稲辺春香の謝罪 〈3〉
とりあえず、一度様子見回
水曜日――――
私はまた学校に行くことができなかった。
もう4日も経つのに、私はまだ傷が治っていないと嘘をついていた。
本当は、学校に行くのが怖いだけなのだ。
『今日、あんたの家、寄っていい?」
「………あんた一人?」
『一人に決まってんじゃん。他に誰を連れてくの?』
「…………」
『私はあんたの味方だって言ってるでしょ?』
「…………わかった」
優華の優しさに少し癒されたあと、私は優華を待ち続けた。
1時間後、優華はやってきた。
学校帰りということで制服。
そして、近所にあるスーパーの袋を持っていた。
「どう?調子は?」
「……ん」
「思ったよりも顔はきれいじゃん」
セリフだけ抜き出せばただのプレイボーイのセリフだが、彼女はどうやら私のことを心配していてくれたらしい。
「で?……いつ学校に行くの?」
「…………」
「無理して来いとは言わないけど…。春香は私が守るって言ってるじゃない」
「………………うん。わかってるよ……」
それでも、私は怖くなっていた。
同じ学校に、私に敵意を向けている人がいる。
「いじめをされてるときは………、あのときも怖かったけど、全然違うんだ。怖かったけど、みんな、私をいじめることを楽しんでただけだった…。だから、私が泣いたり、苦しんだりすればよかったんだ……。でも………夕貴ちゃんも沙夜ちゃんも、自分が満たされたいわけじゃないんだ。私を憎みたいんだ……」
「なんでそんなこと……」
「沙夜ちゃんの目がそう言ってたから。私のことを、本気で憎んでたから……」
小学生のころ、全身に痣ができるくらいいろんな人に殴られたのに、彼女に一発殴られる方が怖かった。
いろんな人に「犯罪者の娘」だと嘲笑の対象にされたけど、彼女に言われた時の方が怖かった。
「…………。あんたのこと憎んだって意味ないでしょ。悪いのはあんたのお父さんであって」
「それは関係ないよ…。被害者からしてみれば、家族全員加害者側だもん」
「……でも」
「どこかに被害者がいるってこと、わかってたのに、私は知らないふりしてた。これは私のせいだ」
どこか納得のいかないような表情の優華だが、これは譲れない思いだった。
「だったら……どうしたらいいのよ」
「分かんないよ。分かんないから、こうやって苦しんでるんだ」
これから私たちはどうしたらいいんだろう。
これから先のことがまったくわからない状態になっていた。
「分かった…。もうこの話は一旦おしまい!今日は私がご飯作ってあげるから、栄養のある食べ物食べな。どうせカップラーメンばっかりだったんでしょ?」
「悪かったね。カップラーメンばかりで」
食事をすることで、なんとか二人とも落ち着くことができた。
カチッ………カチッ……カチカチカチカチ……。
沙夜は爪を噛み続けていた。
土曜日からずっと、彼女はこの部屋に閉じこもりっきりだった。
父親を殺しておきながら、春香は、何事もなかったかのように生きていた。
沙夜はこれが許せなかった。
私の苦労を知らないからだ。
私の苦労を知りもしないでいるから、こんなことを言えるのだ。
子どもは時にして残酷だ。
沙夜の苗字が、「高山」から「岡崎」に変わった時、彼女には好奇の言葉が大量に届いた。
同級生で同じ苗字、家まで一緒なのに、「誕生日」が違うだけで、夕貴も同じ目にあった。
沙夜が何をしたというか。彼女に何か悪いことでもあったのか。
理由もなしに彼女は、ひどい誹謗中傷を受けていた。
人は、「自分とは違った同種族」を異端の目で見るものなのだろう。
それに、純粋な「好奇心」が混じった子どもは、時にして残虐な行いをすることだってある。
「沙夜……ご飯」
「オネエチャン……、ゴハン ソコニ オイトイテ……」
「沙夜……」
沙夜の心は、完全に壊れてしまった。
彼女の心には、深く悲しい傷が作られていた。
「春香…………。よくも……私の妹を………」
そしてそれはやがて、夕貴の心にも影響していたのだ。




