稲辺春香の謝罪
「はぁ…。今日土曜日なのに、なんで制服着てかなきゃならないんだ……」
今日は土曜日…せっかくの休日である。
しかし、今回ばかりはサボったり、うやむやにしたりはできない。
「まさか…。加害者側がお盆に会わせてもらえるなんて……」
私は悪くないと優華に言われていたとはいえ、やはり、私の父が悪いことをしたのは重々承知だ。
なんせ殺人だ。
罪もない一人の人間の命を、自分の欲望のために消したのだ。
罰を与えられるのは当然だし、報いを受けるのは当たり前だ。
だからこその償いだというのはわかる。
「もう8年も前だもんね」
そういえば、被害者って誰なんだろうか……。
私は一切そういった説明は受けてなかった。
一方的に犯罪者の身内になったことだけ伝えられ、周囲に言いふらされたのだ。
結局私は、あの犯罪について何も知らないのだ。
「今回、いろいろ知ることになるのかな…」
筋肉痛で痛い全身を何とか動かしながら、駅まで向かい、あとは正月まで行くはずのなかったあの村へと急いだ。
やはり降りるのは私だけの駅で、車を出して待っている、おじいさまと伯父様を見つけた。
「さっさと乗れ」
というご命令付きで…。
「さて、これから向かうとしよう」
「えっと……どこに、ですか?」
「…………おにはまだ幼すぎて話してなかったか…。誠一が殺したのは、「高山優斗」という男。当時の同僚でな。誠一がどうやら会社の金を横領しているのに気付いて、それを止められた腹いせに殺してしまったらしい」
「……………………」
やはり、なんというか、弁護の余地すら見つからないような愚かな結果での殺人だった」
「なんにせよ。この罪は完全にこちらのもんだ。誠心誠意謝罪する気持ちが大切だからな」
「はい」
今回は割と私にもまともなことを言っている。
こういった犯罪を親族が犯してしまったのは、一族の恥だとかいう考えからか…。
「わが一族の顔に泥を塗るようなまね、あいつは一生我が家の敷居はまたがせない」
「…………」
「お前は仕方なく敷居をまたがせてやってるが、こんなことは滅多にないことなんだぞ」
「…はい」
結局こういう話になってしまうことが、この人たちのだめなことだと思う。
高山さんの家には、割とすぐに着いた。
「さ、入るぞ」
入るのはどうやら、おじいさまと私だけらしい。
ピンポーン
『どちらさまですか』
「稲辺でございます」
『…………はい』
どうやら向こうは、歓迎の意味で呼んだわけではないようだ。
当たり前の話だが…。
「ようこそ」
「こんなに年月が経ってしまいまして。大変申し訳ない」
「話なら中でどうぞ」
外で犯罪関連の話をするのは、世間の目があるからだろう。
私たちをさっそく中に入れた。
応対されたのは、客室。
よく見る和室に入れられる。
大きな仏壇があり、おそらく高山優斗さんであろう人の遺影が置かれていた。
「…………」
「…………」
妙な間が空く。
せっかく出されたお茶も、飲めるような雰囲気ではなかった。
高田さんは出方をうかがった様子。
というより、私たちを観察しているといった様子に近い。
高田さんは、おじいさまと同じくらいのおばあさんだ。
たぶん、高山優斗さんのお母さんなのだろう。
私たちを見る目は、なんだか物悲しげ、であって少し戸惑いも見られた。
「………私の、不束な孫が、お宅のご子息に大変な無礼を働きました。やつは今、刑務所にて刑を受けている身。大変申し訳ないことをしたと反省しています」
「……そんなこと言ったって、彼女の父親が帰ってくるわけではありません」
冷たい返事。
おじいさまの言葉に返ってきたのは、それはそれは冷たい言葉だった。
私も頭を下げてはいたが、どうやって言葉を発していいかわかりかねていた。
そんななかでの反応だ。
そして……。
「娘さんは確か、この子と同じ年でしたね…」
「ええ。大変嘆かわしいことに。犯罪者の身内と同級生なんです」
ここは耐えなくてはならない。
相手は被害者側で、こっちは加害者側なのだ。
向こうのほうが立場が上なのはしょうがないことだし、こちらが低いのは当たり前のことだ。
「その娘さんに、合わせてもらうことは不可能でしょうか?」
「………あの子に会いたいとおっしゃるのですか?」
「娘さんに直接、謝罪をさせていただきたい」
「…………私でこのような反応ですのに。娘の場合、もっとあなたに怒りを向けますよ?それでもよろしいのですか?」
「はい」
娘さん。
私と同級生であろう子を呼んできているのか。
はたまた、命日だからという理由で来ているのか。
加害者の娘と、被害者の娘のご対面―――――かと思いきや……。
「さ、沙夜………ちゃん…?」
「……! 春香、ちゃん…」
そこには、なんと知り合いがいたのである―――――




