パソコン部の寝泊
後半、ちょっといつもと違う風味があります。
「結局、一度も話せずに終わったわけ?」
「……うん」
その日の帰り道。
私は優華に今日のことを話していた。
よくよく考えたら、壊れた私を救ってくれた優華なら、何か彼女を説得する方法も分かるかもしれない。
「でも……先輩がそうしたいっていうのなら、私なら応援するかな」
「なんで…?」
「だって……。心が壊れそうなのは確かなのかも知れないけど、先輩のしてることは、あんたと違って間違いじゃないからね」
「…………」
「……えっと。先輩は、妹弟たちを守ろうとして、戦ってるわけでしょ?だから、私たちには、『止めさせる』って方法と、『応援する』って方法があるわけでしょ…?」
「……そうだね」
私が黙ったのを見て、私が落ち込んだのかと思い、フォローを入れる優華。
確かに少し、心は沈んでいた。
昔の話をすると、いつもこんな感じになる。
「でも、あんたの場合は、『止めさせる』しかできなかった。なぜなら、あんたを止めなかったら、そのまま死んでたから。先輩を応援するってことは、確かに今の苦痛の状態を続けさせることになるかもしれないけど、私たちも応援してるってことが分かれば、少しは心に余裕ができるんじゃないの…?」
「うん……」
優華の考えが、私とは違っていた。
私は、優華に救ってもらっていた。
それは、私が今生きていることが証明してるし、千夏という友達ができたのもそうだ。
私が自殺するのを『止めさせた』ことで、私は今存在しているのだ。
だが……。
心が壊れている先輩を、応援する…。
私にその発想なんてなかった。
「言っておくけど、別に私は、あんたをただ『助けた』なんて思っちゃいないんだから。あんたが今、こうやって先輩を助けようとしてるのも…あんたが『頑張って』いじめを乗り越えたからでしょ…?」
「頑張った……から…………?」
私が頑張っていた。
そうなのだろうか。
「第一、本当にあんたを救うだけなら、あんたは転校するとか、もっと手段があったでしょ。あんたが逃げずに、頑張ったから、こうして今があるんじゃない」
頑張る。
それが一番大切なのか。
「でも…先輩の場合、体ももうすでに疲れとかが溜まってるみたいだし…」
「それは確かに心配ね。でも…それはあんたたちがフォローしていくしかないんじゃない…?」
頑張る先輩をフォローする。
無謀なことを先輩を止めさせる。
一体、どっちが正しいのか…。
「どっちがいいのかなぁ……」
「それは、あんたたちが決めることよ。今のまま、先輩を強制的に止めるのか、応援して、手助けしていくかはね」
なんというか、優華がすごく格好よく感じた。
「うん。そうだね。明日話し合ってみる」
上野先輩にも、ちゃんとこれが伝わるように。
「そういや。もう家に着いたね」
「うん、じゃ。また明日」
「あっと……ちょっと待って」
私は優華を引き留める。
「ちょっとたまには、家に寄っていかない…?お茶位出すよ」
「そ、そう」
優華の顔が怪訝な表情になる。
こんな顔をするのは、いつも私のことを助けてくれようとしているときだ。
「そんな顔しないでよ。今日はただ…………一緒にいたいだけだよ」
「……な、何言ってんの。気持ち悪い」
「あれ?今照れた…?」
「照れてないっ。そんな風にからかうなら、もう帰るから」
「もうっ。冗談じゃん」
顔を赤くして、そっぽを向く彼女。
なんだ、この萌えキャラは。
「はい。お茶」
「うん」
私の家―――――マンションの三階の一室。
1Kのこの部屋で、彼女をおもてなしした。
「もう。ちょっとは掃除した…?この辺り服が脱ぎ捨ててあるし。前掃除したのいつ…?」
「え、えっと。い、一週間くらい、前、かなぁ……」
「本当は……?」
彼女の目が間違いなく疑いを持って私を見る。
「い、一か月、前くらい、です…………」
「一か月…!?前私が掃除した日じゃない!?」
「…………」
「一人暮らししてるなら、掃除くらい自分でちゃんとやりなさい!!」
あんたは私の保護者か。
実は私は一人暮らしをしている。
理由は……当然親のネグレクトだ。
「もう。じゃ、今から掃除ね。この部屋だけでも掃除しなさい。それまで晩御飯抜きです」
「えぇえええええっ!!?」
突然の晩御飯抜き宣言。
「ゆ、優華ぁ……それは、ネ、ネ…」
「違います。教育的指導です」
私が言おうとした言葉を強制的にカットした。
ひどい。 食事抜きなんてあんまりだ…!
「ひどい!横暴だ!」
「横暴って……。あんたがちゃんと掃除してれば。こんなことにはならなかったでしょうが!!」
完全に保護者キャラと化した優華。
仕方なく私は、部屋の掃除をしたのだった。
「ふいー。終わったぁ」
「はいはい。よくできましたー。じゃ、もう8時なので、私がご褒美に何か作ってあげましょう」
「よっ。さすが優華。そこに痺れる憧れるぅ!」
「いや、だからそれ何よ?」
別に深い意味はない。
ただ最近知った言葉だから使いたかっただけなのだ。
待つこと30分。
「はい。あんたの好きなから揚げ」
「やっほい!」
やっぱから揚げって最高だよね!
もちろんたらふく食べたのだった。
優華も一緒に。
「あぁー。もう9時じゃん。今日は泊まってく…?」
「そうね。さすがにこの時間はね」
携帯を取り出し、親に電話をする優華。
まぁ、私のことをよく知ってる親だから、一発オーケーだろう。
「じゃ。今日は泊まってくわ」
「よし」
優華のお泊りが決定した。
とは言っても、特に何かが変わるわけでもない。
テレビを見て、風呂に入って、宿題は、まぁいいや。
そして寝るだけである。
違うのは、優華が隣にいることだけ。
「じゃ、もうそろそろ寝るかー」
「うん。そうね」
布団は、もしものときのために二つ持っているのだ。
私と優華で一つずつ。
「おやすみー」
「おやすみ」
電気を消したら、ちょうどいい感じに眠気が襲い、眠りについた…。
――――――――――
「やーい!殺人者!殺人者!」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「ちょっとあんた!」
「へっ!?」
「春香ちゃん泣いてるじゃん!謝りなさいよ!!」
「だ、だって!こいつが悪いんじゃん!犯罪者の子どもだし!!」
「だから何!?犯罪を犯したのは、この子のお父さんでしょ!この子は何もしてないわ!!」
「なんだよこいつ!もういいや、つまんね」
「うぅ。ヒグッ。ごめんなさい。ごめんなさい」
「もう大丈夫だよ、春香ちゃん。よーしよーし」
「ありがとぅ。優華ちゃん……」
――――――――――
「ありが、と」
「……泣いてる」
電気を消してしばらく。
まだ寝れなかった私は、春香の方を見た。
よほど掃除が疲れたのか、すぐに眠りについてしまったようだ。
彼女の方を見ると、涙が目から出ているのがわかる。
悲しい、もしくは、辛い夢でも見てるのだろうか。
「変わったよね。春香」
まだ根幹は、ぬぐい切れていないのかも知れない。
でも、昔に比べて明るくなったし、何よりも、物事に積極的になった。
そして何より……。
「今度は春香が、誰かを心配してるんだもんね」
小学生時代、ずっと心配し続けた春香が、誰かを心配して、何かしようと努力する。
上から目線かもしれないが、これは大きな成長。
「でも……私はいつも、春香の味方だよ」
いつの間にか、春香の手をぎゅっと握って、私は寝ていた―――――
お前らもう結婚でもしてろよ!




