パソコン部員の憂鬱
高山優斗のことに関しては、かなり前からできることはしていた。
去年は七回忌らしかったが、さすがにそれにはなにもできなかった。
ようやく、何かをさせてもらえるということになり、稲辺一族にも驚きがあった。
稲辺一族の不名誉を少しでも取り戻す、解決する、またとないかもしれない契機なのだ。
しかし、これには、彼女、「稲辺春香」も呼ばなくてはいけないのではないか……。
それも心配されていた。
縁切りが進む中、稲辺誠一に一番近い存在は、父親と、春香しかいないからだ。
高山家に謝罪をするためには……、彼女を連れて行くしか方法がない…。
そう悟り、彼女のことも、連れて行く方針に落ち着いた。
夏休みが終わり、1ヵ月。
まだ9月の終わりというのは暑くてじめじめしている。
そろそろ体育祭だというのに、こんなに暑いなんて……熱中症にならないように気を付けないと…。
「明日は体育祭ね~」
「本当。明日もかなり暑いらしいから、しっかりと水分補給の準備しとかないと」
「優華ぁ~」
「はいはい。お母さんに準備しといてもらうわよ」
高校からの体育祭は、親が来ることはないのだが、こういったイベントごとのときは何かと世話を焼いてくれている。
優華の一家とは家族ごと付き合っているため、こういうときに非常にありがたい。
「はぁー……」
「どうしたの千夏ちゃん。ため息なんてついて」
「体育祭やりたくないなー……って」
「千夏ちゃん、運動あまり得意じゃなかったんだっけ?」
「そう。昔っからビリばっかで……」
「……私もそういえば、そんな感じだったな…」
小学校のときはまぁあれにしても、中学生のときでは、リレーですっころぶとか、そういう恥ずかしい体験もした。
あまり運動自体も好きじゃないから仕方がないことだと私は割とあきらめてしまっている。
「大丈夫だって。下手は下手なりにどうにでもすればいいんだから」
「そうかな…」
「そうだよ」
前日とはいえ、放課後にすることはいつもと何ら変わりない。
いつものように部室でどうでもいいおしゃべりをしながら下校時間までパソコン部の活動をしているのだが。
「遅れてごめん」
「あ、夕貴ちゃん、どうしたの?」
「体育祭実行委員会に入っちゃったから、準備とかでいそがしくて…」
「へぇ……、で、その後ろの子は?」
後ろには、彼女の裾をぎゅっと握っている女の子が確認できた。
なんとなくこういう図に見覚えがあるのは……まぁいい。
「えっと……みんなには話そうと思って……うちのこと」
「?」
「私の家には、私と血のつながってない家族がいるんだ……。私もその家族のこと、誰よりも大切だと思ってるし、立派な家族だと思ってる。でも、そう思ってくれてないところもあるんだ……」
「…?」
「実は、彼女、ソフトボール部のエースなんだけど……この前、部員に変なこと言われたらしくって」
変なこと……、どんなこと言われたかなんて大体察しが付く。
こういった普通ではない、一風変わった家族というのは変な目で見られやすい。
「だからなんだけど…しばらくうちの部にいれてあげられないかなー?」
「別に私はいいよ。むしろ大歓迎」
「うん。いいんじゃないかな」
部員が増えるのなら、それはそれで楽しい。
来年は3年生の先輩がいないのだから、今のうちに部員を増やしておくのも悪いことではない。
「じゃ、紹介するわ。私の妹の、岡崎沙夜です」
「…………岡崎、沙夜です。よろしく…………」
夕貴ちゃんはどちらかといえば、明るくて元気な感じの子という気がしたが、それに対して沙夜ちゃんは少し内気な性格という印象を受けた。
「そういえば、ソフト部のエースなの!?すごいじゃん!?」
「………別に、そうでもないよ」
彼女は小さい声ながらも答えた。
やはり、どこか内気な性格なのだろうか…。
「ちょっとうちの家族に特殊な事情があるから、詳しいことはまた今度言うけど、私と彼女は義理の姉妹で、血はつながってないし、誕生日はバラバラなんだけど、双子みたいに同じ学年でいるんだー」
「なるほど…………」
でも、それくらいの家庭環境なら、中学のころの私もそれに近い部分があった気がする。
半分くらい、優華の家に泊まりっきりだったし…。
「お姉ちゃん…………もう…………」
「何言ってるの。沙夜のこと知ってもらわないとー」
「ううん………もう、いいから」
ますます誰かさんと誰かさんの関係に似ているような気がしてきた。
内気で影のある少女と、それを支える少女………。
「なんだ。私たちと一緒じゃん」
「やっぱり…?」
明日が体育祭だということで部活動は早めに切り上げ、少し早めの帰宅。
その帰り道に彼女に話したらやはりこう返してきた。
「中学生のころのあんた、内気なんてレベルじゃなかったけどね」
確かに、私の覚えているなかで、内気なんてレベルで収まりきらないことも多数あったような気がする。
こうやって、私の黒歴史部分を覚えている人間がいるというのは割と恥ずかしい。
「なんにせよ……。影があるっていうなら、何かあるのかもね」
「でも、あまり私たちがぐいぐい割り込むのもよくないから」
私の場合はどうにかなったが、私と同じケースが彼女にも通じるわけではない。
「もっといっぱい、彼女と関わってみないとね」
「そうだね」
私と似たような境遇なら、もしかしたら仲良くなれるかもな。
と、甘い期待をしていた。
本当に、あまりにもあますぎる期待だった…………。
Prrrrrrrrr…………Prrrrrrrr
「はいもしもし」
家の電話が鳴る。
大体私の電話が鳴るのは通販とか、あとは優華くらいなのだが。
「春香か…」
「お、おじいさま」
「土曜日、誠一が殺めてしまった被害者の家族に会いに行く。お前にも着いてきてもらう」
「……!?」
「わかったな。土曜日は制服で来るんだぞ」
「ちょ…m」
ガチャン、と向こうから一方的に切られてしまった。
よほど私の声を聴くのが嫌なのか。
なんにせよ……。また大変なことが起きそうな予感だ。




