パソコン部の依存
次の日の放課後。
先輩たちが昼休みの間に作業をしているのを見たので、きっと私の文章を読んでくれたはずだ。
もしも、返信を書いてくれたのなら、最後にきっと書いてくれてあるはずだ。
私は、先輩のエロ小説を開く―――――
『私のことは、構わないで』
それだけが、書かれていた。
「やっぱり、それなりの事情があるんだね。どうしようもないよ……」
「……じゃあ、新入部員の募集のために、部長の引継ぎをしておかないと」
あまり乗り気がしなくて、本当はもっと引き留めたかったが、千夏はあきらめムードだった。
まぁ、無理に引き留めたりなんかしたら、先輩たちが怒るかも知れない。
―――――諦め時も肝心だということだろう。
『そうですか。では、あとは執筆活動だけですね。エロじゃない先輩の作品もみてみたいです。よかったら、見せてください』
今日からは、パソコン部の入部勧誘をしなくてはならなくなってしまう。
「入部歓迎は、少しずつやればいいよね」
「うん。ちゃんとポスターとかも作って、勧誘すればきっと二人くらい入ってくれるよ」
もう半年も経ってしまっているが、新しく入部してくれる人は現れるだろうか……。
私の修羅場はまだまだ終わりそうにない。
「へぇ。じゃ、そのパソコン部の先輩、本当に辞めちゃうの?」
「うん、そうみたい」
「じゃあ、春香、本当に何もしてないニートじゃない」
「誰がニートだ。誰が」
「でも、ただ学校行って帰ってくだけって。小g……中学生じゃないんだから」
……確かにそれは一理あるかも知れない。
何のためにパソコン部に入部したのだろうか。
暇だった中学生活と違って、ちょっとでも楽しくしようということだった。
中学生活はあまりにも何もなく過ぎていったし、高校も半年間は何もなく進んでいたのに。
「最近、ようやくパソコン部って楽しいかも、って思い始めたのになぁ」
「そりゃよかった。亀山千夏って子のおかげだね。あんたの数少ない友人なんだから、大事にするのよ?」
「あんたは私の親か!」
優華は時々、私の保護者みたいなときがある。
―――中学のときなんて、優華に付いてばかりだったから、あながち間違いではないのかもな。
「じゃ、そろそろ家だね。バイバイ」
「……じゃ、バイバイ」
優華の表情が、若干曇っていたような気がする。
ちょっと具合でも悪いのかな。
まっすぐ家に帰って寝なさい……。
「――はぁ」
最近、春香の様子が変わったような気がする。
いつも、何をやるにも最初に、「面倒」「適当にやっとく」っていうような彼女だったのに。
最近、様子が変わり始めていた。
様子が変わった理由は間違いなく、『亀山千夏』という少女だ。
「いやいやいや。変わっていいんじゃない。何落ち込んでんの、私」
彼女の三日坊主っぷりはあまりにも酷かったし、年中五月病にかかってるような彼女がここまで何かをやってるなんて、素晴らしい成果じゃないか。
「―――――でも……」
どこか。私の心のどこかに、『落ち込んでる自分』がいた。
春香が変わったのは、間違いなくプラスの方なのに、なぜか落ち込んでいる私がいた。
「…………私も大概ダメな人間だなぁ」
ニート息子が働きだして寂しがるような親じゃ、ニートが自立できない。
彼女はガチのニートではないが、それと同じように、お互いに依存するのはよくないのだ。
「私は黙って、春香を見守ってればいい。春香と私は、昔からの親友じゃない」
私はなんとか、胸を張って家まで帰ったのだった。
『SHOWっていう名前のサイトに私の小説が投稿してある。タイトルは――――』
「あ、また書いてくれてる」
そこには、きちんとURL?とかいうのも書いてくれてあり、それを使っていけば、先輩の書いてある作品が読めるということらしい。
私はそのURLのページへ飛んで行った。
「うわー。これが先輩のアカウントかな?」
そこには、先輩が書いた小説だろうと思われるタイトルがいくつか並んでいた。
中には、パソコン部のフォルダに入力されているタイトルと同じ名前のものも存在した。
「千夏ちゃん、先輩、こんなにいっぱい小説書いてたよ」
「おお!本当だー!っていうか、また――な感じの作品じゃないよね?」
「一番真剣に読んでたくせにぃ。――なやつを」
「―――――っっ!そ、そんなことっ!なななななないもんっ…!!」
真っ赤な顔で否定しまくる千夏。
ただ、そんなに全力否定しすぎると、ただの図星にしか見えないよ?
「うううぅぅっ。春香ちゃんのいじわるっ」
「ごめんごめんっ。さ、見てみようよ。――なやつじゃないと思うから」
一番上の作品から見ていくことにしようか……。
その日の帰り、先輩が執筆中の小説の最後の部分にメッセージを残した。
『先輩の小説、とてもいい作品でした!ファンになったので、これからも頑張ってください!』