第1話「神官になってもらいたいんだ」
不定期で更新していきます。
【勇者】ファンタジーな世界で人々を危機から守る為に常人ならざる力や能力、発想や方法で人々を救済する者たちの総称。
【悪堕ち】主に世界を救う為に悪に挑む勇者やそれに該当する者達が悪に屈し、自身も悪の手先になってしまう事を俗に悪堕ちと呼称する。
異世界に召喚されて魔法を使ったりファンタジーな冒険してみたい。そんな中ニ病のような考えを一度は誰しも考えたことはないだろうか?
はい、俺もしましたそんな考え。 そして叶っちゃいました。
ただ…、 社会人になってから叶わなくても良いだろうに!!
今から数時間前、いつものように会社に出勤しようとした俺、新井 正志は駅の改札を抜けたつもりが突然妙なトンネル空間に迷い込み、明るい方に向かったらなんか出口で羽の生えた妖精みたいな女の子に迎えられた。
《いらっしゃーい!》
ずいぶんと露出度の高い服を着ているせいでなんかいかがわしい店みたいだ。
《とりあえず初めまして》
「あーはい、初めまして」
《突然呼び出してごめんねー。でも君の才能が飛びぬけて高かったのと、もうこっちの方にそんなに余裕がなかったのもあって、慌てて呼び出しちゃったんだ》
「才能? 余裕がない?」
《あーうん、急に言われてもわかんないよね。えっとね、かいつまんで説明すると、私ってば一応女神やってるの》
「女神様なんですか?」
《そう、で、私が治めてる世界が今やっかいなことに滅亡の危機にあってね、その世界に居る勇者達じゃちょっとどうにもできそうにないんだよね》
「魔王でもいるのか?」
《うん、そう名乗ってるのが居るね》
「で、ここに俺が呼び出されたって事はもしかして、」
《そう、君に私の世界を救ってほしいんだ》
「それは、俺に勇者の力があるって事?」
《勇者…? いいや、違うよ。君には神官になってもらいたいんだ。その才能があるから呼んだわけだし》
「神官?」
神官ってあのお祈りしてるか回復やってるくらいしかできない勇者パーティでも馬車要員になりがちなあの?
「あのー失礼だとは思うんですけど、世界を救うんだったら神官より勇者の方が使えるんじゃないの?」
《いやいや、私の世界じゃ勇者なんかより神官の方がずっと希少な存在なんだぜ? それに今さっき言っただろう? 勇者じゃどうしようも出来ない状態だって》
勇者にどうにも出来ないものをどうして神官がどうにかできるのだろう?
《ぶっちゃけて言っちゃえば私の世界では勇者は自然発生でちらほら生まれてくるんだよ。だから私が必要としているのはそれ以外のなかなか生まれてこない才能や解決手段をもった存在なんだ》
「……言ってる事がよくわかんないです」
《んーと、じゃあ少し長い話をするよ》
女神様から聞いた話はどうにもめんどくさい物だった。女神様が治めている世界では、それぞれの国が一人は必ず勇者を保有し、その強さでだいたいのパワーバランスも決まっているらしい。勇者一人と軍隊2万を持つ大国よりも勇者3人と軍隊2000人の小国の方が国同士での交渉や貿易で有利に条件を付けられるという話らしい。
戦術核が勇者に置き換わっただけで、だいたいやってることは元の世界と大差ないのだが、そんなことは今どうでもいい。
問題はその勇者達の大半が現在、魔王を名乗る存在とそれに追従する軍団に寝返ってしまっているという事だった。そう、一部エ〇ゲーでよくある展開、いわゆる悪堕ちという状態になっているそうなのだ。
最初は数人の勇者が魔王を名乗る存在を討伐する為に派遣され、それが戻ってこなかったので数か国で協力し、大規模な討伐隊を編成して再度勇者を派遣した。だが、それすらも戻ってこず、これ以上勇者を失うわけにはいかないという事で人間勢力はなにも出来ずに半年ほどが過ぎた。
そして半年後のある日、最初に勇者を派遣した三つの国に行方不明になっていた勇者達が現われ、モンスターを引き連れて大虐殺引き起こし、それによってどの国も戻ってこない勇者達を全員寝返ったものと判断して残った勇者達はすべて自国の防衛に回した。だが、それで問題が解決するわけもなく、モンスターと悪堕ち勇者に断続的に攻められてどの国も徐々に疲弊し、今では人間の勢力圏は魔王出現時の半分近くまで減っているそうだ。
《で、これ以上ほっとくとせっかくここまで発展した私の世界がまたやり直しになっちゃいそうだから少し手を貸すことにしたんだよ》
「けどなんでそこで神官なんです? 悪堕ち勇者に勝てる勇者を呼べばいいんじゃないの?」
《それじゃその勇者が悪堕ちしたときどうするんだい? またそれに勝てる勇者をとか言ってたらいたちごっこじゃないか》
確かにそう言われるとそうだ。
《それに神官の君に期待しているのは戦闘力じゃないんだ。 悪堕ちした勇者達をこっち側に引き戻すことをお願いしたいんだ》
「引き戻す?」
それって洗脳を解くってことか?
《とりあえずステータスって言ってごらん》
「……ステータス!」
そう唱えた正志の前に半透明のステータス画面が表示された。
名前
【新井 正志】
能力値
体力82/82 魔力62/62
筋力45 瞬発力31 耐久力40 知力62
【異世界言語翻訳】【心の浄化】
「おお、すげぇ」
《この能力値の下にあるのがその人の使えるスキルや魔法だよ。この【心の浄化】というスキルが悪堕ちした勇者を引き戻すのに必要なスキルだから頑張って使いこなしてね》
なるほど、これで洗脳を解除できるって事か
「あのー、それはそうとまだ俺やるかどうか返事してないんだけど」
《悪いけど拒否権はないよ、強制だ。 その代わり、この世界を救ってくれたら君の望みをなんでも叶えてあげよう》
「……それって一つだけ?」
《いいや、よっぽど無茶な要求でなければ全て叶えてあげるよ》
「……分かりました、やります」
《ありがとう。いろいろと大変な思いもするだろうけど、頑張って世界と勇者達を救ってね》
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そうして俺は女神様の世界に送り込まれ、大きな街の近くに降り立って今に至るわけなんだけど、街に行くかどうしようか俺が考えているとそこに誰かがに歩いてこっちに向かってきた。
「神父様、あの人じゃないですか?」
「おお、おそらくそうだろう」
異世界に降り立ったばかりの俺に近寄ってきたのは青と銀色の糸で出来たいかにも僧侶とか神父って感じの格好の人ともう一人はかなり可愛い美少女といった容姿で革製の鎧と短槍をもった子だった。
「もし、失礼だが、お主は女神ミーティアリス様からの使いの者かね?」
「あ、はいそうですけど、」
「おお、やはりか、ワシはそこに見える街で神父をしておるルポという者じゃ、少し前に女神様からお言葉をいただいてな、お前さんがこの世界を救う為に必要な手助けをしてくれとお告げがあったのじゃ」
「そーなんですか、じゃあとりあえずなにすればいいか知ってます?」
「まぁ、立ち話もなんじゃ、しばらくはワシが管理しとる教会でゆっくり話をするとしよう」
そうして俺はルポ神父に連れられて街に迎えられることになった。