新入部員が入ってきたけど質問ある?
「へぇ~。そんなことが……」
「もう、突然でびっくりしたよ」
放課後、いつもの友人と帰る中、先ほどあったことを喋っていた。
友人の表情はなんとなく、憐れみの表情を醸し出していた。
「ま、おかげで今日は暇じゃなかったっていうのはよかったかな」
そう、あれからずっと、同じ、「歌ってみた」の動画を調べていたのだ。
たくさんの人が同じ歌を歌っていたため、私はその曲を覚えてしまっていた。
頭の中にはさっきからその曲がエンドレスに流れ続けている。
「あ、そういえばさ、優華はさ、『音野くみ』って知ってる?」
ずっと同じ曲を聴いていた時、この曲の元ネタであろう曲を見つけたのだ。
それを歌っていた?のが、「音野くみ」だったのだ。
どうして歌っていた「?」なのかというと……
「なんかさ、確かに歌ってるんだけど、人の声の感じじゃないんだよね~。なんていうか、機械音?っていうか?電子音?みたいな感じの声でさ~」
「あ~、『音野くみ』かぁ~。なんか聞いたことあるかも~」
彼女もよく知らないのか、ただ聞いたことはあるらしい。
「そういうの、もっと詳しそうな人がいるといいのにね」
「だねぇ」
その後は、特に他愛もない話をして帰っていった。
しかし、この歌ってみた動画を見ていたことが、パソコン部の活動を支えることになる。
「やっぱり今日も暇だー!」
いつものように部室に入る今日。
しかし当然のごとく、部員は私以外に現れない。
そしてすることもなく、また暇な時間が続く。
「前見ていた動画でも見るか」
あれからいろいろ調べたところ、どうやらこの歌ってみた動画は、かなり多くの人がやっているジャンルで、彼女よりも人気を出している人も多い。
彼女の人気は、せいぜい中の下程度。
だと思う。
でも、なぜか私はこの歌声に惹かれていた。
今度は昨日と違い、ためらいもなくクリックをした。
『~~~~~~~~♪』
「~~~~~~~~♪」
いつの間にか私もこの歌を覚えてしまったようで、口ずさんでしまっていた。
うん、なかなかいい感じだ。
自分はあまりカラオケとかにも行かない性格だから、どんな歌声かはよく知らない。
だが、なんとなく歌えている自信はある。
動画の彼女ほどではないのだろうが……。
「失礼しまーす」
「えっ!?」
突然、部室の扉が開いた。
慌てて右上のバツ印を押し、声が聞こえた方を向く。
すると……
「えっと、昨日は、ごめんなさい……」
「あっ」
昨日、突然叫んで入ってきた、あの女の子がいたのだ。
昨日と違い、叫んで入ってこなかったし、落ち着いているようにも見える。
「大丈夫よ?気にしなくても」
「で、でも、迷惑、かけちゃったと思うから…」
ちょっと泣きそうな表情を見せる彼女。
「そんなことないって。昨日はむしろ暇だったから、ちょうどいい刺激になったくらいだし」
「でも、何かここでやってるんでしょう?昨日も今日も、いるくらいだし」
彼女はどうやら、私のことを気にしてくれているようだった。
しかし、そんな心配ご無用なのである。
「うん、一応パソコン部っていう部活動なんだけどさ。部員が誰も来ないのよね。いつも」
「えっ、パソコン部?そんなのあるの?」
彼女はどうやら、パソコン部の存在を知らなかったらしい。
そういえば、部員募集の期間中、パソコン部は表立った広告活動をしていなかったと思う。
私がこの部に入ろうとしたときも、そんな部知らないといった生徒もいたくらいだ。
「あるんだよー。5人くらい部員がいるはずなんだけど、誰も来ないんだよねー。特に部活動らしきこともしていないからいいんだけどね」
他の部のように、何かのコンテストに応募するわけでも、何か大会があるわけでもないし、第一パソコンにそういうものがあるかどうかなんて知らないし。
ま、あまり他人には関係のないことか。
「ま、立ち話もなんだから、ゆっくりしていきなよ。別に好きなことしてていいから」
「あ、ありがとう」
そういうと、彼女は隣に座ったのだった。
「ねぇねぇ、そういえば、この前はどうして飛び込んできたの?」
「えっ」
私がたまたまぶつけた疑問。
彼女との最初の出会いだったわけだが、あれは私にとってかなり衝撃的な事件だったのだ。
「あ、あれは、その……」
「あのときは何も言えなかったけど、あれすごくびっくりしたよ~。それに、この動画のタイトルまで知ってたみたいだしさ~。なんで知ってたの?」
彼女の顔がみるみる赤くなる。
どうして赤くなる必要があるのか。
あの時のことを思い出して赤くなっているのだろうか。
「恥ずかしいから、あまり他の人にこういうことは言わないんだけど……」
「うんうん」
「実はこの歌を歌ってるの……私、なの」
「えっ」
「この動画はね、私が歌って投稿した歌なの」
「マジで!?」
この歌を歌っている人は、たくさんいる。
そんななかで、たまたま私が選んだ動画の人が、今目の前にいる…?
なんというか、偶然過ぎるだろ。
「で、あのとき、突然、私の動画を再生している人がいたんだって嬉しくなったの。でも、それと同時になんか恥ずかしくなっちゃって……」
「ああ。それで思わずこの中に飛び込んできちゃったと……」
なるほど、それなら分からなくもない。
自分が書いた作文を勝手に読まれて、そのうえ感想まで言われるとか、そんな感じの恥ずかしさだろう。
私にもそれがとんでもなく恥ずかしいことだってくらいは分かる。
「ごめんね、恥ずかしいことさせちゃって」
「いいえ。動画を見てくれたのは、うれしかったし」
しかし、彼女の顔は真っ赤なままだ。
「ねぇ。私、実はもうファンなんだよね。よかったら、これからも仲よくしてくれないかな?」
「えっ!!」
さらに真っ赤になっていく彼女。
彼女の感情がモロに出ているのが、なんとも微笑ましい。
「ついでに、部活動やってないなら、パソコン部に入部してくれるとうれしいな。いろんなこと教えてほしいし」
「わ、わわわわ、わ、私でいいなら…………」
ものすごく恥ずかしそうにしていたのだが、彼女は承諾をしてくれた。
「じゃ、自己紹介するよ。私、稲辺春香って言います」
「私は、亀山 千夏です。この動画とかみたいに投稿するときは、『りのと』ってハンドルネームを使ってます」
「よろしくね?」
「うんっ」
今日から、新たな仲間、千夏ちゃんが入ってくれた。
彼女との出会いが、私との運命をいろいろと変えていくのだ……。