蕣三郷
―――入学式翌日。
俺は地元ではここだけしか着ない白い制服を着て、門を潜る。当然のこと俺にとって魔法科の門を潜るのはこれが最初。
うぅぅっ!感動だよ!もう死んでも悔いはない・・・いや、あったよ!まだで・ん・せ・つのシュークリームを食べるまでは死ねないよ!あっやっぱり食べたとしても魔法科の卒業までは死にたくないな。
訳の分からない事を思っていると後ろからトントンっと肩を叩かれた。
「ん?」と言いながら振り返ると、にっこり(ニヤニヤ?)した同じ歳くらいの少年が立っていた。
なんというかすごく爽やかイケメンというオーラが漂っている。俺のあまり好きじゃないタイプだ。だってこういう奴は口では優しいこと言っといて
、心では見下しているからだ(あくまでも自分の推測だが)。
完璧な人などいるわけがない・・・俺の妹、愛花がいい例だ。顔は美形だし、魔力も高いのに性格は悪いのにも程がある。昨日だって俺のシュークリームを・・・ううっ・・・思い出すと涙が。
「え、えっといきなり切なそうな顔してどうしたんだい?」
「いや昨日妹に大事なシュークリームを食べられて・・・」
「そうか・・・それは可哀想に。シュー通の僕なら消えたい気分だね」
ん?今なんて?シュー通って言ったよね?もしかしてコイツも俺と同じシュー通?!
「え?お前もシュー通だったの?!」
「その言い方からすると君も?」
俺は首を大きく縦に振る。
そして俺たちはお互いの手を掴む。コイツはさっきからにっこりしていたが今は本当嬉しそうに見える。
「じゃあさ、で・ん・せ・つのシュークリームの話も知ってるよね?!」
俺の質問にコイツは自慢げな表情になる。
「知ってるも何も、その情報提供者は僕だよー」
な、なんだって・・・
俺は初めて伝説のシュークリームを見た時並に驚いた。コイツが俺が言っていたマジ神で最高な情報提供者様だったなんて・・・・・・ということはその食べられたシュークリームというのはその伝説のシュークリームなんだとは口が裂けても言えない。
そして俺はもう一つ謝らなければいけなく大きく頭を下げた。
「え?どうしたのさ?」
「お前のこと中身は極悪非道の爽やかイケメンな奴だとか思ってすまなかった!」
「い、いいよ」
さっきまでのニッコリは思いっきり作ってるような表情に変わる。
「あとその書き込み見た時、こんな嘘書いてんじゃねぇよ!ガキか?!なんて思ってすまなかった!」
「これ以上謝られると逆にショックになるからもう言わないで」
そう言いながら肩を落とす。
「ま、まあそんなことより僕の名前は蕣三郷。女みたいな名前だけど性別上は男だからね。君は?」
「ああ、滝火翼だ」
そう言いながら頭を上げる。そろそろ人も増えてきた。
「じゃあ翼君、クラスの確認に行こうよ」
「おう!」
クラス分けの紙が貼られた前には多くの生徒とその保護者が集まっている。すごく喜んでいる人や逆にすごく落ち込んでいる人がたくさん(というかほぼ全員)いる。
なんでだろう・・・友達と離れたとか嫌いな人と同じとか・・・・・・なんてレベルじゃないな。
俺たちも紙を見てみる。二人の名前は一番下のFクラスの元に入っていた。
「おお! 三郷と同じだな!」
俺が三郷を見ると「やっぱり・・・」という様な表情で紙を見ていた。
「なあ、どうしたんだ?」
三郷に聞いてみると少し驚いた様子になる。その反応にも首を傾げるしかなかった。
「君って魔法科は今回が初めてなのか」
俺は「うん」と呑気に返事した。
三郷から色々聞いたところ魔法科には科学科などとは違って成績が優秀順からAクラス、BクラスCDEFと分けられているらしい。これでさっきの生徒たちの様子が説明つく。
一人一人魔力の量が違うからクラス分けにこんなしくみがあってもいい・・・だが俺にとってそんなことは問題でない!
問題なのはなぜ俺が一番上のAクラスではなく一番下のFクラスなんだ!・・・いやこの際Aと贅沢は言わないがせめてBクラスぐらいだろ!と何度思ったか。
こんなことを思ったのは俺だけじゃないはずだ。だから皆あんなに落ち込んでいたんだから。中学で魔法科とっていたみんなに比べたら初めて魔法科に進んだ俺はFクラスの落ちこぼれさを知らないんだからまだ幸せだよな。
当然Fクラスの雰囲気といったら近寄りたくないほど暗かった。
なんというか俺はこんな暗いクラスでやってける自信がない・・・・・・そうか!これも運を使い切った俺へ神様からの不幸ということか。なんと酷い・・・・・・
と思ったのだが、落ち込んでいたのは初めだけですっかり元気でやってます。
色々考えた俺が馬鹿みたいじゃないか!