アヴァロンの追憶/死闘
「あの野郎、何でできていやがるんだ……!?」
イノチは、肩で息をしていた。
「落ち着けイノチ! あいつはそれでも人間だぞ!」
「ライラ! しかしあいつはお前のPサテライトからのオールレンジ攻撃も耐えきり、俺のファイナル・ラグナロク・ブラストも通じなかった。考えられないほどの化け物だぞ」
「そうだな……飛来した隕石を打ち砕く程の威力を持ったファイナル・ラグナロク・ブラストも通じないのは、些か誤算だ」
「……俺たちは、また、守れないのか! 俺たちは、必ず、何があってもこの戦いに勝利しなければ、いけないんだ!」
「そうだな……」
二人が思いを巡らすのはかつての戦いの日々。
彼ら二人が元々いた場所は、惑星アヴァロンという。しかし、テラフォーミングに伴う星間闘争により、ガナンとの間に百年にも及ぶ長い長い戦争が繰り広げられていた。
赤い獅子の顔をしたウチュウ=イノチと、蒼い虎の顔をしたライラ=ライ、そして黄色い竜の姿をしたアルバ=アルバは、それぞれ巨大な人型ロボット、EMA(Extravehicular Mobility Armor)に乗り込み、その星間戦争を終わらせ、ガナンを打ち破った。
しかし、それから十年の後、アヴァロン首都で大規模なクーデターが発生した。
ちょうどあの終戦より十年、ウチュウ=イノチとライラ=ライもそれを記念した式典に晴れやかな笑顔で出席していた。
「おい、何を浮かない顔してやがるんだ、ライラ」
赤い獅子の顔をした男、ウチュウ=イノチは笑いながらライラ=ライに話しかけた。
「いいや、そんなつもりはない。しかし、あの戦いのことを思い出すと少し、な」
蒼い虎の顔をした男、ライラ=ライはイノチに対して薄く笑みを浮かべて言葉を返した。
「確かに、あの戦いは本当に厳しかったな。友もたくさん失った。でもライラ、俺たちは生き残ったんだ。生き残った以上、そんな浮かない顔をしてる暇なんざないぜ!」
「そうだな。ところで、アルバ=アルバを知らないか?」
イノチは辺りを見回す。どこか見知った顔の、軍関係者がそこら中におり、今から始まる式典に向けて色々と話をしている。
「さてね。あいつは出世街道を邁進していたからな。挨拶回りで到着が遅れてしまったのかもしれないな」
しかし、ライラは浮かない顔をする。
「それなら良いんだが……。なあ、イノチ。知っているか、例の噂」
「あの噂か。ただのイタズラじゃないのか?」
「いや、ネットに流出した企画書らしきものを読んだが、実に緻密な計画の一端のように思えた。決起は今日、複数の基地を同時襲撃すると書いてあったな」
「確かにな。血眼になって探したが流出元は解らずじまいで、手の込んだイタズラか、犯行予告の一種と囁かれたよな。でも、これだけの警備と軍関係者がいるんだ、何も起こらないと思うぜ」
「俺も杞憂に終わればいいと思っているさ」
その時だった。遠くで大きな爆発音が聞こえた。
「なんだ!?」
「あっちの方角は……ジャバー基地の方向だ!」
「クソッ、何が起こってるんだ?」
そして、EMAの駆動音が、すぐ近くまで聞こえた。
「まずい! ライラ、伏せろ!」
そして、上空に降り立った人型の兵器、EMAによる銃撃が降り注いだ。
軍関係者は次々とその標的となり、倒れていく。
「残念だが、杞憂には終わらなかった。状況を知りたいな」
「とりあえず、通信に強力な障害が起きていやがるな。アイツらをどうにかやり過ごさないと、まともに状況もわからんぜ」
「武器は持っているか?」
「拳銃だけだ。……となると、一番手っ取り早い方法は、あのEMAを乗っ取ることだな」
「正気か!?」
「さあ、来てみろでくの坊! 俺はこっちだ!」
