ブックチャイム(1)
僕が十字学園に入学したその日は、澄み渡った青空が美しい、通りに植えられた桜達が丁度満開になっていて本当に綺麗な日だった。
「良い風だな……」
と、僕がそう言いながら言うと、隣に居た幼馴染がいつものように素っ気ない声で「そう……」と話しかけてくる。
癖のない綺麗な銀色の長いストレートヘアーに、モデルかと思わせんばかりの綺麗な顔立ち。
身長も高く、スタイルの良いボンッ、キュッ、ボンッと言う擬音が似合うようなモデル体型。
しかしその表情は素っ気なく、人形のような無表情が張り付いている。
『まるで神様が特注したかのような』と言うような表現が似合うこの少女は、白山楓と言う僕の幼馴染である。
無口、無表情、無愛想と言う無が付く3拍子を持っている彼女なのだが、それが知らない人から見ると『奥ゆかしい』とか、『クールで綺麗』などと言う評価を持ってしまうのだから不思議である。
「入学式日和と言うか、何というか……。まぁ、雨が降っていない分マシだな」
「……本が読めるから?」
「正確に言わせて貰えれば、本が濡れる心配がないからと言うのが嬉しいな」
雨が降ると、本が湿気てしまったり、雨に濡れたりしてしまうので本当に困った物なのである。
雨が降ると憂鬱になると言う言葉があるが、それはこう言った本に対しての気持ちが感じられる言葉なのではないだろうか?
「まぁ、雨よりかは晴れの方が良いに決まっている。晴れた方が十分良いしな」
「……ですね」
と、僕と楓はそう言いながら学園への道を歩く。
学園に近付くと僕達と同じ高校生達が見えて来る。
学園へ近付くと、そこはもうファンタジーのような世界になっていた。
少年が背中に翼を生やして空を飛び、影で出来た人形を引き連れるようにして歩く少女も居る。
小柄ながらも大きなハンマーを持った者も居れば、空中に階段を作ってトコトコと歩いている者も居る。
顔がトカゲのような怪物じみた見た目になっている者も居れば、自分の周りに幽霊をくるくると纏わせている者も居る。
これが僕達の住む彼方市では日常的にみられる光景なのである。
ここは彼方市、徳島県に作られた異能者達の住む街。
こう言った街は日本全国にいくつか存在する。
北海道の戦場市、東北の貞門市、中部の緋城市や関東の鉄山市。
近畿に夕王市があれば中国地方に山鳴市。九州の真国市、そして四国の彼方市。
異能者達を閉じ込め、隔離するために日本全国各地に作られた人工の異能者特区。
それが先ほど挙げた8都市であり、その中の1つがここ、彼方市なのである。
十字学園、それはそんな彼方市に作られた能力者の高校生が通うための高校だった。
この学園の者は生徒も教職員も、全員が全員、異能を持つ異能者のための学園なのである。
「相変わらず、現実染みてないね。まるで夢みたいだ」
「……でも現実だから」
「そうなんだよな」
異能も世界に出た当時は反応は大きかった。
僕が生まれた時代くらいには、もう異能は日常的なものとして処理されていたけれども。
異能が来ようが、何が来ようが、人間は慣れるものだ。
……異能者の僕が何を言おうが、ただの絵空事に聞こえてしまうけれども。
こうして僕と楓は多くのそんな異能者と言う同校生と共に十字学園へと辿り着く。
真っ白な学園棟と2つの鐘付きの塔が美しく、そして玄関前の道には多くの上級生達が新入生を獲得する為に必死らしく、もう熱烈な部活動への勧誘をしている。
「君、異能は何系統!?」
「うちは肉体系統を特に優遇してるよー!」
「うちの部活には創造系が多いから、創造系統の人は後の参考になるよー」
「どんな系統、属種、問いません!」
「あなたの好きな活動、異能なんかで差別したりはしません」
普通ならば『経験者募集!』とか、『未経験でも構いません!』とかの謳い文句が、それが異能と言うもっと分かりやすい物に変わっているのだなと、僕はその部活勧誘を見ながらそう思うのであった。