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ブックプラント  作者: アッキ@瓶の蓋。
ハンマールード(全6話)
18/34

ハンマーウイッチ

 精神病質とは反社会的人格の一種を意味する心理学用語であり、主に異常心理学や生物学的精神医学などの分野で使われている用語である。

 その精神病質者をサイコパスと呼ぶのだが、彼らの思考パターンは実に不思議で、歪んでいて、難解めいた物である。


 異常な良心の欠如、冷淡で共感しない他者への対応、慢性的な嘘吐き、罪悪感の皆無さ。

 行動に責任を取れず、自尊心が大きく自己中心的にして、口が達者で表面が魅力的な人物。

 状況と他者との関係を悪化させ、人身支配に長けた者。

 それがサイコパスである。


 しかし、その大部分は殺人を犯す凶悪犯などではなく、身近に潜む異常人格者なのである。

 会社経営者、弁護士、TVやラジオのジャーナリスト、小売業者、外科医、新聞記者、警察官、聖職者、コック、軍人。


 本当に怖いのは犯罪者などではなく、身近にいる他人なのである。


 常に恐怖は君の隣でほくそ笑んでいる。

 本当に怖い奴らは、いつもあなたの側に潜んでいるのだ。


「動けないまま、倒す。それこそが相手と戦う時の常とう手段です。

 文芸部のひがのけん、かがみあき、しらやまかえでのお三方。あなた達は生徒会長のさいじょうひめかと同じく、何も出来ないままやられるのですよ」


 そう言って、猫屋敷蓮一郎(ねこやしきいちろう)さんはゆっくりと僕達に近付きながら、右手を上へと上げる。

 その右手にはボゥボゥと燃える炎の球が浮かんでおり、その上彼女の周りにはビュービューと風が吹いていた。


「(なんだ、こいつは……)」


 と、僕はそうやって色々な能力を使う猫屋敷蓮一郎に対して驚きを覚えていた。


 異能者とは普通、使える異能は1つだけだ。

 僕は植物をハンドガン、手裏剣、ライトセイバーなど様々な物に変える事が出来るが、それはあくまでもそれらを武器として考え、植物を武器に変えているだけだ。

 この前、暴走して犯罪を犯した久崎誠二郎(くざきせいじろう)もまた、あらゆる物に能力と言う性質を付与すると言う形の異能だった。

 つまりは、何か法則みたいな物が異能者にはある。

 僕が武器、久崎誠二郎が性質と言うように。


 しかし、この女、猫屋敷蓮一郎にはそれがない。


 炎、風と2つ以上属性を操る属性系は存在せず、僕達を動けないようにしている謎の力も考えると既に3つ。

 これだけ多くの異能を持つ人間など、聞いた事がない。


「さて、終末(フィナーレ)と参りましょう」


 そう言って、彼女が周りの風を集めて、右手に宿った炎をさらに大きくしながら、僕達に炎を浴びせようとする。


「――――――雷の鞭(サンダーウイップ)!」


 と、そうやって攻撃しようとしていた猫屋敷の手を、ビリビリとした雷が宿った鞭が払う。


「くっ……!」


 猫屋敷が呻くと共に、僕達にかかっていた謎の拘束は解除される。


「大丈夫か、君達!」


 と、そう言いながら鞭を持って現れたのは、あの入学式で一番目立っていた人物。

 そう、西城姫花(さいじょうひめか)生徒会長だった。


「さいじょうひめか……! まだ立ち向かって来るとは……!」

「生憎、こちらもそう易々と負けを認めるほど、人間的に大人ではなくて、ね!」


 そう言って西城生徒会長は手に作った雷を纏わせてビリビリと鳴る石を、そのまま猫屋敷へと投げつける。

 それを眼を瞑って避ける猫屋敷。


「……なるほど。流石、入学時の異能力検査で歴代最高の能力値を叩きだした事はあるな」

「歴代最高の能力値!?」

「そんなの、化け物クラスじゃないですか! 何考えてんのよ、あの腹黒の悪魔は!」


 西城生徒会長の言葉に僕は驚き、そして加賀見さんはこんな事をやるように命じた腹黒の悪魔、恐らく月見里(やまなし)部長へと怒りを覚えている。


「……能力値って、なん、だっけ?」


 と、1人だけキョトンとする楓に対して、僕は能力値について説明してやった。


 能力値とは、5系統10属に分かれたこれらの異能力の強さにどう基準を付けるかを悩んだ末に見つけ出した、強さを計る上での一種の指標である。

 能力者の第一世代と呼ばれる、世界で初めて能力者が生まれた時代に居たとされるジョムズ・ホーキンスは、『能力者と呼ばれる者達には脳の皮質の一部が変質している事が分かり、さらに通常の人間には見られないような三重らせん構造が確認された』として話題を呼んだ。