言うなり、イノチは上空から地上を掃射するEMAに対し、身をさらした。
「何をしているイノチ!」
ライラは叫んで、物陰から出たイノチに戻れと合図を送る。
「やるしかない以上、必ず成し遂げる! それが俺たちだろう、ライラ!」
そして、撃ってくるEMAの射線を躱し、そのまま腕からワイヤーを投射する。
ワイヤーはEMAのコックピット部分にあたり、巻き付いた。
そして、そのまま勢いよく巻き上げ、コックピットによじ登るなり、イノチはコックピットの継ぎ目に拳銃を撃つ。
そして、そのまま緩くなった装甲を素手で引きはがし、中に乗り込んでいたパイロットを引きずり出した。
「よし! さあ、覚悟はいいな!」
イノチは上空で体勢を整え、他の三機のEMAを撃ち落とした。
「ライラ! これに乗って本部へ向かうぞ! 反乱を起こした連中の目もくらますこともできるぞ!」
ライラは呆れるほどに行動的なイノチに驚くと同時に、命知らずだと感じた。
そのまま二人は本部へと向かい、EMAで道中の敵もなぎ倒した。
そして、二人は、今回の反乱の首謀者はガナンの意志を告ぐものと告げられる。
「十年間、反乱の機会をうかがっていたという訳か。俺の愛機、ニドゥンもあるな」
「ライラ、出るのか?」
「ああ。お前のガリオスの準備も出来ているようだ」
「では出陣だ。誰であろうとも俺たちは止められない!」
ウチュウ=イノチとライラ=ライは再びEMAに乗り込み、そのガナンの後継者との戦いに挑んだ。
ガナンの後継者の戦いとは熾烈を極めた。
かなりの数の支持者がアヴァロンの中枢に入り込んでおり、七割の基地が占拠されるが、ウチュウ=イノチとライラ=ライはその膨大な敵の包囲網をかいくぐり、敵の中枢まで攻め込む。
行く手を遮る雲霞の如く迫り来る膨大な数のEMA。
「これだけの数ってなると、さすがに無傷での突破は難しいな」
「そうでもないぞイノチ。俺に任せてくれ」
不適にライラは笑うと、雨霰と降り注ぐ銃撃を躱し、叫んだ。
「征けッ! Pサテライト!」
その途端、宙に浮いた百以上の銃器から一斉に射撃が行われる。
ありとあらゆる方向から絶え間なく降り注ぐ銃撃。それは、幾千、幾万の歴戦の兵士と戦っていることと同じであった。
みるみる内に数を減らすEMA。
イノチはそれを見て、敵に回したくはないなと思った。
そして、反乱軍の本部、惑星モルドレッド中枢部へと辿り着いた二人。
そこには、かつての戦友であるアルバ=アルバの姿があった。
「嘘だろ……!? アルバ、なぜお前が!」
「アルバ=アルバ……! なぜっ!」
「ライラ=ライ、ウチュウ=イノチか。よくぞ辿り着いたな。さあ、我が同士となれ、同胞よ」
「馬鹿な事を言うな! なぜだ! 理由を話せ!」
「ふむ。私の話を聞けば、心が動くやもしれんぞ」
「罠だ! ライラ、これは罠に違いない!」
「イノチ、アルバは嘘を言ってなどいない。かつての同士の言葉を聞いてからでも遅くはない」
「甘いぞライラ!」
「俺は信じたい、かつての友を」
「では、私が立ち上がった理由を語ろう」
アルバは言う。ガナンがなぜ戦いを挑んだか。それは、元々獣であった彼らが、肉を食らうことを薬物によって押さえていたことにある。
元々獣であったアヴァロン、そしてガナンの人々は、突如とした知能の進化により、獣ではなくなった。しかし、一方で野生は残っていたために、同族を殺し、その血肉とするという本能は残っていたのだ。
だが、もはや獣ではないために、その本能を薬により押さえ込み、無理矢理に肉を食わぬようにしていた。同族を食わぬためだ。
