パソコン部の先輩
「驚かして悪かったな。俺の名前は、上野秋広。で、こっちが―――」
「…………尾鷲冬香」
突然見知らぬ人物がいて身構えた私たちだったが、彼らはどうやら私たちが探していた人たちだった。
「先輩……。パソコン部を辞めるって、本当ですか……?」
「ん。顧問の先生に聞いたんだな」
答えるのは、上野先輩。
尾鷲先輩はさっきからずっと、パソコンで何かの作業をし続けている。
「その通り。俺たちはパソコン部を辞める」
「どうしてですか…?こんな微妙な時期に辞めるなんて。あと部員2名しかいなくなるんですよ…?」
「それは本当にすまないと思ってる。パソコン部がなくなるのは悪いと思ってるが……。こっちにも事情があるんだ……」
なにやら重たい雰囲気。
どうやらただならぬ事情があるらしい。
「事情って、話してもらうわけにはいかないですよね……」
「悪いな。ちょっと君たちに話すべき内容じゃないんだ」
先輩はそう言うと、パソコンで作業をしてる尾鷲先輩の方へと向きを変える。
「冬香?作業はあと何分くらいかかる…?」
「………あと30分くらい」
「30分、か。じゃ、昼休みも終わっちゃうな。残ったら放課後に仕上げるしかなさそうだな」
「………………時間ある?」
「全然大丈夫だよ。今日は『休み』にしてある」
「……そう、よかった」
二人の会話は、私たちの耳にも入っていた。
他人の話を盗み聞きするのはよくないが、部室で会話してるのだから、聞こえるのは仕方ないだろう。
「……でも、あと2、3個残ってる」
「大丈夫さ。毎日こうやって空いた時間にでもやれば、きっと全部の『小説』を完結させられるよ」
「小説……?」
そういえば、あのパソコン部のフォルダに入っていた小説。
あれを書いたのが誰か、というのも、私は気になっていたのだ。
「もしかして……パソコン部のフォルダに入っている小説って、もしかして、先輩が書いたんですか?」
「……!?」
さっきまで、パソコンの画面にしか向けられていなかった目が、私の方に向けられた。
彼女の目は、冷たく、何か暗い感じがした。
「……見たの?」
「見たのか?」
「は、はい。見ました……」
まさかの上野先輩まで、私の方を凝視する。
見ちゃまずかったのかなぁ。
「……………………………どうだった?」
「へ?ふ、普通に、すごいなぁって…」
「普通に…?」
「は、はい。文章だってちゃんと成り立ってるし。ストーリーも起承転結があってよかったですよ」
『あれ』しか見てないけど……
「へぇ。私の――作品集、見たんだ」
「えっと……その…」
「女子高生でそういうのを見るって珍しいよな」
「……書いてる私は珍しいを超えてるのね」
――作品集て。結局そういうのしか作ってないんかい!
と、心の中で突っ込んでいる。
「はわわわ。あわわわ」
一方、見たということを思い出したのか、文章の内容を思い出したのか、顔を真っ赤にし始める千夏。
それはそれで可愛いのだが。
「とにかく。もう時間だし。そろそろ切り上げないと」
「……ん。わかった」
「なんにせよ、これからはこうやって作品を完成させるためだけにここに来るから。もうパソコン部には戻らない。そういうことだから」
そういうことだから、仕方ないのか。
そう思いたいのだったが。
私には『何か』が引っかかった。
なんだろうか、自分でもよく分からない。
それなのに、彼女の目を見た瞬間、何かを思い出したかのように、頭にビビッと来たのだ。
放課後―――――
「本当だ。いつの間にか書き進めてるし」
先輩たちの言ったことが、どうやら本当だったようで、前見たときよりも作品に続きが書かれていた。
本当はあまり見たくはなかったのだが…。
しかし、『彼女』と接する機会はこれしか作れない気がした……。
「春香ちゃん。いったいどうしたの……?」
「先輩と話せる機会があればいいと思ってたけど。どうやらこうやってしないと、話はできそうにないから……」
そういうと、私は、作品の一番下までスクロールする。
途中で書いてある文章を見るのが嫌だったのもあるが、二人でこういうのを見ているのって、なんというか、家族団欒の最中にテレビでエッチなシーンが始まったときくらい気まずい。
「さて、とりあえずここでいいかな」
私は、一番下にこう文章を入力したのだった。
『初めまして。1年生の稲辺春香です。先輩たちが出ていくのが残念でなりません。どうして辞めるのか、本当に理由をお話ししてもらうことはできないんですか?』