Prologue
それはよく晴れた土曜日の朝。
まだ朝の6時前だというのに部屋の外から母親の声がする。
学校へ行くには早すぎる時間帯。
ぼやける視界をなんとかしようと目を擦り、身体を起こした。
やがて部屋の扉を開けると、いつもと変わらない無表情の母親。
「これ」
母親はそれを俺に手渡すと黙って扉を閉めた。
それはただの赤い紙である。
俺はテレビをつけながら、この赤い紙を見つめた。
「なんだこれ…」
この紙が一体何なのか。
一瞬本気で理解できなかった、がすぐに思い出した。
よくテレビや雑誌で見る紙、Red Paper。
どうやらこの紙は日本政府からの褒美らしい。
「我々政府のささやかな贈り物…ねえ」
詳しい招集日、招集場所などもしっかりと書かれている。
そしてその贈り物とやらは
豪華客船での2週間の旅、だそうだ。
さらに、勤務先や通学先からの妨害は一切認められないとまで書いてある。
妨害って…。
何はともあれ、ラッキーな紙である。
学校を2週間も休んで豪華客船での旅、しかも政府からの特権ときた。
怪しい気もするが、あれだけメディアが好評していた事だし大丈夫だろう。
俺は部屋から出た後、母親のいるリビングへと向かう。
「…母さん、俺これ行っていいの?」
少し腰を低くして言ったつもりだが、母親からの返事はない。
「母さん、聴いてる?」
すると母親は唐突に持っていたコップを床に叩きつけてこう言った。
「知らないわよ! 何でも私に聞くな! 消えるなら消えて!」
あーそうだったな。
俺、母親から嫌われてるんだったな。
そのままリビングを出て部屋に戻った。