そのために人口肉を作り出し、野菜を加工し、あらゆるものを利用してどうにか弱肉強食とならぬよう苦心していた。しかし、薬の副作用は甚大であった。そんな中、アヴァロン上層部では薬を使わず、野生のままに肉を食らう事件が多発していた。ガナンはその事実を突き止め、追及したところ、隠蔽されそうになった。それを重く見たガナンは事実の公開を求め、戦争となったのだ。
そればかりか、アヴァロンの政策は広大なガナンの土地を食肉牧場とし、ガナンで暮らす人々全てを食らうために戦争をしかけていたのだ。
アルバはその真実を知り、散っていったガナンの人々の思いを継ぐためにこんな計画を立てた。
「……でたらめだ! なぜそれを知ってすぐに計画に移さなかった! 答えろアルバ!」
「イノチよ、私はアヴァロン軍の上層部に取り入り、内部から変えようと努力した。だが、すべては手遅れだったのだよ。連中は腐りきっていた。ガナンとの和平条約を一方的に破棄し、植民政策へと転じるのは時間の問題だった。だから、この手を使う他なかったのだ」
「なぜ俺たちに相談してくれなかったんだ! まだ、できることはあったはずだ!」
「お前達が止めることはわかっていた。しかし、誰かがやらねば、あの戦争、そして今ガナンに住む人々にとって最悪の未来が訪れる。汚名を受けるのは私だけでよかった」
「では、目的は達したのか?」
「いや。まだ手ぬるい。鉄槌を下す必要があるのだ。それも、二度とこんな事ができなくなるようしっかりと刻み込まれるような鉄槌がな」
「何をするつもりだ! 貴様!」
「こうするのだ」
そう言うと、アルバは惑星モルドレッドが正規軌道を外れたことを告げるアナウンスを聞かせた。
「……馬鹿な! そんなことをすれば!」
「しかし、二度とガナンに手出しはできない。これ以上ない鉄槌だろう?」
「貴様を止めさせてもらう! 覚悟しろ、アルバ=アルバ!」
「ライラ=ライ。残念だよ、君と戦うのは」
「黙れアルバ! お前だけは許さない! 必ず倒し、アヴァロンを救ってみせる!」
ライラはPサテライトを展開し、周囲をいつでも銃撃できるようにした状態で、モルドレッドの制御室を目指す。
惑星モルドレッドはそれ単体でも動かせるよう、中枢にはエンジンが付いているため、それを動かして正常起動にまで戻せばアヴァロンを守れる。
「やらせんよライラ!」
「お前の相手はこの、俺だぁ! 食らえっ!」
飛び去るライラを追おうとするアルバ目掛け、イノチのEMA、ガリオスが迫る。赤い機体のアルバは高機動だが、パワータイプであるガリオスよりパワーでは劣る。
そのガリオスの強烈な剣がアルバに突き刺さる。
すんでのところでその剣の一撃を自らの剣で受け止めるアルバ。
「やはりパワーでは劣るか。しかし、戦いとはそれだけではないのだよ!」
アルバもPサテライトを展開し、イノチを多方向から撃ち抜く。
「まだだ! イージス・ディフェンダー!」
紫色のレーザー光を放つシールドが形成され、イノチの機体ガリオスの周囲を取り囲む。
「鉄壁の防御というわけか。しかし、いつまで保つかな?」
銃撃は激しさを増すばかり。そして、それと同時に、イノチはその場に釘付けにされる。
「Pサテライトは囮か!? くそッ、こうなったら!」
イノチは、胸部の獅子の口から、極太のレーザー光を放った。
「ブレスト・テンペスト!」
Pサテライトの群れを消滅させ、同時にアルバへとレーザー光が迫る。
「この機体、サフェウスを甘く見てもらっては困るな」
アルバは高速機動を生かし、その必殺の一撃をあっさりと躱す。
「ならっ!」
イノチは躱した直後のアルバに迫る。
「二段構えで行かせてもらうぜ! 必殺! 覇滅無双十文字斬り!」
「なにィ!」
