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ブックプラント  作者: アッキ@瓶の蓋。
タイガーフレンド(全7話)
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タイガークリミナル

 最初は母親に頼まれたから。初めはなんて愛想のない女なのだろうと思った。

 それに肉体系変質属で、さらに自身の『虎』と言う力に飲み込まれて幼い頃はその制御に付き合わされていた。

 はっきり言って、良い印象などこいつに対して1つも持ち合わせていなかった。

 けれども長年過ごすうちに、こいつの良さと言う物が段々と見えてきた。

 ……と言うよりかは情が湧いて来たと言う話である。

 いくら凶悪な動物であろうとも、長年一緒に居る事によって少しくらいは感情が湧いてくる。


 愛とは言えないかも知れない。

 無関心ではないとは言える。


 好きとは言えないかも知れない。

 嫌いではないとは言える。


 愛や好きとは言えなく、無関心や嫌いとは違う、僕はそんな感情を楓へと持っていた。


 「彼女が襲われている」。

 ――――そう聞かれて、助けるくらいには僕は彼女の事を評価していた。


 部長に「時計台の鐘にて楓が犯人と居る」と言われて、僕は時計台の鐘へと向かっているのだが、その最中で


「はぁ、しんど……」


 僕は既に自分の軽率な行動を反省しつつあった。

 なにせ、この時計台の鐘はエレベーターも、ましてや階段すら整備されていないここでは、梯子のみが鐘への道だった。

 これはどう見ても、僕のような読書好きの人間がやるような事ではない。


 僕の異能は植物を武器に変える力であり、断じて肉体を酷使するような物ではない。

 全く……。

 僕にこんな事をさせるくらい迷惑をかけたんだ。

 ちょっとくらいは感謝してもいいはずである。


 そう思いながら、僕が長い長い、とっても長い梯子を上ると


「……ケン!」

「相棒!」

「ほーら。どうやらお出迎えが来たようだな? 女の方の目的の人物ならば恋人、男の方の目的の人物ならば禁断の関係、と言う所だろうか? ハハハ!」


 そこに居たのは、白山楓と江上信成(バカ)が居た。

 2人はそれぞれビリビリと雷が光る手錠のような物をかけられている。

 楓は涙目で可愛かったのだが、バカはただただムカつくだけだからその上目遣いを止めて欲しい。

 そして、その場には楓とアホの他にもう1人存在していた。


 そう、あろう事かバカと俺が恋仲と言う邪推をした奴、ここに来るまでに月見里部長に携帯で聞いたこの騒動の犯人である。

 そいつは長い髪の毛がオレンジ色と言う、普通とはちょっと違った男である。

 そいつは右腕が白、左腕が黒と言うちょっと変わった制服を着た男である。

 そいつは全身にビリビリとした雷のような物を纏いつつ、こちらを見ていた。

 俺はそいつの名を……部長から聞いていたそいつの名前を呼んだ。


「十字学園2年、帰宅部の久崎誠二郎(くざきせいじろう)……だな」

「なるほど。お前は確か文芸部ってこいつらから聞いていたな。つまりはその情報は、情報通の月見里(やまなし)からの情報だろう? 俺はお前らと違って目立たない、さえない異能者だからな!」


 堂々と自身の経歴の虚しさを語る久崎。

 実際に月見里部長から語られた今回の騒動の犯人、久崎誠二郎の学歴にさしてあげるような特徴は存在しない。

 理系よりも文系の方が成績が高く、美術よりも体育の方が好きで、クラス内でそれなりに友人が居るけれども多いと言う訳でもない、そんなごく普通の男子高校生。

 今回の騒動を起こすような変な人物では無く、彼の中で一番気になったのはその異能力だ。


「それも俺の使うのは、雷! そう、俺こそが属性系無象属の雷使いだ!」

「……それが犯行の理由でよろしいか?」


 携帯で聞いた月見里部長からの報告によると、この久崎誠二郎なる人物の異能力は付与系(・・・)

