シュークリームの素晴らしさ
「クックックッ・・・・・・」
俺は嬉しさのあまり影で怪しげに笑う。
「お、おいキャラ変わってるぞ」
大河の言葉で「取り乱してしまった」と言いながら普段に戻る。
「まあ念願の魔法科に進めて嬉しいのは分かるけどよ、あんまし浮かれ過ぎるなよ。ほい」
大河はお洒落な白い箱を渡す。「何これ?」と受け取り、中身を覗いてみる。そこには・・・・・・
「うおおおおおおおおおおお!!」
目が飛び出るほど驚いた。
「こ、これは伝説の・・・シュークリーム!!」
そう、これは伝説のシュークリーム。一応もう一度言っておく、これはで・ん・せ・つのシュークリーム!特徴の生地と一緒に混ざった金箔を一目見て分かった。
そもそもなぜ伝説などというのかというと、遡ること約三百年前菓子好きの若者がいた。若者はシュークリームを食べて食べて、また食べて小麦粉や焼き加減はどのくらいがベストなのかなどおそらく・・・いや、絶対に多くを調べてきたであろう。なぜならその若者はシュークリームのためにこの人生ほぼ使ったのだから。
やがて若者は歳をとり老人になってしまっていた。死ぬ間際では自分がこれまで調べてきたレシピで作ったシュークリームを一口食べ、息を引き取った。
この第一発見者の話では『彼の表情はとても死人とは思えないほど幸せそうに眠っていた』と語った。
くううぅ!いつ思い出しても涙がちょちょ切れそうだぜ!
そのレシピはドイツ軍の機密情報と一緒に厳重に保護されている。
しかし、三日前ネットのシュークリーム通、略してシュー通によるシュー通のための掲示板にこんな書き込みがあった。
『伝説のシュークリームが一個だけ日本のどこかに彷徨っている』
ということだった。
これが本当だったら食べてはみたいけど、俺をそんな馬鹿にしないでよね。全く、こんなバレバレの嘘書き込んでんじゃねえよ!・・・とつい数十秒前までは思っていた。
すみませんでした!!俺が間違ってました!・・・・・・情報提供者さん、嘘だって難癖つけられるのを分かっていたはずなのに、それでも書いてくれたなんてマジ神!最高!!
しかし今これが俺の手にあるなんて一言も書けません。書いたら最後同じシュー通の人たちが妬んでハッカーを雇って俺の居場所を特定し、奪い取りに来るからです。
「大河本当にありがとう・・・・・・俺一生大事に取っとくよ!」
「いや、もったいないから食べてくれよ。じゃあ魔法科でも頑張れよ」
そう言って去っていった。大河の姿が見えなくなるまで俺は箱を持つ手とは逆の手で大きく手を振った。
家に帰ると、いきなり下痢に襲われた。すぐに箱と荷物をリビングのテーブルに置き慌ててトイレへ駆け込んだ。
しばらくしてようやく下痢も治まり、リビングへシュークリームを食べに行く。するとちょうど帰ってきた愛花が何かを食べ終わったところだった。
「ま、まさか・・・」と嫌な予感が頭を過った。
「これアンタが買って来たんでしょ?久しぶりにシュークリーム食べたけどこんなに美味しかったなんて驚いた」
そう 愛花食べ終わった何かとは、で・ん・せ・つのシュークリームのことだった。
一瞬思考が停止する。その後、「おいおいおい‼」と大きな足音で愛花の元に行く。
するとよく見たら愛花の口元にカスタードクリームが付いてるではないか‼
「愛花!ちょっと動くなよ……」
俺はそーっと右手の人差し指を立て、近づく。
そして何故か顔を真っ赤にした愛花の口元から取ったクリームを自分の口に運ぶ。
うまああああい‼
こんなに美味いカスタードは食べた事がない。普通のとはまるで運例の差というやつだ。
ってそんな事より!
「何食ってんだよ!じっくり味わって食べようと思ったのに!」
「へ?そうなの?私はてっきりおめでとうって言ってあげたからそのお礼かと」
「おめでとうって言ってくれたお礼なんかあげる奴がどこにいるってんだよ!この馬鹿‼」
「はあ?!馬鹿って何よ馬鹿って‼今頃になって魔法科に進めるからっていい気になるんじゃないわよ‼」
そう言って俺に浮遊魔法を使い地面に叩き付けられた。
俺は「すいません・・・」とムッとしながら言うしかなかった。
ああ、神よ。これが中学卒業までにトップを保っていた運を使い切った俺の不幸だとしたら、何と惨い・・・・・・あー、もう消えたいよ。
俺は今晩寝れないはずだった気持ちはすっかり冷め、グッスリと眠ることが出来た。
これはこれでよかったのか?・・・・・・いや全然よくないよ!!