかやたら俺にくっつくようになったルアスに引っ張られる形で俺は街を案内されていた。
「こっちに行くと街の商店が集中している通りがあって、その先にあちこちからやってきた行商人が開く市場があるんだ。今は街に来る行商人も減ってて、市場も寂しくなっちゃってるけどね」
「なるほど、で、この店は?」
「ここは鍛冶屋だよ、私の行きつけのお店なんだけど、用があったのと、ちょうど私の剣を砥ぎに出してたからついでに受け取りに来たんだ」
「なるほど」
ルアスに連れられて鍛冶屋に入ると、内部は外と比べて確実に数度は高い気温でむわっとした空気に包まれた。
「おじさーん、いますかー?」
ルアスが大きい声で店の人を呼ぶと中から筋骨隆々でタオルを頭に巻いたいかにも職人って感じの青髭のおっさんが出て来た。
「…おう、ルアスか、出来てるぞ」
「ありがとうございまーす」
おっさんから剣を受け取ったルアスは財布の袋を取り出してお金を出そうとした。
「思ったより状態がよくて手間がからなかったから銅貨2枚分まけてやるよ」
「え! いいんですか?」
「ああ、今後ともごひいきにしてくれればそれでかまわん」
「ありがとうおじさん!」
「……ふん、また来い///」
顔は厳ついけど、このおっさん完全に頬染めて横目にルアスを見てやがる。行きつけの店という事はルアスが男だという事は知っているはず、
と言うことはこのおっさん……、や、やべぇ。
「あ、あとおじさん、この人に武器を一つ作ってほしいんだけど、」
ルアスが話の矛先を俺に向け、おっさんの鋭い眼光が俺を捉えた。
じぃぃ~~~。
おっさんに見詰められた俺は尻に冷たい物を感じながらも失礼が無いように口を開いた。
「あの、マサシと言います。よ、よろしく」
「…………ふん、悪くわないがひょろいな」
何が? 何が悪くないんだ!? 怖ぇ、ガチで怖ぇ!!
「それで、どんな武器が良いんだ? 剣か? 槍か?」
「ロッドをお願いしたいんですけど」
ルアスの注文におっさんの眉毛がわずかに吊り上った。
「ロッドっていうと神官が使うあれか?」
「うんそれ!」
「ロッド本体は作れるが、力を込める儀式は俺じゃどうにもできんぞ?」
「それは神父様がやってくれるそうだから大丈夫」
「分かった。五日、いや四日くれ。必ず仕上げておく」
「お願いします」
「まかせろ」
おっさんへの注文を終え、戻ってきたルアスに連れられて俺は店を後にした。
「待たせちゃってごめんね。ロッドが完成したら神父様に力を込めてもらうから、そうしたらマサシさんでも十分使える武器になるはずだよ」
「まだ使い方もわかんないけどな」
「それはこれから順に説明していくから安心し、」
どぉぉぉぉん!!
「なんだ!?」
突然大きな爆発音とともに背後に広がる街の先で灰色の煙が上がっていた。
「逃げろー! 襲撃だー!」
「襲撃!?」
「勇者の襲撃だー!!」