サンダーキャンソル
生徒の自主性と自由を尊重する為に、選抜された生徒により運営される組織、生徒会。
普通の学園にとっては、生徒会とは特になんの変哲もないただの生徒会自治組織でしかないが、異能者の住む異能特区だとそうはいかない。
異能特区における学園の生徒会とは、他の異能者特区の学園との懸け橋であり――――――同時に他の学園に対する防波堤の役割も果たしている。
☆
「……それでこの騒動を起こした久崎誠二郎は、私の方でほんの少しばかり調教した後、風紀委員の方に渡しておきましたわよ?」
「ご苦労様……ですね。あなたの望み通り、文芸部には追加の補充品を優先的に発注するように頼んで置きます」
と、生徒会長である西城姫花は、ニコリと微笑んでいる文芸部長の月見里奈々へと書類を渡す。
「うんうん。生徒会長の姫花さん、また出来たらお願い致します、ね?」
「あ、あぁ……。出来たらまた連絡するよ」
そして手を振って扉を出て行く月見里が完全に出て行ったのを見て、姫花はゆっくりと息を吐く。
「……もう出て行った、かな」
「そう邪険にするべきではないと思うけどな~。ほら、西城生徒会長、お茶が入ったよ~」
と、生徒会会計の尾上拓郎は生徒会長の机の上にお茶を置く。眼鏡をかけた黒髪ショートの彼は、「大丈夫かい~?」と生徒会長の姫花に声をかける。
「あ、ありがとうございます。尾上先輩」
「普通に会計で良いんだよ~。ほら、左書記にもあげましょうね~」
「……ありがとうございます、尾上先輩」
と、月見里さんが帰るまでずっと不機嫌そうに部屋の隅でじっとしていた書記の左凛がお茶を受け取る。
小柄な彼女は、その身長とあまりにも似つかわしくない長すぎるポニーテールの髪を使いつつ、これまた合っていない大きめに作られている服の裾を持ちながら、湯呑みを受け取る。
生徒会長で、2年生の西城姫花。雷を武器として操る属性系有象属の異能力者。
生徒会会計で、3年生の尾上卓郎。無個性な物体を作り出す創造系無有属の異能力者。
生徒会書記で、1年生の左凛。物の大きさ、重さを変える付与系状態属の異能力者。
この3人こそが、彼方市の十字学園を背負って立つ、生徒会メンバーである。
「左君はいつも、文芸部長が来ると緊張し続けているけれども、彼女は別にそこまで悪い人ではないんだよ?」
と、この中で一番年上の尾上が、一番年下の左を宥めるようにそう言う。
「……尾上先輩の言う事も分かりますが、私、あの人の事がどうも苦手でして」
「同姓だし、なおかつ彼女の持つ異能力は超力系順応属で、水中でも自由に動けると言うくらいの能力だよ~? 気にし過ぎだと思うけどな~」
「……いえ、こうあの人の身長に似つかわしくない、あの豊満な胸を見ていると、何故か憎悪が……。女にしか分からない感覚ですので、尾上先輩には分からないと思いますが」
そう言って、自分の小柄な身長と同じくらいぺったんこな胸を触って落胆しつつ、なおかつ自分と同じくらいの身長なのにも関わらず女として魅力的すぎる豊満な胸の事を思い出し、さらに愕然としていた。
そして生徒会長の姫花の方に駆け寄る。
「……やっぱり私にとって、一番は生徒会長の姫花先輩みたいなのが丁度良いですね~」
とそう言いながら、本当に満面の笑みで姫花に抱きつく左。
……簡単に言うと、1年生の左が生徒会に入っているのは彼女がそれだけ優秀であると同時に、それだけ生徒会長の姫花が恋愛的な感情として好きであると言う事も理由としてあげられる。
彼女が言う「丁度良い」大きさの胸に埋もれるようにして入りこむ左に、姫花はちょっと困惑していた。
「尾上先輩、助けてくれませんか?」
「後輩の言う事はやってあげたいし~、そうしたいのは山々だけど~、今の左君に他者が刺激を与えると多分ダメだと思うし~。止めて置くよ~」
アハハ~、となんとも気のない返事をする尾上。
「スゥハァ、スゥハァ!」
と、なんか胸の中で呼吸をする左に、ちょっとなんか背徳的な物を感じてしまう姫花。
(だ、ダメよ、姫花! 私は女性で、彼女も女性。同性同士だなんて、駄目に決まってるじゃない! 気持ちを強く持ちましょう!
