表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックプラント  作者: アッキ@瓶の蓋。
タイガーフレンド(全7話)
10/34

タイガーノスタルジア

 異能を持つ異能者の中でも、肉体系変質属は特殊な立ち位置にある。

 肉体系変質属は身体を別の物にする能力者であり、その"別の物"は人によって異なって来る。

 例えばとある肉体系変質属の少年はその身の中に"狼"の力を宿している場合、狼の嗅覚と鋭い牙を手に入れる事が出来る。

 またとある肉体系変質属の少女はその身の中に"ナイフ"の力を持っている場合、全身が鋭く切れるナイフのようにする事が出来る。

 そして肉体系変質属の一番の特徴として、その身に宿す力にひどく影響を受けていると言う事である。


 "魚"の力を宿す肉体系変質属の能力者は昔から海と共に生きるような生活を送るのが好きになり、"猫"の力を宿した肉体系変質属の能力者は飽きっぽい性格だった。

 "メス"の力を持つ能力者は医者を目指し、"銃"の力を持った者は警察官を志した。

 一時期は学会にて宿した物と宿主の能力者の性格の一致性について論文が出されていたくらいだ。

 この理論は大きな反響を呼んだが、結局は例外があったりしたためにおじゃんになったのだがこの法則はかなりの類似性で話題となった。

 そして、これは同時に変質属の危険性をも表していた。この理論によると、凶暴な生物や破壊力の高い武器を宿した者は、狂人や殺人鬼になりやすい傾向にあると言う話である。


 これに過敏に反応したのが、近所に肉体系変質属の能力者が居る、ごく普通の子供の親だった。

 彼らはテレビの言った事を中途半端に理解し、そして中途半端に信じた。

 それ故に彼らは『肉体系変質属の能力者は全て危険である』と言う事を勝手に信じ、子供達にそう言った人物と関わらないように言ったのだ。


 この無遠慮な言葉の、弊害の被害にあった人物の1人、それが白山楓(しらやまかえで)である。

 彼女は肉体系変質属の能力者であり、なおかつ『タイプ・(タイガー)』と言う、凶暴な虎の形質を宿した少女だったのだ。

 彼女が先に挙げたような危険な性質を宿していると言う事だけでなく、彼女には他にも怖がられている理由があった。


 肉体系変質属の中には、幼い時は度々その中の性質に近寄ってしまうと言う事があり、楓はそれに非常に多く影響され、幼い頃は感情が高ぶると自分の意図しない形で虎となって暴れる事が多かった。

 それ故に、白山楓は他の能力者からも忌み嫌われてしまっていた。


 これはそんな楓の幼い時のお話である。


『良い? 楓ちゃん? 虎にならないように気を付けてね』

「……うん」


 能力者だと分かった子供は5歳を越えると、親から離れて異能特区へと送られる。

 親が能力者な時は別なのだが。


 楓は母親から離れて1人で暮らしており、母親は毎日のように楓を心配して電話をかけていた。

 能力者じゃない母親からの電話を切った楓は、そのまま淡々と学校への準備を始めていた。

 この頃から楓は今と同じく、無表情で無感動な性格であった。

 これは少しでも感情を抑えるためにやっていた事であった。


 いつもと同じように淡々と無表情に学校への準備をして、家に鍵をかけて出る楓。


「来たか……」


 そんな楓にいつも声をかけてくれるのは、電話越しで会話してくれる楓の母親と、幼馴染の日向野健(ひがのけん)の2人だけであった。

 健は、いつも学校への登下校は楓の事を待ってくれて、休日も毎日顔を出して楓が弱気にならないようにしてくれていた。

 まぁ、これは楓の母親の幼い頃からの親友である健の母親からの指示の元、毎日のように健が楓を見てくれていたのだが、幼い楓の心をどれだけ平穏に保っていたのかは言うまでもない。


