パソコン部の消失
フォルダの中身を開く。
そこには、文章のデータがいくつか入っていた。
そのなかの一つを開いた―――――
「あ、あんっ、ちょっと、待って……私たち、姉弟なのよ!?」
「分かってるよ。でも、抑えられないんだ……!」
俺は、姉さんの――を、少しずつ――し始めた。
――の――を少しずつ―――――る。
やがて、――――の――へと、俺の手は伸びていた―――――
「ちょっと。これ……」
「―――――っっ!!?」
私たち二人のリアクションは大きく違っていた。
私は数行読むと、画面から目をそらした。
これはいわゆるあれだ。あれ。
私たちは読んではいけない類のものだ。
目をそらす前に、×を押して戻ればいいんだ。
私はバツ印にマウスを動かしていくが……
「あ…………うぁ」
「ちょっと!千夏ちゃん!何真剣に読んでんの!?」
「へっ!?い、いいいや、いやいや、し、真剣に、なんて、読んでないよ!!?」
大分下の方にまで目が下がっていたから、かなり進んで読んでるな、彼女。
顔を真っ赤にして首を横に振るが、どう考えても読んだことが丸わかりだ。
「はぁ……。学校のパソコンになんてもん保存してるの、パソコン部は!」
「私たちじゃないってことは、先輩が保存したのかな?」
まだ顔を赤らめている彼女だが、彼女の言う言葉、先輩、しか犯人はいなさそうだった。
「せっかくだし、新入部員の千夏ちゃんのことを報告がてら、先輩にでも会いに行くか。実は私も会ったことないしね」
「えっ、会ったことないって……」
信じられないだろうが、私が部員になったときですら、部員は一切いなかったのだ。
顧問の先生に入部届を提出すると、部室の場所を教えられ、「後は好きなことしてていいから」と言われて終わったのだ。
顧問の先生のいる職員室に行くことにした―――――
「部活の先輩…?」
「そうです。パソコン部の先輩って、何年何組なんですか?」
「………………」
先生の顔つきが少し険しくなる。
あれ、どうしたのだろう。
そして、先生から出た言葉は、想定外のものだった。
「パソコン部の3年生たちは、全員退部したんだよ」
「退部…?」
「そう。3年生はパソコン部は4人いてね。そのうち2人は進学クラスに行ったから、自然にパソコン部を辞めた。あとの二人は普通クラスだったんだが、昨日ちょうど退部届が出た」
「えっ、ど、どうして、ですか…?」
昨日退部届が出された、というのがあまりにも変だった。
確かに3年生はそろそろ受験などで忙しくなる時期ではあると思うが、運動部ですら3年生はまだ部活をしている。
もうすぐ1学期が終わるから、そろそろ引退ではあるのだろうが……。
それに対して文化部、それも、大会がないはずのパソコン部が、こんな変な時期に辞めるなんて。
「さぁな。それはさすがに俺でも分からんな。ま、生徒個人の気持ちだからな。それにパソコン部なんてすることもないしな」
「でも、確か、2年生はいないんですよね?ってことは……」
「そうだ。君たち2人しかいない。部と認められるためには4人部員がいることが必要だから、もうパソコン部は続けられない。廃部だな」
廃部―――――
その言葉が、何よりも私たちを絶望へと追いやった。
確かに何もすることがなく半年が過ぎたが、今頃になってようやく、部活が楽しいと思えるようになってきたのにだ。
この時期に廃部、という言葉はあまりにもキツい。
「その昨日退部届を出した先輩のクラスと名前教えてください」
「何しに行く気だ?」
「できたら残ってもらえるように説得。できなかったら部の引き継ぎをしたいです」
「廃部だって言ってるだろ。こんな変な時期に部員なんて集まるわけないだろ。出来たら奇跡だ」
「だったら、その奇跡を起こすまでですっ。行くよ、千夏ちゃん」
私たちのパソコン部を取り戻す闘いが始まろうとしていた―――――
―――次の日――――
「先輩の名前が、一人目、尾鷲 冬香。パソコン部の部長、3年B組」
「なんでホワイトボードにそんなの書いてるの?」
「刑事ドラマっぽくてかっこよくない?」
部室にあるホワイトボードに、名前と在籍クラスが書かれている。
刑事ドラマで見かけるような、事件の構図を描くような感じで、だ。
「そしてもう一人のひが…部員が―――」
「完全に被害者って言おうとしてたよね?今」
「うるさい。もう一人の部員が、上野 秋広。パソコン部の副部長。部長と同じく、3年B組所属」
こんな構図にしてまとめる必要性は全くなかったが、まぁ気分の問題である。
「とにかく。第一目標は引き留めること。部員として残ってもらうことが第一目標だよ」
「なんで?昨日からだけど、春香ちゃん、すごくやる気に満ちてるね」
「だって。あんなよく分からない小説を残して出ていくのはマジ勘弁してほしいし。パソコン部の廃部もマジ勘弁してもらいたいからさ」
だって、部がなくなったら、ずっと家でダラダラするしか方法がなくなる。
そんなことしてたら間違いなくニートになってしまう。
気がした。
「とにかく。パソコン部の廃部だけは避けたい!だから、第一目標は引き留める!」
「分かったよ。じゃ、今日早速行ってみようよ!3年B組に!!」
割としっかりと乗ってくれる千夏と一緒に、昼休みに向かうことにした―――――
「あの、すみません」
「ん?何?」
「あの、尾鷲冬香先輩と、上野秋広先輩はいらっしゃいますか?」
「ちょっと待ってて」
先輩は教室に入り、二人のことを呼びに行ってくれるようだ。
しかし、
「いやぁ。尾鷲も上野もいないわ~。ごめんな」
「えっ、いない…?どこに行かれたかご存じないですか?」
「あ~。ごめん、わかんないや。来たって伝えようか?」
「お気遣いなく。失礼します」
いないのなら仕方ないな。
私たちは、3年B組を後にした。
「いなかったかー。先輩たち」
「どこ行っちゃったんだろうね?」
部室に向かう途中の私たち。
さっきまでの行動がただの無駄足に終わったのに、少し疲労感を覚える。
2年も上の先輩に会うのは、なかなか緊張するものだ……。
それが取り越し苦労に終わったのだからなおさらだ。
「ま、放課後に部室くる前に一回B組に行ってみようか」
「そうだね」
部室の前に着き、部室を開けようすると―――――
「あれっ、鍵開いてる?」
「ん?なんで?朝閉めたよね?」
朝、無駄な構図を描いた後、構図を消した後、しっかり部室に鍵を掛けたはずなのに、なぜか扉の鍵は開いていた。
「おかしいな?」
「とにかく中に入ろうよ」
部室に入ると、
「だ、誰…?」
「…………」
「あー、やっぱ見つかっちまうか」
そこには、二人の男女が、パソコン前に向かっていた―――――