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ブックプラント  作者: アッキ@瓶の蓋。
ハンマールード(全6話)
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ハンマーストロンゲスト

 最強、それは1つの指標である。

 どんな状況でも強大で、どんな相手であろうと勝利し、どんな環境であろうとも無傷で。

 誰にも負けない、最も強い事を最強と呼ぶのだけれども、それはあくまでも概念的な問題である。


 どんな時であろうとも強く。

 どんな敵であろうとも勝って。

 どんな場所であろうとも傷なく。

 そんな『最強』は存在しないのである。


 だからこそおおよその場合、最強にはその前に条件が付く。

 水中戦最強、空中戦最強などの戦う場所においての最強。

 二十代男性最強、○○学園最強などの戦う相手を限定しての最強。

 氷山での最強、火山帯最強などの戦う環境についての最強。

 スナイパーライフル戦最強、ハンマー戦最強などの戦う武器を限定しての最強。


 ある意味、最強とは条件を指定さえすれば、どんな場所であろうとも生まれ出でる存在である。

 しかし、だからと言って、最強とはそう簡単に倒せるような存在ではない事は言うまでもない。


 僕、日向野健(ひがのけん)は同じ部活の仲間である加賀見(かがみ)アキと白山楓(しらやまかえで)の2人と共に写真部の部室へと向かっていた。


「1年生最強……か」


 僕がそう呟くと、2人がどんな人でしょうね、と考えるように呟いていた。


「……恐らく、入学式の時の成績で、判断?」

「まぁ、普通に考えればそうでしょうね! 未だに1年生同士での大規模な戦いとか行われていない訳ですからね?」

「と言う事は、1年生最強、も……」

「テスト上の判断と言う可能性もありますわね! まぁ、3人も居れば倒すのも簡単ですよ!」


 アキと楓の2人は嬉しそうに言っているけれども、僕はそんなに楽観視はしていなかった。

 1年生最強と言う事はまだしもどうとは思うけれども、とりあえず入学式であんなに早く倒していた人をすぐに倒していたんだから、それなりにその1年生、猫屋敷蓮一郎ねこやしきれんいちろうの強さは明らかである。

 そこまで楽観視して戦える相手ではないだろう。


(こっちは結構、きついのに……)


 植物を武器へと変える創造系化成属の僕の力は、あくまでも植物を武器として変換させる異能力だ。

 どれだけ強い武器へと変換する事が出来て、大きな物から沢山の物まで出す事を可能としていたとしても、あくまでも植物があると言う事が重要だ。

 とりあえずそこらに咲いている春の野花から花びら数枚は持って来たが、屋内などの植物がすぐに見つからないような場所で、果たしてどれだけ戦えるだろうか?


「ん……?」


 と、そう思いながら考えていると、写真部の部室前に1人の少女が立っていた。


「おきゃくさま、ですか? 只今、いちじくじゅういち部長は留守にしておられますので、要件があるようでしたら後でお願いしたいのですが……」


 その少女は、背の高い美少女であった。

 黒髪のウエーブがかった髪や、整った顔の大きな瞳の下にある泣き黒子、それに全身もまたボンッキュッボンッと言う擬音が似合うようなとても良いスタイルをしている。

 腕には銀色の腕輪、首からは禍々しいオーラを発するネックレス、そしてその手に持つ長い奇妙な杖さえなければ、普通になんて事もない美少女と言って良いほどの人物。


「部長は只今、他の部活のメンバーさんと一緒に部活動に出かけられました。よって、この先に行ったとしてもいちじくじゅういち部長には会えませんが?」


 キョトンとした顔でそう言う美少女。

 僕達は顔を寄せ合って、小さな声で話し合う。


「(あの美少女が1年生最強の猫屋敷蓮一郎?)」

「(いや、流石に少女に蓮一郎はないと思うけど……)」

「(私も、そう、思う)」

「(じゃあ、一旦帰ろうか。他の人達も部長さんと一緒に部活動とやらに行っているみたいだし)」

「「(そうですね)」」


 そう言って、僕達が振り返ると彼女はキョトンとした顔でこちらを見ていた。


「……話は終わられましたか、おきゃくさま?」

「えぇ、まぁ……。ちょっと写真部の猫屋敷さんにお話があったんですが……居ないようなので……」

「……ねこやしきれんいちろうは私、ですが」


 その言葉に3人揃って驚いて、そのまま再び小声で話し合う。


「(どうする? 本人だったよ!)」

「(いや、でもさぁ……私達が敢えて戦わなくても良いんじゃない? ここまで来たけど、恨みがあるのはあのヤンデレ百合だけでしょ?)」

「(そう、だね)」


 僕達は別に戦いに来た訳ではない。

 いや、一応写真部へと来てはいるけれども、ただ様子を確認しに来ただけだ。

 今回の依頼は本当に身勝手であったため、部長も「まぁ、一回様子見程度で行って来てね~」と言われたくらいだから。

 居なかったら帰る、居たとしても帰る。

 僕達3人はそのくらいの気持ちで来ているのだ。


「(じゃあ、とりあえず帰ると言う方向で良いわよね?)」

「(あぁ、僕も問題ない)」

「(私の方、も)」


 と、3人でコクリと頷き合いつつ、その美少女、猫屋敷蓮一郎さんの方を見る。


「で、わたしに何か用だったのでは?」

「いえ、特には……ちょっとした確認でして。写真部の猫屋敷さんの写真を撮って来いみたいなのを部長に頼まれまして」

「部長さん? どこの部でしょうか?」

「文芸、部」


 楓が答えると、ピクリと猫屋敷さんは身体を揺らして、「3人のおなまえ、聞いてませんでしたよね? なんと言うのでしょうか?」とそう言う。

 僕達はなんかヤバい予感がしつつも、名前を応える。


「え? えっと……文芸部の日向野健、です」

「同じく文芸部の加賀見アキよ!」

「……文芸部、白山楓」


 そう答えると、猫屋敷さんは


「ひがのけん、かがみあき、しらやまかえで……。なるほど、いちじくじゅういち部長が言っていた通りですね」


 と、ニッコリとした顔でこちらを見る。


「いちじくじゅういち部長は、今から文芸部の3人がわたしが前に倒してしまったさいじょうひめかの敵討ちを願うひだりりんの呼びかけで来ると行って出かけられました。そしてその名前が……」


 ゆっくりとこちらへと近付いて来る彼女。


「ひがのけん」

「うっ……! 身体が!」


 彼女に名前を呼ばれると、僕の身体は何故かまるで石にでもなってしまったかのように固まって動かなくなってしまう。

 その間にも彼女は近付いて来る。


「かがみあき。しらやまかえで」

「「うっ……!」」


 名前を呼ばれた途端、僕と同じように動かなくなってその場に座り込む2人。


「わたしだって、さいじょうひめか個人には何も恨みはありませんが、いちじくじゅういち部長よりも上だと考えている人物が居るので我慢出来ませんでした。だから戦って、勝利しました」


 そう語る彼女の笑みは、文芸部に無茶な欲求を突きつけた左さんの顔そっくりで、


「……あなたたちも頼まれただけで、特にわたしに対して何かしようとした訳ではないんですよね? ですので、このくらいで許して差し上げましょう」


 誰かに依存する、狂ったような笑顔のまま、


「全てはいちじくじゅういち部長のために」


 僕達の肩をそっと叩く化け物の姿がそこにはあった。

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