 付与系と言うのは物や人の大きさや重さの状態を変化させたり、硬度や比熱などの性質を変化させる。

 彼はビリビリとかアツアツとかの性質を変化させる能力者の事である。

 彼は確かに全身にビリビリとした雰囲気を漂わせているけれども、これはビリビリとした性質を付与しているだけである。

 全身に雷を纏わせてはいるように見えるが、ビリビリとした性質を自身に付与しているだけである。


「俺は雷を使ってる! このビリビリは確かに雷だ! しかし、他の奴らは俺を付与系と言う! それが俺は許せんのだ!」


 世界に異能が生まれたのは言うても数十年前の事だ。

 異能の分類だって完全じゃない。

 1年でその内容が更新された事だって歴史を紐解けば数はある。

 それ故に彼のような、全身にビリビリと雷のような物を付与している者を、付与していると言うだけで付与系と断定されたが、納得されていないような者も居るのである。


「だから鐘を鳴らして、自身の属性が雷だと言ったのか?」

「そうだ! この鐘は歯車が無いと動けない! だが、歯車がなくても、電力さえあれば機械は作動する。雷が操れると言う証明で……」

「こんな小細工までしてか?」


 と、僕はそう言って鐘の内部に貼ってあったそれを取り出す。


「て、てめぇ……!」

「そう怒ると、自分が犯人だと自白しているような物だ。小説だと良く犯人がそう言ってるしな」


 僕が鐘から取り出した物、それは携帯だ。

 ごく普通の、ちょっとだけ音量を高めに設定した携帯である。

 今までは『歯車がない』事を疑問視していたが、別に歯車があったの、なかったのと言う問題は今回の騒動には関係ない。

 要は音が聞こえれば良いのだから。


 この古い鐘が鳴らすのは、『ゴーン! ゴーン!』とか普段皆が鐘の音として聞きなれている物ではなくて、数十年前に流行った曲だ。

 その音がチャイムの音か、それとも携帯の電子音かなんて、曲に驚いている人には分からない。

 後は簡単だ。

 それを今僕が鐘の内側から取った携帯の着信メロディとしてセッティングし、後は携帯に着信すれば準備は完了。


「お前が鐘の内部に付与した、音の大きさを変える性質……反響の性質を変えれば、携帯の着メロが大音量で人の耳に入ると言う。まさにそうやってやったんだろう」


 まぁ、ふたを開けてみればこんなのは事件でもなんでもない。

 ただの騒動だ。

 自分が雷を使える属性系だと言った男子高校生がしでかした、携帯を使った悪戯(いたずら)と言うのが今回の顛末だろう。


「大体、鐘の内部に音の反響を操作する付与を施しておいて、属性系と言うのは無理がないか? 属性系はそんな事、出来ないからやっぱりお前は付与……」

「――――黙れ!」


 そう言って、久崎は物凄い勢いで僕にバットを振り回して来た。

 そのバットは硬度を変えられたようで、まるでコンクリートで殴られたくらいの、痛い衝撃を受けた。


「お前に何が分かる! 俺は関東、産まれは異能特区の鉄山市! 俺の両親は2人とも属性系で、近くに住む者達はほとんどが属性系!

 それなのに……1人、必死に付与系であるのに、属性系であるために雷に偽装していた俺の苦労がお前に分かるのか!」


 北海道の戦場市。

 関東の鉄山市。

 九州の真国市。

 この3つの異能特区にはそれぞれ共通した特徴がある。

 それは同じ系統の者しか住む事が許されないと言う物だ。


 戦場市は肉体系、鉄山市は属性系、真国市は超力系の能力者しか住む事を許されていない。

 表向きは同じ系統の者を集めて連帯感を出すと言うのが目的だが、裏の目的は他の系統を排除しての純粋培養、真の目的は強い勢力を持っての他の異能者の統治。

 それ故、その異能特区と言う土地で生まれた者であっても、それ以外の能力の系統を持つ異能者しか住む事を許されない。


「……属性系同士の結婚だからと言っても、能力者が生まれるとは限らないし、第一生まれた子供が属性系かどうかなんて決まらないぞ」


 どこかの研究所によると異能者同士の結婚による子供が異能者である確率は高くなるらしく、また両親が同じ系統だった場合は子にも同じ系統が生まれやすくなるらしい。

 けれども、これはあくまでも確率的な話だ。

 彼のように、属性系統の両親から付与系の子供が産まれるのは少ない話ではない。


「黙れ! 黙れ黙れ黙れ、黙れ!」


 そう言いながら彼がもう一度、硬度を高めるように付与した金属バットで僕を殴る。

 今度はさっきよりも硬く、それだけ力が入っているように見えた。


「お前に何が分かる! 親のあの残念そうな瞳、友達からの嘲笑(えみ)、そして俺をこの異能特区へと送った時の両親の――――!」

「――――――分からないね」


 と、僕はそう言いながら彼のバットを持って睨みつける。

 頭から血が流れているようで視界の一部が赤く染まっており、久崎が「ヒッ……!」と驚いたような表情を見せる。


「僕も、そこに居る楓も、どっちも両親との縁は薄い。どちらも、お前の両親のように能力者じゃなかったからだ。お前は怨めるくらいある程度の思い出があるようだが、少なくとも僕にはない。だから、そんな事は分からない」

「だま……」

「――――――でも、お前はやってはいけない事をした」


 と、僕はそう言って彼に詰め寄る。

 彼はますます怯えたような表情を見せる。


「自分が属性系統になりたかったのは良く分かる。親と同じ能力が欲しかったのは良く分かる。だが、感情(おもい)行動(うごき)と同じではない。

 お前がどう思おうとも、お前がやったのは許されない行為だ」


 鐘を鳴らす事は良い。それで自分の気持ちが晴れるのならば。

 だが、それと楓(ついでに江上という名のバカ)を襲う事は決して許された行為じゃない。


「じゃ、じゃあ、どうすれ……」

「どうすればなんて、いまさら言えるか。そして、それに対して僕が答える必要はない」


 僕はただの、ごくありふれた高校生であり、お悩み相談に答える義務はない。

 そう言うのは先生か、親に聞いて欲しい。

 親だって電話をすれば、声も聞こえるし、感情だって伝えられるのだから。


「う……うるせー!」


 もう自身でもどうすれば良いか分からない行き場のない感情を持ったまま、久崎はバットを大きく振りかぶる。

 そのバットには先ほどまでとは違って、ビリビリとした雷のような物が纏われていた。

 もう一度殴ろうとする彼、そして彼の持つバットが僕へと振り下ろされ――――――


「……やめ、ろ」


 と、彼の背後で楓がそう言いながら彼のバットを掴み、そのままバットを握りつぶす。


「……な、なに!? ここまで硬度をあげ、さらに電撃を加えたバットをあっさりと!?」


 久崎がそう言って振り返ったそこには、頭に白い猫耳を生やして、尻尾から白い耳をゆらゆらと揺らせる、全身から強者の感覚を漂わせる、1匹の獣の姿があった。


「……『タイプ・タイガー』にとって、あの程度、柔らかい、もの」


 そう言って、楓はその腕の筋肉を盛り上げ、そして


「……あなたも、ね」


 肉食獣としての本能そのもので、彼の顔を思いっきり殴った。


 彼はまるで紙のように吹っ飛び、地面を転がりながら、最後には気絶していた。

11月25日、「属性系」が「性質系」になっていたので修正しました。

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