その必殺の一撃を、どうにか大剣で受け止めるアルバ。しかし、ガリオスとサフェウスでは出力が違いすぎる。
剣をはじき飛ばされ、サフェウスは必殺剣にて両断された。
「出力で負けているだと……ぐああっ!」
「見たか! 我が一撃!」
「イノチ、気を抜いた一瞬が命取りだ」
しかし、次の瞬間、Pサテライトの一斉射撃がイノチを狙う。
「な、なんだと……」
必殺技の二段構えを放ち、安心していたために、イージス・ディフェンダーも展開していないため、直撃を受ける。
「出力が上がらない……なんてことだ!」
「シャドウ・ファントムを実体だと思ったお前の失策だ。そこでしばらく待っているのだな!」
アルバは咄嗟に自分の分身を出し、それを斬らせたのである。アルバはそのままライラを探し、サフェウスを駆る。
ライラは最高速度でニドゥンを駆り、既に制御室にEMAで侵入していた。
「やるなライラ。……だがっ!」
サフェウスの速度はそれを上回る程だった。あっという間に距離は縮まり、お互いを視認できるほどの距離になる。
「目と鼻の先まで迫ったが……アルバ!」
「ライラ、ここまでだ!」
「アルバ=アルバ! ならばここでお前をやらせてもらう!」
お互いに剣を出し、迫る二体の機体。そして同時に、互いにPサテライトも出しての総力戦である。
近接すれば剣、少しでも離れれば銃火の嵐が迫り来る。どこにも死角はなく、どこにも逃げ場はない。
それでも剣で決着を付けようと判断したのは、即座に終わらせたいというライラの意図だったのか。
剣の速度は苛烈を極めた。一撃の重さこそイノチに及ばないが、速度と正確さは圧倒的にライラの方が上である。
それをやっとの思いで弾き、返しで銃器で打ち返す。
しかし、それもあっさりと躱され、裏に回り込まれた状態でPサテライトを射ちながら、同時に剣で攻撃する。
「やるなライラ!」
「減らず口を!」
「いや、本心さ」
アルバもPサテライトの銃撃を、Pサテライトで相殺し、剣撃で迫る。
「今からでも遅くない。こんなものを落とすのはやめろ、アルバ!」
「それはできん。痛みを覚えねば、元が獣たる我らは何度でも同じ過ちを繰り返す。鉄槌が必要なのだ」
「思い上がるな! なぜそれをお前が行う権利があると言うんだ!」
「私はガナンの後継者。同時に、ガナン王族の末裔でもある。この鉄槌を下す権利が私にはある」
「……だからと言って! あの悲惨な百年戦争を潜り抜けて、アヴァロンもガナンもないとわかったんじゃなかったのか!」
「だからこそ確信したのだ。獣たる我らは、百年も戦ったとて学ばなかった。それは痛みが足りなかったからだ、とな。もっと早く痛みをすべての民が感じれば、戦争は終わっていたのだ」
「ふざけるな! 星一つを滅ぼすのは痛みで済む話じゃない! お前は間違っている、アルバ=アルバ!」
「ならば私を倒してみせろライラ=ライ。それだけが我々の真実だ」
「……そうさせてもらう!」
しかし、二人の実力は伯仲していた。
剣撃のすべては弾かれ、Pサテライトも互角に相殺し続けている。互いの緊張が切れたり、弾切れとなるまで決着はつきそうもなかった。
同時に、それはアルバの勝利を意味していた。
そこに、割って入る者がいる。
「ライラ! 避けろ!」
「まさか!」
「ファイナル・ラグナロク……フィンブルヴェト!」
その瞬間、宇宙空間であったその周囲すべてが、静止した。
「か、身体が動かん……!」
「ファイナル・ラグナロク・ギャラルホン!」
そして、さらに何もない宙から無数の鎖が現れ、アルバの乗るサフェウスを完全に動けないように縛る。
「……ははは! この勝負、私の勝ちだ、ライラ!」
「待てイノチ、何か企んでいるぞ!」
