ブックチャイム(3)
入学式を終えた後、僕達は担任の指示の元、僕達の教室へと案内された。
その後、担任は僕達に書類を渡して貰って、「じゃあ、後は連絡事項をしっかり読んで内容を把握してくださいな」と気楽にそう言って帰って行ってしまわれていた。どうやらうちの担任はあまり熱心ではないらしい。
その後はなし崩し的に仲良しグループがいくつか出来始める。
まぁ、あくまでも男性同士や女性同士などと行った同性同士なども居るし、美男美女だらけなどのグループやオタクばかりのグループなどもあったりしている。
まぁ、中にはその例に合わないのもあるが、個人の自由であろう。
「ねぇ、ねぇ! そこの君!」
と、僕が椅子に座って本を読んでいると1人の男子生徒が話しかけて来た。
「…………」
僕には気に入らない人が居る。
いや、この場合は人種と言うべきか、それはうるさい奴。
今、僕の目の前に居るのもそう言った奴だろう。
髪はスプレーで色付けしたかのような茶髪でほんの少しウエーブしており、眼鏡をかけて首にはヘッドフォン。
どことなくチャラい男と言う感じがムンムンと出てしまっているその男は、「ちょっと良いかなー」と馴れ馴れしくも話しかけてくる。
「いやー、可愛い女の子と付き合えるのってある意味ステータス、と言うか勝ち組の証だと思うんだよね。可愛い女の子と付き合っているだけで他の人から、『あっ、あの人スゲー』とか『あの人、カッコ良す!』とか思われたりするんだと思うんだよね。あっ、ちなみにこれ、俺調査ね」
「……結局の所、何が言いたいんだ?」
本題を避けるようにして話す彼にそう言うと、彼は「分かってくれるか!」とあたかもこちらがもう話を聞き届けたみたいな感じで話を進める。
「俺は桜並木を通ってこの学校へと来る途中、始めて出逢ったその彼女に心を奪われてしまった。運命を感じた。要は一目惚れだ。
彼女のクールな表情、そして磨き抜かれたあのナイスバディに、俺は心惹かれてしまい……気付いたら――――」
「その彼女、白山楓と共に居た僕から彼女の弱味を握ろうとする変態、になっていたと」
「――――そうそう、その変た……って、誰が変態だ! 俺はただあの人と仲良くなりたいだけだっつーの!」
彼は顔を真っ赤にしながら、そう反論する。
……こちらから言った訳でもないのにノリツッコミとは流石だなと感心する。
「可愛らしい女の子と仲良くしたいと思うのは男として当然のことだろうが! えっと……」
「……日向野健だよ。そっちは?」
「――――俺か!? 俺の名前は江上信成! 女にモテたい15歳だ! なぁなぁ、紹介してくれよ! あんな可愛い子と一緒に居られたら本当に毎日清々しいと思うでしょ!? 嬉しいと思うでしょ!? 微笑ましいでしょ!?」
いや、別にそんな事は無いんだけれども……。
あいつが居るよりかは本が増える方が、僕にとってはプラスなんですけれども。
「あーあ……。是非ともあの可愛らしい白山楓さんと、伝説の鐘の音が聞けたらなー」
「伝説の鐘……?」
「知らないのかよー。先輩に聞いたんだけれども、十字学園には鳴らない鐘があるそうなんだが、それが鳴った時に一緒に聞いていた男子と女子は不思議な縁で結ばれるんだそうなんだぜ。そんな事があるらしくて、伝説の鐘を聞いた者の98%がカップルになっているんだそうだぜ」
「そんなのあるのかよ、この学園……」
江上は女の子にモテたくて色々な話を聞いていたらしいんだが、その中で鳴らない鐘の噂を聞いたらしい。
……そんな事を聞いている暇があったならば、もっと自分を磨いた方が良いと思う僕だった。
☆
その後、楓の連絡先を教えるまで僕に引っ付いて来る江上信成を追い払うのに苦労した。
勝手に楓の連絡先を教えてしまうと楓に迷惑がかかってしまうので、とりあえずは楓に一緒に帰って貰った。
僕が連絡先を勝手に教えてしまうのは問題だが、これから本人と仲良くなって教えて貰う分には問題ないだろう。
楓は不満そうだが、江上信成は仲を取り持ってくれた事で本当に嬉しかったそうだ。
その後、勝手に『ノブ』とあだ名で呼ぶ事を勝手に了承させた。
僕は呼ぶ気はなかったが、呼ばないと帰りそうになかったのでその場は合わせたのだけれども、呼んだら呼んだで
『ありがとう! お前の事は忘れないぜ、相棒!』
と言われてしまった。
はぁー、どうでも良い。
その後、僕は家にすぐに帰宅せずに学校に居た。
すぐに帰ってしまうと不機嫌そうだった白山楓に怒られそうだったからである。
それとほんの少しだけ江上が語っていた『鳴らない鐘』と言う物に多少の興味を持ったからである。
『鳴らない鐘』がカップルの縁を取り持ってくれるかは別としても、江上の話によるとその鐘は歯車が外されているらしいので絶対にならないはずなんだそうだ。
そう聞くと、
「まぁ、普通だったら運命とか、そう言ったロマンチックな言葉が出るんだろうが……」
けれども、この異能が普通に認知されているような世界で、『鳴らない鐘』を一時的に鳴るようにする事なんてやろうと思えばやれると思ってしまうのは何故だろう?
そんな事を考えながら、特に予定も無くただ本を読みながらブラブラと歩いていると、校舎裏に辿り着いてしまう。草木がむやみやたらと覆い茂り、ろくに管理もされていない。
日陰も多くて、人気も少ない。
流石に暗いから本が読めないから、不意に鐘の音が鳴り響く。
『Herói Isto Heroína! Herói Isto Heroína! Luta! Luta! Luta!』
入学式が終わる時に鳴ったチャイムとは別の、何か意味がありそうな音が聞こえてくる。
「……これが江上が言っていた『鳴らない鐘』の音なのだろうか?」
なんだか不思議な、言葉のような音だった。
確かにこんな音だったのならば、そんな伝説が残っていても可笑しくないだろう。
「……まさか」
「ん……?」
と、そのちょっと変わったチャイムの音にほんの少し感動していると、小さな声が聞こえる。
声の先には1人の少女が居た。
その少女は同じ高校一年生には見えないくらいの幼児体型であり、金髪ツインテールの美少女。
その呆気ない開けられた口からはアイス棒が地面へと落ちていた。
『十字学園には鳴らない鐘があるそうなんだが、それが鳴った時に一緒に聞いていた男子と女子は不思議な縁で結ばれるんだそうなんだぜ』
不意に江上のそんな言葉が頭の中でリピートされる。
本を読んでばかりいる生活をしている僕とは言っても、多少のそう言った恋愛的な物には興味があって、
「……ううん。そうだよね。うん。この学園で、あの鳴らない鐘を近くで聞いている男子と女子なんて確率的にはずーっと小さいものね。そう、これは運命、運命に違いないわ」
彼女の方もどうやらその伝説を知っているらしい。
彼女も若干満更そうではなくて、それが僕の心を揺さぶって、彼女は顔を真っ赤に染めて、
「――――じゃあ、そこの男子! 私と戦い合いましょう!」
――――そう言う彼女に、僕は一気に萎えてしまった。
「くらいなさい!」
そう言って投げられた火炎の球に、先程の台詞が残っている僕は対応出来ずに――――結果として火炎を食らって吹き飛ばされる。
これが僕、日向野健と彼女、加賀美アキとの運命的な出逢いの一幕である。