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ブックプラント  作者: アッキ@瓶の蓋。
タイガーフレンド(全7話)
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タイガークラス

 痕跡。過去にある事物があったことを示す、跡形(あとかた)の事である。

 跡、形跡など様々な言い回しがあり、その物があったと言う事を示すものを指すのである。


「――――で、その古い方の鐘には歯車がしばらく付けられた跡がなくて、埃が取られた形跡がなかったとの事です、か……」


 話を聞いた次の日の休み時間。

 僕は教室の自分の席にて座りながら、月見里奈々さんから聞いた話を思い返す。

 月見里奈々さんの調査によるとここ数年ほど埃が取られた形跡はなく、歯車が置かれた形跡はなかったとの事だそうだ。


「でも音は聞こえた訳だし、しかも僕だけじゃなくて加賀見さんも、月見里部長も2人とも……」


 案外、探せばもっと居るかもしれないけれども、とりあえず僕だけが聞こえた幻聴でないと言うのは確かである。

 なので、とりあえずは鳴った事は事実である。

 だが、鳴るのに必要な歯車は付けられた跡はなかったそうです。

 じゃあ、どうやって聞かせたのかが問題である。


「おーい、聞こえてるか、友よ」


 古い鐘自体には鳴ったのは別としても動いた形跡があるらしくて、埃はなかったらしい。

 風が埃を払ったと言う線もあるが、そう言ったらキリはないのでとりあえず古いあの鐘は動いたと言う事で話を進めよう。


「おーい、ケンよ。聞いているのかー?」


 あの古い鐘が音を鳴らすにはどうすれば良い?

 どうすれば、歯車もしていないのに古い鐘が鳴ると言うのだろう?


「――――異能力発動、腕力強化」


 ドン! っと、僕の目の前で机が拳で叩かれる。

 叩かれると共に机の上に置いてあった次の授業で使う教科書とノート、それに筆箱が吹っ飛び、同時に僕も飛びあがる。


「いい加減、話を聞けって! ケン!」


 そしてやっと僕は僕にずっと話しかけていたそいつ、僕に『ノブ』などと言う愛称で呼ぶように強要させた江上信成(えがみのぶなり)の姿があった。

 その上半身、とりわけ拳はどこの怪物かと言わんばかりに肥大化している。

 恐らくはこれが彼の言っていた異能力、肉体系強化属の力なのだろう。

 肉体強化系の強化属はこのように、身体を強化するタイプの異能力である。

 足を強化して速くしたり、眼を強化して視力を良くしたりする。

 まぁ、中には傷の治りを速くするなども含まれるが、大体はそんな感じだ。

 その中でも彼は上半身強化と言う分かりやすいタイプのようである。


「さっきから話しかけているのに、ちっとも返事がないからどうしたかと思ったぞ。友の言葉は聞いておくべきだろう」

「友かどうかは別としても、話を聞いてないのは悪かった」


 だから、頬を膨らませての抗議は止めて貰いたい。

 そう言うのは、男のものを見たって嬉しくもなんともないのだから。


「で、ケン。お前は何を悩んでんだ? 良ければ親友(しんゆう)……いや、心友(しんゆう)である俺が話を聞いてやるぜ」

「何故、言いなおした……」


 どうせ心の中で別の言い回しでもしているのだろう。

 新しい友、略して新友(しんゆう)とかだろうが、心の友の方は止めて欲しい。

 会ってまだ2週間くらいしか経っていないのに、その言い回しは流石に恥ずかしい。

 と言うか、絶対に言って欲しくないと、感情的に思った。


「……それよりもそっちは、楓と仲良くするんじゃなかったの?」


 と、そう僕が問いかけると、痛い所を突かれたように「あちゃー」と顔を歪める江上。

 そもそも僕が『ケン』と呼ばれ、彼に『ノブ』と呼ぶように言われた理由は、僕の幼馴染である白山楓の事がある。

 江上は楓と仲良くなりたくて、僕が楓に仲良くするように取り繋いだからこそ、こうなっているのだ。

 少なくとも彼は、楓と仲良くする為に休み時間を使うべきであろう。

 僕なんかに構わずに、だ。


「早く楓の所に……って、あれ?」


 と、そこまでしてようやく僕は気付いた。


 教室の中に楓の姿が無い事に。


(……珍しい)


 楓は小中共に、休み時間は静かに暮らすか、友達と居るかのどちらかで、少なくとも次の時間が移動教室でない限りは教室に居ているような子だったのだが。

 高校になって急に変わったか?


「なんか、どうも楓さん。俺と居るのが嫌みたいなんだ」

「嫌?」

「あぁ。ああ言う身持ちが硬い子は苦手なんだ。ああ言う子は、その場の雰囲気とかで乗って来てくれないから。

 今は隣のクラスの山岡(やまおか)さん狙いかな! あの子、順応属なんだけど、なんかこう人の空気が読むのが上手くてさ。『人の空気を読んで順応するのが君の異能かい?』って聞いたら、『やだー! マジ面白!?』とか乗ってくれてさー!」


 とりあえず、今のこいつは楓よりかは山岡さんとやらの方が大事らしい。


「……まっ、でもお前と結んだ友達と言う、熱い絆はこの程度で無くならないから安心しろ!」


 キラッと光る歯を見せて、爽やか青年風にそう言う江上。

 ……俺としてはそのまま、俺から離れて行って欲しいのだが。

 お前と居るとうるさそうだし、うるさいと本が集中して読めなさそうだ。


「で、お前は今、何に悩んでんだ? ここは大心友であるこの俺に相談してみな! 話すだけでも楽になるって事はあると思うぜ」

「そうだな、今悩んでのはお前がこの状況をどうするかって事だ」

「そうそう。俺がこの状況を――――って、あれ?」


 そう言ってようやく何かが可笑しい事に気付いた江上。他の生徒は椅子に座って次の準備を終えており、立っているのは自分(江上)と――――


「そうだな。私も是非聞きたいぞ。お前がどのようにして、この私を納得させるほどの言い訳を言ってくれるかと思うと、心が躍る」


 ――――うちの授業を受け持っている教師の中でも、特に厳しいと学校中で有名な数学の中原(なかはら)先生、あだ名は鬼原。

 これは彼の怒りやすい性格を示唆した物であり、彼の能力はその手に生み出す、殴られたら痛そうなダイヤモンド。


「江上信成。創造系無有属にして、素行の悪い生徒に自分の能力で作ったダイヤモンドを、思いっ切り殴りつける教師はどう思う?」

「え、えっと……き、嫌いでありますサー!」

「同感だ。ついでに先生は――――――俺の授業が始まっているのにまだ休み時間気分でいる生徒の事が大嫌いだー!」


 そう言って、江上は思いっきり鬼原――――失礼、中原先生に殴られた。


 ……休み時間の残り時間くらい、ちょっとは考えて話を聞こうとしような。江上。

連続更新はこれで終わりです。次からは出来次第投稿する不定期更新になります。それでも何週間も待たせるような物ではありませんので、今後とも読んでくださればありがたいです。

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