「騙されるな! そして、もう止められないぜ! 行くぞ! ファイナル・ラグナロク・ブラスト!」
そして、剣を振りかざし、突進するイノチ。
黄金色に光り輝きながら、剣に巨大なオーラが渦巻き、それがサフェウスを両断する。
「私の心臓が止まった瞬間、連動してこの惑星は加速して落ちる! さらばだライラ、イノチ!」
二人は顔面蒼白になった。そのまま、サフェウスはアルバ=アルバごと爆発四散する。
「そんな……そんな馬鹿な!」
「……くそっ、中枢のコンピューターはまったくアクセス不能になっている! このままでは!」
しかし、アルバを必死の思いで倒し、食い止めようとしたライラやイノチの意志も空しく、惑星モルドレッドは落ち、アヴァロンは死の星と化してしまう。
二人は願ったのだ。アヴァロンを元に戻すために、『ゼウル・クァトロ』を勝ち抜くと。
こんな妙な人間に足止めされていてはいけないのだ。
「どうにかしなければならないな……」
そんな時、彼らの耳に巨大なEMAの駆動音が聞こえる。
「……馬鹿な。この国でもEMAを製造していたというのか!?」
「いいや、待てよライラ。どうやら、俺たちが見知った奴のようだぜ」
赤く、全身に分厚い甲冑を着込んだようなロボット。それが、イノチとライラの元へと向かっていた。
「……アルバ=アルバ!? なぜだ? 俺がこの手で!」
「どうやらお困りのようだな、ライラ。どうだ、死者が手を貸そうか?」
「お断りだ! 貴様は死んだはずだ! 墓へと戻るがいい!」
「そうしたいところだが、ここは墓からも遠い。所詮血塗られた身、徒花を咲かさせてもらう!」
「アルバァ!!」
イノチが激昂する。
「イノチか。お前との決着ならば、後でつけてやろう。今は、この闘争に勝たねばなるまい」
「俺は、お前を許したわけじゃない! だが、この戦いの勝利は、俺たち皆が果たさねばならない!」
「ならば目的は一緒。あの人間を葬るとしようか」
そして、アヴァロンの英雄、ウチュウ=イノチ、ライラ=ライ、アルバ=アルバがここにそろい踏みした。
「クソが! あっちだけ仲間呼びやがってズルだろそんなの!」
多々野が叫ぶが、そんな声を聞いてはいない。
「ライラ、共にPサテライトで仕掛けるぞ」
「俺も仕掛けた。しかし、奴には通じなかったぞ」
「一人ではそうでも、二人で、ましてやイノチ、お前のファイナル・ラグナロク・ブラストも仕掛ければ、どうなるかな?」
「昔のコンビネーションってやつか。いいぜ、やってやるぜ!」
そして、アルバはライラと共に仕掛ける。
宙を舞う無数の銃器。それが、一斉に多々野を狙う。
「ひー、ふー、みー、……どう数えても合わせて百はあるんだけど。なんだよあれ全部一気に撃ってくるのかよ!」
多々野はただその場にうずくまった。
どうせ、死ぬことはない。
だが。
「危ないね」
その剣閃は、並の速度ではなかった。
星靈斬魔剣ラ・ヴァトスの目映い光が、幾重にも棚引き、銃器のすべてを切り刻む。
「君がゲンジくんかな? お疲れ様だったね。ここからは僕が引き受けよう!」
全身から黄緑色の光を放つ、白銀の鎧を纏った男。
そう、その男こそ、勇者エクスその人だった。
「ちいっ、新手か。Pサテライトが斬られるだと!」
「奴は手練れだ。アルバ、イノチ、一気に終わらせるぞ!」
「言われなくても! 食らえ! ブロークン・インパクト!」
「その拳、受け止めよう! 来たまえ!」
イノチは天高く飛び上がり、同時に拳で大地を貫き、さらに弾丸を射出しようとした。
しかし、これをエクスが受け止めようとする。
「イェギールの天空飛槍!」
膨大な星靈気を纏った巨大な槍を出現させ、それをイノチ目掛け投擲する。
