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狂乱の長谷川

上履き入れの中に手を突っ込み、上履きの1センチメール上をガサゴソと漁る。

また手紙が入っていたりはしないだろうか?

そこで俺は、ハッとして手を止める。

そうだ、昨日手紙がここに入っていたんだった。


手紙には、奇妙によれた筆跡で、『夜にて待つ』という一文のみが書かれていた。

差し出し人や宛名など、その一文以外の文字は一切見当たらなかった。

不気味に感じた俺は、瑠衣に中身を覗かれる前に、それをぐしゃぐしゃに丸めて、ゴミ箱へと投げ入れたのだ。


『夜にて待つ』

『夜へようこそ』

あのゲームとの関連性があると考えて間違い無いだろう。

ゲームの管理者を名乗る人物、もしくはそれと直接的な関係を持つ人物が書いたものだと思われる。

そしてこれは確定的では無いが、手紙の送り主はこの学校の関係者でもある可能性が高い。

あの日俺が登校した時間よりも早く、俺の下駄箱に手紙を入れるとなると、深夜に不法侵入する以外の方法では、教師や警備員の目を避けられない。

しかし、それは飽くまで相手が俺と同じような通常の人間であった場合だ。

時間も空間も関係がない、例えば……


「正義君!

良かった、ここにいたんだぁ」


脳味噌をドロドロに溶かすような、糖分過剰の声に、俺の思考は遮られた。

前髪がぱっつりと横に揃えられた長髪を目にして、俺は相手を認識する。

柳本高等学校生徒会副会長兼二年五組クラス委員長の、花菱涼風だ。


「ねぇ、正義君。

瑠衣ちゃんと長谷川君が、喧嘩? というかうーん、なんて言うのかなぁ」

「疑心暗鬼?」

「うん、そんな感じ。

ギシギシアンアンしてるの」

「……良く聞き取れなかった。

ギシギシの続きからもう一回、なるべく俺の耳元でゆっくり発音してくれ」

「それでね、正義君、何か知らないかなぁって思って……」

「それは恐らく、俺が直接介入した方が早いな。

教室だよな?」

「うん。

二年五組の平和は、君に託したぁ!」


そう言い残して、花菱は生徒会室の方へと走り去って行った。

廊下は走るなと書かれた張り紙が、花菱の起こす風圧でひらりと翻る。



教室のドアをスライドさせるなり、俺は長谷川に声をかけられた。


「遅いじゃないか正義!

僕はどれだけお前が来るのを焦がれていた事か。

君にこの気持ちがわかるかい!?」

「知らん」


俺は自分の机の上にひとまず鞄を置き、教室を見渡す。

まだ朝早い事もあり、人はまばらだ。

名前を覚えてはいないが、顔を覚えている生徒が四人、松原瑛太と長谷川と、俺と瑠衣で合計八人。


何故かロッカーの上に立って威嚇のポーズをとっている長谷川。

それを見上げて苦笑いを浮かべている瑠衣。

困惑したような様子で二人を遠巻きに見る四人。

歴史の教科書に何事かを書き込んでいる松原。

全く状況が読めない。


「長谷川、取り敢えずロッカーから降りたらどうだ?

椅子を持ってきてやる」

「いやいや正義じゃあるまいしそのまま降りられるさ。

だけど今の僕に、ここから降りるという選択肢はないね。

戦いは上を取った方が勝つんだ」

「お前は一体何と戦っているんだよ」


瑠衣が挙手をする。


「えっと多分、あたしと戦ってるつもりなんだと思う」

「つもりとは何だ。

今も虎視眈々と僕の隙を伺って、僕の考察レポートを奪う気でいるんだろう?」


そんな宿題出てたっけ?という声が、どこからか聞こえる。

これは一旦、他のクラスメイトに聞かれない場で、長谷川と話し合う必要があるかもしれない。


「長谷川、お前に借りてたエロ本を返したいんだが、ここじゃあ何だから、ちょっと外に出てくれないか?」


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