タイガークラブ
僕、日向野健には幼馴染が居る。
彼女の名前は白山楓。
銀髪ストレートヘアーのクールで無表情な女であり、成績優秀で運動神経抜群の、ちょっと無愛想な幼馴染。
昔から僕と楓の2人は一緒に行動する事が多くて、それにどっちも物静かだから、僕と楓は良く組まされる事が多かった。
男女の仲と言う物を考えるのが始まる前から僕達は傍に居て、そんなのを考える事もなく、ただただずっと一緒に居た。
嬉しい時も、不機嫌な時も、悲しい時も、楽しい時も。
僕はそんな、男女と言う区別もないようなそんな関係が本当に気持ち良いと思っていた。出来る事ならばずっと続けば良いと思っていた。
「…………」
彼女は何も言わず、ただいつものように僕の隣に居るだけであった。
☆
「いやー、嬉しいわね。2人も新入生を確保出来て、私は嬉しいよ」
無理矢理強制的に文芸部に入部させられてから2週間が過ぎた。
窓から夕陽が差し込む文芸部室。そこで文芸部長にて、月見里奈々さんからそう僕達は労われていた。
その言葉に対して僕、日向野健は「はぁー……」と溜め息を吐いていた。
(脅迫されて無理矢理入ったんだけれどもね……)
と、僕はそう思いながら本を読む。
まぁ、僕は本を読むのは好きだから、文芸部室に入るのは構わないんですけれども、加賀見さんはどうなんだろうか。
と、僕はそう言いながら、部屋の隅にて本を読んでいる加賀見アキさんを見る。
「…………」
加賀見さんは椅子に座りながら、ちょっと楽しそうに読んでいる。
……どうやら本を読むのは好きそうなので、彼女も良いみたいである。
ちなみに幼馴染である楓は先にご帰宅だ。
楓は別に文芸部ではなくて、帰宅部だからそうなるのだが。
「まぁ、無事に新入部員も手に入れた事ですし、その新入部員の方も本が好きみたいですし、良かったです」
良く言いますよ。
こちらの意思をほぼ無視して、入部届を書かせたのに。
それは彼女にとっては覚えていない、もしくは関係無い事になっているみたいである。
「では、そろそろ仕事に取り掛かりましょうかね。お二人とも、読書は一旦中止して、話を聞いて貰えますか?」
と、月見里さんは優しく、それでいて命令を聞かないと許さないと言ったような声でそう問いかけた。
僕と加賀見さんは読書を止めて、部長へと顔を向ける。
「うんうん、話を素直に聞いてくれるような良い子で本当に嬉しいわ。秘密はまだばらさなくて大丈夫ね。まぁ、うっかり流出しちゃったらごめんね」
と、笑いながらそう言う。
そうなったら本当に勘弁願いたい。
けれども、この人がうっかり流出させるような事はないだろうな、と僕と加賀見さんはそう思っていた。
なにせ、今も新たに僕と加賀見さんの弱味をどうやって引き出そうかと考えているような笑みを浮かべていた。
「で、部長は私に何をやらせたいのでしょうか?」
「別に私は日向野君と仕事が出来るから嬉しいと言う気持ちはないわよ。そりゃあ、ちょっとはカッコ良いかなと思うけれども……」
「うん、加賀見さんはちょっと黙っておいてね」
加賀見さんの話は、何というか非常にねちっこい。
すぐに済むような話を、なんだかんだで話を長くしているよなそんな感じがする。
別にそれが特別悪いとは言わないけれども、彼女の話に付き合っていると話の本題にいつまで経っても入れないのである。
僕が話を遮ってしまったからか、加賀見さんはちょっと膨れた顔で、食べ終えたアイスの棒を口から出して捨て、また新たにアイスの棒をクーラーボックスから出して食べ始める。
ちなみに、そのクーラーボックスは自分で毎日持ってきているそうだ。
アイスは冷たいのが一番と言うから持ってきているらしいのだが、いくらなんでも学校に毎日アイス入りのクーラーボックスを持ってくるのはちょっと勘弁して欲しい物である。
「まぁ、加賀見さんはちょっぴりご機嫌斜めみたいだから、後で話を聞いて貰うとしましょう。ご機嫌斜めの時に聞いたって、話をちゃんと聞いて貰えるとは思わないし」
「……まぁ、そうですね」
「だから、日向野君にこの件は任せましょう。適任だし」
うんうん、と頷く部長。頷くのはどうぞご自由にと言いたい所だが、せめて何をするかを教えて欲しい。
「……あっ、そうだったわ。日向野君に何をして欲しいかを言ってなかったわよね。それなのに、任せるとか言ってごめんなさい。日向野君にも予定とかあるかも知れないのに。私が把握していないだけで」
その会話文の最後にある「私が把握していないだけで」の所で、無暗にプレッシャーを与えないで欲しい。
さっき、なんか彼女の後ろに闇が見えた。属性系ではない、部長の後ろに闇が見えた。
「で、部長。僕は一体何をすれば良いんでしょうか?」
「そうね。そろそろ本気で話すとするわ。
――――私は生徒会には所属してないんだけれども、生徒会長の西城姫花さんから昔から色々と依頼を頼まれて処理して来たの。去年の文芸部はそう言った荒事に対処しやすい人材が揃っていたから。そして、入学式の日にあなた達は『鳴らない鐘』の音を聞いているわよね。こう言う……」
と、そう言って部長は自分のカバンからICレコーダーを取り出して、再生ボタンを押す。
『や、止めてくれ! お、俺は知らないんだ! 信じてくれ! 信じてくれよぉぉぉぉぉぉ!』
「あ、これは違いますわね。こっちでしたかしら?」
と、そう言って先程男の悲鳴が聞こえたICレコーダーを鞄へと戻し、別のICレコーダーを取り出す。
……先程の声は忘れる事にしよう。
『Herói Isto Heroína! Herói Isto Heroína! Luta! Luta! Luta!』
うん、あの時聞いた鐘の音に間違いない。
「これはこの学校設立当時に入って来た付与系の能力者の教師によって、鐘の音をその当時流行っていた曲へと変えただけなのよ。設立当時は良かったものの、時代の流れに連れて古いと思う生徒が多く居て、新たに鐘を設立した、って言う流れで。その付与を施した教師も既に別の所に居て、能力解除はしないと言っていたらしいし。
――――で、学園が外した歯車。これがないと鐘が鳴らないのだけれども……」
と、部長はそう言いながら、ちょっと言いにくい感じでこう言った。
「――――入学式に鐘が鳴った後、確認した所、歯車が付けられた形跡はなかったそうなの」