ゲンジ、参戦!
「へー。で、俺が呼び出されたと。なるほど、ジジイ、あんた見る目あるじゃん」
ナタディルに対し多々野はにやけ面を見せた。
「まー任せておけって。俺ってば最強だからよ。負ける気がしねぇ!」
だが、イオタやアトリスの目は厳しかった。
「ナタディル殿……。どう見ても私の目に彼奴は自分の分を弁えぬ痴れ者に見えます」
イオタの言葉はストレートだったが、さすがに聞こえないようにナタディルにそっと耳打ちした。
「案ずるな。奴自身にお前は時間稼ぎだと伝えている。奴は時間稼ぎとしては十二分な働きを見せるだろう」
アトリスはもっと辛辣に、多々野に対して直接言った。
「おいお前。名は?」
「俺は多々野弦仁。ゲンジで良いぜ」
アトリスはふう、と軽くため息をついて話す。
「ではゲンジよ、剣は何年やったことがある?」
「剣道? やったことねえよ」
アトリスは頭を横に振った。
「では、魔術は?」
「使えねえよ。あ、まあ、使えるけどよ」
「どっちだ!」
「たぶん使える。たぶんな! すっげえ使える」
アトリスは深くため息をついた。
「ナタディル殿。こいつは使えません。間違いなく、確実に。それは何万という兵を見てきた私の目からして明らかです」
「うむ、その通りだと思う」
え、今なんて言った?
多々野はまるで自分が信用されていないことに腹が立った。
「ふっざけんなよ! 俺はプルガトリオオンラインの力を使えるんだろ! だったら悪ぃけどよ、てめぇらが束になったって敵わねぇほど強ぇよ! 見てろよクソが! てめぇらは俺の実力知らねぇだけだ!」
「わかったわかった。では、戦ってみるがいい。城を抜ければすぐに敵がいるから、行ってこい。見れば敵だとすぐにわかる」
「は! 後になって俺にすがってくるんじゃねえぞ愚民どもが! 俺の実力を思い知れ!」
そう言って多々野は駆け出そうとした。
そこに、ナタディルが言った。
「待て。これを持って行け」
そう言って、多々野に一本の剣を手渡す。
「なんじゃこりゃ。結構綺麗な剣だな。鞘から抜くと刀身に虹色の靄がかかっててかっこいいじゃねぇか!」
「それはバルシェトの連環刀。良いかゲンジよ。その剣を用いて相手を倒せ」
「はいはい。まあどんな剣だろうとも俺ってば最強だから。ハンデにもならねえよ」
そう言って今度こそ多々野は駆け出した。
そして、場内には深い深いため息がこだました。