そう、素数を数えましょう。1、2、3、5、7、11……って、あれ? 1って素数だっけ?)
自分の胸で喘ぐ左に対する背徳感を抑えるために、雑念を消そうとする姫花。
そして「ハァハァ」と荒い息を吐く左。
それを優しく見守る尾上は、「そう言えば……」と思い返したように言葉を発する。
「なんか、この雰囲気。去年の生徒会を思い出すね~」
「……去年、と言うと、私がここの生徒会に入るように申請していた頃ですね」
と、やっと胸の中から出た左は、尾上にそう声をかける。
「そう~。本来、中等部の生徒が、高校の生徒会に申請をかけるなんて、滅多になかったからね~。まぁ、あの頃の生徒会長が……君を採用しなければ、今の君はこの生徒会室には居なかったかな~」
「……生徒会に入って無ければ、無断で生徒会室に入って姫花先輩に入り浸ってただけです」
「それもどうかと思いますが……」
姫花の声に、聞こえないふりをする左。それをニコニコと保護者のように見つめる尾上。
「あの頃の生徒会は2年の僕はそのまま会計、そして書記で会長推薦枠の当時1年のイチジク君が居てね~。そして生徒会長の当時3年生の、創造系化成属の山城生徒会長の3人で運営してたんだ~。ちなみに、その頃、姫花君は風紀委員会に所属してたんだ~」
「……初耳です。私はてっきり、姫花さんは1年から生徒会に居る物かと」
「そう言う事もあった、のよ」
とそう言って窓の外を、グラウンドを見つめる姫花。
「……で、尾上先輩、続きを」
「それで山城前会長は後継者として十一君を指名したんだけど、彼は『自分には相応しくない』の一点張りでね。そう言う訳で、生徒会選挙で風紀委員会で人気があった姫花君が、生徒会長になった、と言う訳さ」
「……だよね、姫花君?」と尾上がそう返事を求めると、コクリと小さく頷く姫花。
「……私が知らない所でそんなドラマが」
「創作物と言うほどでもないよ~。あくまでも現実物語のようだったよ~。まぁ、そんな訳で今こうして、新しく左君を加えた3人で、生徒会を運営すると言う立ち位置に戻る訳さ~。
ほら、生徒会長。この会計書類審査、終わったからハンコ頂戴~」
「了解しました、尾上先輩」
そう言って、姫花は尾上が差し出した書類に『承認』の印鑑を押して行く。
「左君も、書記の仕事があるんじゃない~?」
「……そう、ですね。姫花先輩に抱きつくのはそれからにします」
自分の席へと戻った左は、猛スピードで書類を1つ1つ作成していく。
生徒会長の姫花に対してレズ的な面もある左だが、彼女はそれ以上に優秀なのである。
それをうんうんと肯いた後、尾上は自分の作業に戻る。
その後、数十分間、生徒会室の中では作業の音だけが続いていた。
3人が3人とも、与えられた仕事をこなしていたその時、コンコンと扉がノックされる。
「……月見里さんがまたせびりに来たんでしょうか?」
「左君、言い方。言い方」
「……そうですね、尾上先輩。訂正します。また強請りに来たんでしょうか?」
「あんまり言い方、変わってないと思うよ~」
と、尾上と左が漫才をしている中、コンコンともう一度扉がノックされる。
「どちら様でしょうか?」
と、姫花が問いかけると、ノックをしていた人物は男らしい声でこう名乗った。
『……写真部部長、イチジクだ。部の中間報告に来た』
「……イチジク!」
その個性的な苗字に、左が反応する。
先程の話に出て来た去年の生徒会前書記で、なおかつ前生徒会長の誘いを断った人物の名前だったからである。
「どうぞ」
と、姫花が答えると扉の前の人物はゆっくりと扉を開けた。