パソコン部の過去 ~尾鷲冬香の場合~
「どうやらただの疲労による貧血のようですね」
「は、はぁ……」
「いずれ回復はするでしょう。ですが、あまりにも体に負担をかけすぎると、また同じことを繰り返すことになります」
診断結果は、特に難しいものではなかった。
しかし、貧血とはどういうことだろう。
「先輩。尾鷲先輩って元から貧血とか起こしやすいタイプなんですか…?」
「いや。少なくとも、俺が一緒にいる間に貧血を起こした経験はないと思う」
女子は男子より貧血を起こしやすい、というのは聞いたことがあるが、彼女はそういったタイプではなさそうだ。
「じゃあ、貧血を起こすほどまで、尾鷲先輩は何をしたんでしょう」
「…………」
受験生だから、受験勉強とかで徹夜漬けでもしてたんだろうか。
しかし、上野先輩の表情が曇る。
心配してる感じの表情ではなく、何か言いたげな感じだ。
「先輩…何か知ってるんじゃないですか?」
「………………仕方ない。話すしかなさそうだな」
先輩は渋々と言った感じで、尾鷲先輩の話を始めた―――――。
―――――元々、尾鷲冬香と俺、上野秋広は、親が友人同士だったこともあり、すぐに仲良くなった。
幼稚園の頃から仲良しだった俺たちは、小学校でも、中学校でも、非常に仲良く暮らしていた。
しかし、異変が起きたのは、去年のことだった。
冬香の親が突然、事故で亡くなった…。
両親二人で買い物に出かける途中、酒気帯び運転していた車にぶつけられて命を落とした。
親が一人っ子だったうえ、親戚で頼りになるのは彼女の祖父祖母だけだ。
しかし、祖父祖母は年金生活で、彼女と、小学生になる二人の妹弟を養うのは無理だ。
そこで彼女は、生活費を稼ぐためにバイトをしていた。
学校はバイトをすることを認めてはいないのだが、彼女の家の事情を教えると、渋々ではあったが学校も承諾してくれた。
家族を養う分まで働かなきゃいけないのだから、かなりの時間をバイトの時間にしているんだ。
「……バイトでの疲労が溜まりに溜まってってことですか?」
「考えられるのがそれしかない」
俺も協力してバイトして、彼女の負担を少なくしようとしたんだが。
「貴方に迷惑をかけるわけにはいかない」
と言って彼女は俺からバイト代を受け取るのを拒否した。
「冬香はずっと一人で、生活費を稼ぐためにバイトをしてたんだ」
「……………」
―――――頑張りすぎて、頑張りすぎて、その結果が今ということか。
「そんなに頑張ってるのに、倒れちゃ意味がないじゃないですか……」
「あぁ。でも」
「先輩。尾鷲先輩のこと、心配じゃないんですか」
「心配だよ。こいつのことは昔から知ってるんだ。当たり前だよ。でも、冬香は昔から、意地になって、何でも自分の力でやりたがってしまうんだ。俺の心配なんか無視して。俺だって何回も無理するなって言ったのに」
先輩は間違いなく、自責に追いやられていた。
「俺がもっとあいつに言ってやれば。無理するんじゃないって言えば…。ちくしょうっ!」
きっと尾鷲先輩は、上野先輩に迷惑を掛けるのを嫌がっただけではないと思う。
きっと彼女は、「私さえ頑張れば、耐えれば、大丈夫だ」って思ってるのだ。
その結果、それに体が耐えられずに、彼女は倒れた。
「……ダメ。ダメ、ですよ」
「……?」
「先輩。もしかしたら、『自分だけが頑張れば、何とかなる』って思ってるのでしょうか」
「……。そうかもしれないな。こいつのことだから」
「ダメですよっ!そんなの!!!」
思わずここが病院だというのも忘れ、叫ぶように言ってしまう。
「あ、ご、ごめんなさい。大きな声、出してしまって…」
「…………あぁ。大丈夫だけど。どうしたんだ?そんなに、怖い顔をして」
「怖い顔…?」
私の顔は、いつの間にかとてつもなく強張っていた。
身体も小刻みに震える。
あ、だめだ。これは。
「あ、そ、そのっ。えっと」
「……?」
ヤバイ、フラッシュバックする。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ―――――
「やーい!犯罪者ー!!」
「犯罪者!!犯罪者!!」
違う!
「学校来るなよ!犯罪者だろ!お前!!」
違う!!違う!!
「犯罪者を懲らしめよう!!」
違うのに!
「犯罪者、稲辺春香を、箒叩きの刑にします!!」
違うのに!!違うのに!!
痛いよ!!止めて!!痛い!!痛いよ―――――!!!!!
「ハッ―――――!!!?」
「大丈夫かよ!?」
私はいつの間にか、地面で蹲っていた。
息が荒く、必死で酸素を取り込む。
小刻みに震える全身が、さらにさっきのフラッシュバックを思い起こさせる。
「ハァッ!、ハァッ!」
「大丈夫!!?しっかりしろっ!!?」
「ごめんなさい、ちょっと、思い出しちゃって……」
「思い出し…?」
「―――――ううん……」
先輩が目を覚ました―――――




