Episode1: 過去
今思えば当たり前の事だった。
10歳の時に父親が殺され、突然とこの世から消えて無くなった。
それから程なくして。
父親を殺した犯人は警察の懸命な捜索により逮捕された、しかし。
『すでにこの国は終を迎えている』
犯人はこの言葉を遺書とし、手首を噛みちぎって自殺。
何の為に父親は殺害されたのか? 終を迎えている?
当時の俺には理解できなかったし、今でも全く理解できない。
ただそんな事はもうどうだっていい。
この頃からだった。
俺の母親は情緒が不安定になり
最終的には俺を息子だと認識出来なくなるほど壊れた・・・・・・いや違う。
認識はしているが、俺を嫌悪しているかのように思える。
どうして俺を嫌悪するのか・・・・・・その理由を考えるのはもう疲れた。
俺が両親から愛情を受けていたのは10歳の時で最後。
だからもう俺は愛されないのだろう。
もし愛されるとしたら父親が帰ってきた時だけ、でも帰ってこない。
だからもう俺は愛されない、仕方がない。
きっと俺以上に母親の傷は深く、そして癒えない。
部屋に戻ると祖父がRed paperを手に取り、あぐらをかいていた。
「爺ちゃん、それ当選したみたいなんだよ」
そう言うと祖父は顎の髭を弄りながらこんな事を口にした。
「そうみたいだね、でも最初にこの赤い紙を見た時はゾッとしたぞ」
ゾッとした? なんでだ?
「なんで? 何か変な事でも書いてあったの?」
「そうじゃなくて」
祖父はRed paperをそっと床に置き、こう続けた。
「大昔の日本ではな、赤紙っていう赤い紙が家に届くと戦争に行かなくちゃいけなかったんだよ」
「戦争? 戦争って国同士が争う戦争の事?」
「そう。 大昔の日本も戦争をしていたんだよ。
だからお前も戦争に行ってしまうのか、と思ってな」
安心したのかどうだかわからないが、そう言って祖父は笑った。
なんだ、そういう事か。
今の時代、戦争どころか日常生活においても争い事は少ない。
年号が平成から行修に変わった今。
平和ボケし過ぎている現在の日本、いや‘世界‘では
戦争といった単語自体が珍しくなりつつあった。
「ただ・・・な」
と祖父は続ける。
「昔からこの国の政府は何を考えているのかわからない。
この紙には褒美と書いてあるけど爺ちゃんには
お前達を誘き寄せる餌だとしか思えないね」
祖父はどこか思いつめた表情でそう言った。
「優介、お前は行くのかい?」
久しぶりに自分の名前を呼ばれた気がして
ほんの少しだけ安堵感に包まれる。
「うん行くよ。
正直楽しそうだし、俺が家に居ても母さん可哀想だし」
「・・・・・・すまないね」
とても弱々しい、か細い声で祖父はそう言った。
祖父もどうする事も出来ない母親の事を察しているのだろう。
何だか胸の中がモヤモヤしてくる。
祖父も母親も悪くない、悪くないのに無償に腹が立った。
どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのか。
そして、そんな事に腹を立てる自分も酷く・・・ 憎 い 。
「大丈夫。母さんのこと頼むね、出発は明日だから」
「ああ、気をつけて行って来るんだよ」
そんな会話をして祖父は部屋から出ていった。
部屋の扉が パタン、と音を出して閉められた直後、携帯の着信音が鳴り響く。
携帯の画面には【タツヤ】と表示され、緑色のランプが点滅している。
『あ、やっと出やがった』
「朝っぱらからどうしたよタツヤ」
『お前今日ひま?』
こいつは休日になると毎回毎回この台詞で攻め込んでくる。
学校は勿論、俺がアルバイトのシフトを休日に入れない事を知ってワザと聞いてくるのだ。
「特に用はないかなー、遊ぶ?」
『おっ! 待ってました! それじゃ10時に駅前集合な!』
「りょーかい、そんじゃまた」
『遅れんなよ!』
そんな感じでタツヤとの通話を終える。
携帯の時計を見ると時刻は8時30分を回っていた。
少し早いが着替えてのんびりと駅に向かう事にしよう。
そう決めた俺は来ていた部屋着を脱いで黙々と着替えた。