槍の大きさは十メートル以上と、イノチの乗るガリオスとも遜色ない大きさだ。
そして、エクスの投げた槍と、イノチの拳とがぶつかりあう。
その瞬間、周囲数百メートルに衝撃波が発生する。相殺しきれなかった膨大なエネルギーが衝撃波となって辺りを破壊していき、石つぶてが降り注いだ。
だが、それだけであった。
「俺の、ブロークン・インパクトが相殺されただって……!? まだだ! ブレスト・テンペスト!」
未だ上空にいたイノチは、続けざまに胸に刻まれた獅子の意匠から、赤い極太のレーザー光を放った。
しかし、エクスはこれに対しても技を射つ。
「シュロイアの猛嵐!」
手から放たれたのは、真空の刃を伴う竜巻だった。それも非常に巨大であり、イノチの機体を飲み込むほどに巨大な代物である。
「ぐああっ!」
「イノチ!」
「来るなっ! こいつは確実に俺がケリを付ける!」
「なぜだイノチ! 力を合わせれば!」
「ライラ、あの男は今までの攻撃をすべて相殺した。躱すでも耐えるでもなく。つまり、装甲の薄いお前達だと耐えきれない。俺がここで踏ん張って、大火力でぶっ倒すしかない!」
イノチは血を吐く思いでそう叫んだ。
「無茶をするなイノチ!」
「ここが命の張り時だ! 行くぞ! ファイナル・ラグナロク・フィンブルヴェト!」
その瞬間、その場の空間すべてが静止する。
「なるほど。獲物を逃がさないというわけか!」
エクスは自分の身体が動かないというのに、あまり動じた様子はない。
「ファイナル・ラグナロク・ギャラルホン!」
そして、さらに何もない宙から無数の鎖が現れ、エクスの手足、胴体を縛り上げる。
「そしてこの鎖……。並のものじゃない。特殊な耐性があるようだな」
「行くぞ! ファイナル・ラグナロク・ブラスト!」
そして、剣を振りかざし、突進するイノチ。
黄金色に光り輝きながら、剣に巨大なオーラが渦巻き、その状態から手に甚大な量のオーラを纏って突撃してくる。
かつて隕石を打ち砕いたほどの図抜けた威力であり、到底人の肉体でどうにかできるものではない。
「これはすさまじいね。しかし、僕を舐めてもらっては困るよ。あ、ゲンジくん」
「な、なんだよ」
「その剣を貸してくれ。僕の剣を貸してあげるから」
そう言って、エクスは光り輝くラ・ヴァトスを多々野に手首だけで投げてよこした。
「何をしている!」
そして、そのまま、エクスは星靈気を強く放つと、鎖が砕け散る。
唖然としてその光景を見る多々野は、落ち着いて虹色の靄が刃にかかっているバルシェトの連環刀を手渡した。
「なるほどね。ただの剣じゃなさそうだ。ならば、ちょっと手荒に使ってしまおうかな!」
そして構えるなり、エクスは全身に纏う星靈気をさらに拡大させた。
そして、剣にもその星靈気を纏わせる。
「勝負だ。異界の勇者よ!」
大きさで言えば勝敗は明らかである。しかし、エクスの自信は相手の様子を見ても動じないところを見るとかなりある様子だ。
そして、ぶつかる。
「正面から俺と勝負だと!? ふざけた奴め! はじけ飛べ!」
「そうでもないぞ! 僕も君くらいの大きさの敵とはたくさん渡り合ってきたからね!」
そうだった。ファンタジーの勇者は山のように大きな敵とも渡り合っている。ロボットだからってびびらないのか、と多々野は思った。
互いの拳と剣がぶつかり合い、お互いの足下に亀裂が入り、崩れ去っていく。
しかし、動じない。その場に根が生えたようにお互い、それ以上動かない。
「俺と互角……!? 相当な使い手だなアンタ!」
「君もね。しかし、僕も負けられない。勝負は付けさせてもらうよ!」
不敵に笑うエクス。それを見てイノチは、想像以上にこの男が難敵であることを感じた。