 彼の研究によって、新しく子供が生まれた際に三重らせん構造の有無で能力者かどうかを判別でき、なおかつ変質した脳の皮質から出る特殊な物質を測る装置を開発する事で、能力者の能力の強さを分かる事が出来た。


 つまり、能力値が高いとは、それだけ能力が強いと言う事である。


「……とは言っても能力値は成長、それに戦闘経験などで変化するとも言われていて、なおかつ今でも検査の仕方に対して不明な点や不可解な点が挙げられているから、あくまでもそれなりの基準程度にしかならないが、それでも歴代最高の能力値を叩きだした事は頭に入れて置いた方が良い。それだけ強いと言う事だから」

「なる、ほど」

「良く勉強しているな、君は。名前は?」

「日向野健です、生徒会長」

「そうか、覚えて置こう」


 雷で双刀を作り出しながら、猫屋敷が撃つ水の球を撃ち落として行く西城生徒会長。


「猫屋敷蓮一郎、彼女の能力は魔法です」


 と、撃ち落としながら説明する生徒会長。


「(魔法とは……この異能力社会には似合わない物を……)」

「おや、人の異能力を語るのはあながち違反行為ではないですか? さいじょうひめか生徒会長?」


 いくつも炎の球と水の球を入り乱しながら猫屋敷は放ちながら、それをいなして行く生徒会長。


「相手の能力のレパートリーは火や水などの属性、重力や斥力、さらには召喚など多種多様。正直、勝てる見込みは低いと言わざるを得ないね。でも……」


 雷の鎧を作り出した生徒会長は、そのまま高らかに猫屋敷へと宣言する。


「戦う事を諦める事だけはしたくない! それが生徒会長である私の全てなのだから!」


 そう言った彼女はそのままニコリと笑い、僕に対して合図する。

 僕は彼女が何を望んでいるのかを理解し、持って来ていた葉っぱを1枚、武器へと変える。


「お前も役に立つ、猫屋敷蓮一郎! だが、戦いはまたこの後にお願いしたい物、だな!」

「さいじょうひめか生徒会長、め。そんな事を言われても、私はいちじくじゅういち部長にしか従いません、よ!」

「そうか、残念だ、な!」


 そう言って今だ! と言う指示を目で訴えかける西城生徒会長の願を受け止め、僕は持っていた煙玉を地面へと叩きつけると、地面に真っ白な煙がその廊下の中を充満させていく。


「ゲホッゲホッゲホッ……! ひがのけん、やってくれましたね!」

「煙玉、か……。なかなか、だな」

「ケホッ……! ちょ、ちょっと何をすんのよ! こんなのするなら、先に言いなさいよ!」

「……煙、玉。びっ、くり」


 そして、僕達はそのまま逃げるようにして立ち去って行った。


 そして煙が消えた後、猫屋敷蓮一郎は誰も居なくなった廊下を見て、小さく舌打ちをして「い、いけない!」とすぐさま電話を取り出して、猫屋敷はどこかへとかけ始める。


「……あっ、もしもし、ねこやしきれんいちろうです! いちじくじゅういち部長、すいませんでした! 先輩の言われていた文芸部の討伐を果たす事が出来ず、それに女の子らしくない舌打ちを……えっ、戦うだけで良かったんですか? それでしたら早く言ってくださいませんと、対応が違ってきますので……。

 と言うか、部長、後ろから聞こえる可愛らしいアイドルの声はなんでしょうか? もしや、言っていた女性を連れていけない写真部の活動ってアイドル鑑賞会の事で……って、なんでそっちにくるまざき先輩の声が聞こえるんですか! 女性ですよね、女性部員ですよね、くるまざきりか先輩は! あっ、ちょっと! いちじくじゅういち部長! 部長―!」


 もう既に先程まで戦っていたはずの日向野健達を忘れ、部長である九十一に対してちょっと膨れ顔の猫屋敷だった。

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