「……おは、よう」

「はいはい。おはよう。さぁ、学校に行くか」

「……うん」


 毎日毎日、こうやって楓は健と学校に通っていた。


 休日は楓は健の指導の下、自分の虎の力を抑える訓練を受けていた。


「ほら、始めるぞ」

「……でも」

「安心しろ。僕はいつも通り、お前の訓練を読書する間だけ見ているだけだから」


 そう言って、彼は草花を触って、それを手錠付きの鎖へと変える。

 創造系化成属の日向野健、彼の能力は植物を武器へと変える力であるが、その武器の定義は彼の思考に判断される。

 例えば『相手をおっぱらう』と言う意味であれば防犯ブザーも十分に武器なのである。

 そしてその時の彼にとって、行動を制限するだけの手錠付きの鎖は十分に武器だった。


「ほら、ちょっと痛いぞ」

「……うん。がん……ばる」

「その域だ。早めに終わってくれると、母さんにも良い報告が出来るからな」


 そう言って彼は楓に手錠をかけて、鎖を地面に打ち付けると読書を始めてしまった。

 鎖を付けられた楓はいつもは抑えている虎の力を自分から解放して、その力を安全に操る訓練を始める。

 その訓練は最初の頃は何回も失敗して、健がその度に楓を止めてくれた。

 彼の能力は植物の生命力が高いと武器の威力が強くなるので、植物が少ない冬はあまり武器の威力がなかった。

 だから楓が暴走すると威力が弱いから止める前にいっぱい怪我するのか危険だったのだけれども、彼はそれでも手伝ってくれた。


 時にはボロボロにさせてしまう事も、全治何週間もの怪我をさせてしまう事もあった。

 彼の愛している本を傷付けてしまう事もあった。


 けれども彼は文句を吐いて、溜め息を吐いて、怒って来る事はあっても、決して楓のための特訓を止めたりはしなかった。

 降りようとはしなかった。

 一回だけ楓の方から彼を心配して特訓を止めようと言ったけれども、彼はそんな楓を叱ったくらいである。


 それについて楓は何も語らなかった。

 けれども、その瞳には涙が流れていた。

 楓の力を抑える特訓は、彼女が自身の力をコントロール出来るようになった小学校5年生まで続いた。


 小学校も高学年へとなり、虎の力をコントロール出来るようになった頃には、白山楓を見る目は変わっていた。

 彼女は人一倍成育が速く、小学校5年生の頃にはクラスでも一、ニを争うくらい女らしい容姿へと変わっていた。

 昔こそいつ虎の凶暴的な性格になるのか不安だったが、この頃になるとただ無口で大人しい人一倍女らしい女だったので彼女に告白する者も少なくなかった。


 しかし、彼女は告白に全て無言を貫いて断り続け、告白を断った事によって怒り狂う者が居ればその者を凶暴なる虎の力で追い払っていた。

 告白した者の中には「他に好きな人が居るのか?」や「絶対に俺の方が幸せに出来る」など彼女に好きな人が居るのかと問いかけた者も居るが、彼女の返答の言葉はいつだって何も無かった。


 小学校を卒業し、中学校へ。

 中学校を卒業し、高校へ。


 いつだって白山楓の隣には彼が居た。

 いつだって日向野健の隣には彼女が居た。


 互いが互いに支え続け、そしてお互いの区別がなくなるくらい、2人は互いの傍に居続けていた。


 高校生になり、日向野健が加賀見アキと言う人物と共に、文芸部へと入っても楓は何も感じなかった。

 けれども彼が学校でささやかれている『鳴らない鐘』の噂を気になっている事を知り、なんとかして助けてあげたいと思った。


 虎の力を完全に自分の手中に収めた彼女にとって、そこいらに居る猫は体の良い情報収集源である。

 虎の威圧感を出せば、噂好きの彼らは素直に自分達が知る情報を吐く。

 普通の人間にとっては聞き取れない言葉も同じネコ科であるため、虎の力で彼らの話を楓は聞いて情報を集める。

 そうやって、楓が江上信成(アホ)との、どうでも良い下校時間をしている間に仕入れた情報によって、この事件の真相は見えていた。


「なぁ、楓ちゃん。これは流石に拙いと思うな」

「…………」


 横で勝手に着いて来たアホが何か言っているが、気にしない。


「いや、良いとは思うんだけれども、ちょっとこれは流石に拙いと思うよ。いくら2人とも肉体系とは言っても、ただの高校生であって、別に犯人を取り押さえるだけの力があると言われると――――」

「……黙っ……て」

「……はい」


 虎の威圧感を出して彼にそう言うと、アホは黙った。

 そもそも肉体系で、なおかつ男子で、ちょっとは役に立つかもと思って連れて来ただけだ。

 せめて囮くらいにはなって欲しい物である。


 楓はそう思いながら、幼馴染の健を悩ませる噂の元凶の元へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