表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

銃声

玄関扉の前に立ち、俺は一つ深呼吸をした。


「開けるぞ」

「うん」


戌井が何故か俺の背後に身を潜める。

俺は郵便受けの隣りに置かれている招き猫を手に取る。

良かった、いつも通り猫の腹の中に、鍵が入っていた。


解錠し扉を開ける。

すると、突然けたたましい銃声が鳴り響いた。


「ひいいいぃぃぃい!?」


戌井が絶叫する事により、俺は寧ろ冷静さを取り戻す。

瞑った目を開けると、大量のクラッカーを両手に抱えた母さんが、カラフルな色の紐を被って立っていた。


「んふふ、びっくりした?

ねぇねぇ、びっくりした?」

「母さん、やり過ぎ。

いぬ……瑠衣が死にそうになってる。

というか、近所迷惑だ」

「もぉー。

正義は可愛くないなぁ」


実の息子に向かって、可愛くないとは、何事だろうか。

母さんがスリッパを履いたまま、戌井に抱きつく。


「それに比べて瑠衣ちゃんは、

ほんともう、可愛いなぁ!

もう、瑠衣ちゃんを驚かせる為に一生を費やしたい!」


言葉を返す前に、母さんはスタスタと庭の奥へ去って行ってしまった。


「うちの母が……済まない」

「…………うん」


少しして母さんは、箒と塵取りを持って帰ってきた。


「お夕飯出来るまで、まだ少しかかるから、後は二人で……ねっ」


なんだ、その『……ねっ』は。

だが、二人きりで話さなければならない事が多々有るので、時間を取れるというのなら好都合だ。


「それじゃあ、ただいま」

「……ただいま」

「お帰りなさい!」


扉を開けると、そこは俺の部屋だった。

何も変わっていない。

何も変わっていない筈だ。

何故だか急に疲れが押し寄せてきて、俺は鞄を放り投げてその場に倒れこんだ。

眠たい。


コンコンコン。

控え目なノックが聞こえる。


「大丈夫だ、入ってくれ」


体制を起こすのも面倒なので、横になったまま対応する。


「珍しいね。

凄く、だらーんってしてる」


やはり、戌井の声だった。


「記憶の整理をしに来たんだろう?」

「うん、そんなとこ。

えっとさ、オニガワラ君。

……正義でいいかな?」

「いいぞ、瑠衣ちゃん」

「ちゃんはやめて!

……でも、不思議な感じだよね。

あたしたちって、今日会ったばっかりなのに、ずっと昔から兄妹だった気がする」

「一ヶ月前からだろう?

それにしては打ち解け過ぎている気がするけど。

大体母さんの所為だな」


瑠衣が鬼瓦家に引き取られた当日は、特に凄惨を極めた。

何も倉庫の中に、二人一緒に閉じ込めることは無かったんじゃないかと、今でも強く思う。


「ここに来てからの事、どこまで覚えている?」

「倉庫に閉じ込められた」

「アレは……済まなかった」

「なんで正義が謝るのよ」

「ウチに来る前の事はどうだ?

何か、変わったか?」

「……変わって無い。

全然、変わって無い」


そういえば、瑠衣がこの家に引き取られる事になった経緯を、俺は何一つ知らない。


「正義はどうなの?

何か、変な事覚えてない?」

「そうだな……」


そういえば、今ここに存在する俺は、ゲーム以前の世界にいた俺なのだろうか?

それとも、元々此方の世界で生活していた俺なのだろうか?


こちらの世界にいた筈の俺は、今日の午後6時に何をしていたのだろうか?

思い返そうとしてはみたが、霧がかかっているかのように、ハッキリとした事は思い出せなかった。


「思い出せない事がある。

こっちの俺達は、ゲームが始まる直前には何をしていたんだ?」

「あ、それあたしもわからない。

ゲームには招待されなかったのかな?」

「…………わからん」

「わかんないね」


だが、ここで話し合う事で、何と無く累の事は思い出せた。

この記憶は、本来俺の物では無いのだから、思い出せたという表現も間違っている気がするが、そういう感覚を受けるのだから仕方が無い。


「色々わかんないけどさ」

「……ああ」

「あたしたちって、そんなに仲悪く無かったんだね」

「ああ」


こういう関係、長谷川辺りは苦手そうだな。

そんな事を朧げに考えながら、俺は目を瞑った。

少し、眠りたい。


「二人ともー、降りてらっしゃーい!」

「はーい、今行きまーす」


瑠衣の大声で、眠気が吹き飛んだ。

まあ、このくらいは許容してやろう。

なんたって、今日はこいつの誕生日なんだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