八話
さて、この状況どうするか……
人数・・・負け
実力・・・負け
勝ち目・・・なし
よし、逃げるか
「なんでおまえがここにいるんだ!」
勝ち目がないと悟り逃げるため立ち上がると、火の勇者である赤坂仁が俺に向けて叫んで近づいてくる
「何でって脱走したからに決まってるだろ」
隠す理由もないので素直を教える
あれ? 脱走したとか普通は正直に言わないか?
……まあいいか
「お前みたいな殺人犯を野放しにはできない。大人しく捕まるんだ」
そう言って仁は俺の首に剣を押し付けてくる
剣から若干だが熱が伝わってくる
「……別に俺が犯人じゃないんだけどな」
駄目元で反論してみる
「ふざけるな! 目撃証言もあるんだぞ!」
ほらな。やっぱり聞く耳持たない
気づいたら勇者御一行の他の奴らも険しい顔で俺を見ている
四面楚歌とはこういうことをいうんだろうか
「ま、俺が暴れたところでお前達に勝てるわけないな」
「そうだ。だから大人しく……」
「な、何をしているんですか!」
突然聞こえてくる叫び声
その声をあげた美奈の視線の先は仁の背中だった
何事かと思いながら仁は自分の背中を肩越しに振り返って見る
するとその顔が驚愕の色で染まった
「なっ……!?」
「剣を収めてください……」
この声はアリアか
仁の方が背が高いので、アリアの姿はこちらからは見えない
でも声が震えてる。おそらく短剣を背中に突きつけているのだろう
仁は驚愕の表情は浮かべたがそれも一瞬で、次にはため息をついた
「手が震えている。本当はこんなことはしたくないんだろう?」
まるで子供を諭すかのように言い、顔をこちらに向ける
その顔は冷ややかながら怒りの色が含まれていた
「こんな子供にまで戦わせるなんて、とことん堕ちたな……!」
「違います! 私が自分からこの道を選んだんです!」
仁はアリアの言葉を無視する
このことには反論することはない
確かにアリアが自分から俺についてくると言ったが、戦わせるために武器を持たせたのは他でもないこの俺だ
だけど俺は、魔物を倒すためであって人を殺すために武器を持たせたつもりはない
捕まってもまた脱走すればいいと思っていたがこのままじゃアリアが仁を殺すかもしれない
となるとこの場で捕まるわけにはいかなくなった
幻惑スキル、発動
勇者御一行に俺がその場から動いていない幻を見せて俺は押し付けられた剣から離れる
仁の背後を見るとアリアが予想通り、仁に短剣を突きつけていた
目の前のことに必死で周りが見えていない
俺はアリアの方に手をおく
「いくぞ、アリア」
「っ!? し、ショウ様……」
アリアは必死の形相のまま振り向いたが、俺の顔を見ると安堵に変わる
やっぱりこいつに人殺しはさせるべきじゃない。下手をすれば壊れてしまう
アリアが短剣を収めたのを確認して俺はきた道に戻ろうとする
そして荒れた土地から木々が生い茂る境目の場所で止まり幻惑スキルを解除する
「なっ、消えた!?」
「一体どこに……!」
突然俺が消えて当たりを見回す勇者御一行
俺はそいつらに向けてしゃべり出す
「悪いけど、俺はまだ捕まるわけにはいかないんでな」
これは宣戦布告のようなものだ
捕まえれるなら捕まえてみろ、みたいな
いや、少し違うか? ……まあいい
それだけ言って今度こそ元いた場所に向けて歩き出す
アリアも勇者御一行を一瞬睨んで俺のあとについてきた
「待てっ!」
仁が俺たちに気づいて追いかけようとしてくるが、これだけ視界を遮る木があるんだ。追いかけることは無理だろう
そう思いながら、俺はこれからどうするかを考えていた
「なんなんですかあの人たちは! 人の話も聞かないで!」
「だからなんでお前が怒る」
火の勇者、赤坂仁と別れて村へと向かう道の途中でアリアが愚痴を履いていた
俺も少しイラっとしたがなぜアリアが怒る……
それに思い返せばあいつらは犯罪者を捕まえようとしたってだけだしな
結局原因はあのクソ王に行くわけだ
と、そんなことより……
「お前もなんでいきなり飛び出してんだよ……」
「いた!? いたたたた!! ご、ごめんなさい!!」
アリアの顔をつかんでギリギリと力を込めて行く
勝手に飛び出して危険な目にあった上に赤坂達に俺が逃げ出したことがばれてしまった
さっきの行動でメリットはない
いくらアリアが子供とはいえ、考えなしであんな愚行をするとは思えない
「なんで飛び出したりしたんだ?」
「…………それは……」
なんだか歯切れが悪い
まさか理由もなしに飛び出したのだろうか
そう思っているとアリアは自分の外套の中に手を入れた
そこからとりだしたのは……小さな動物だった
細長い体に茶色の体毛、黒くて丸い目が世間一般的にはかわいらしいのだろう
見た目の第一印象としてはイタチに近い
そのイタチもどきはアリアの肩に乗り、俺とアリアの顔を交互に見る
「……そいつは?」
「あの……どうやら群れからはぐれたみたいで……この子があの木の傍にいて、危なかったから、つい……」
こいつを助けるために飛びだしたってわけか
だからと言って考えなしに突っ込むのはいただけいない……
とは言ってもこれで更なる追い打ちをかけたら周りから見たらいじめになりそうだ
「はぁ……ま、別に何か損をしたわけじゃないし、もういいさ。早く逃がしてやれ」
「え? あ、は……はい!」
俺の言葉に意外そうに顔を上げるアリア
俺はそこまでひどい人間だと思われているのだろうか
むぅ……解せぬ
アリアの反応にいささか不満を抱くが、その俺の心境などわかるはずもなく、アリアは肩からイタチもどきを手に乗せて地面に下ろす
ここでこのイタチもどきとはお別れだ
「キュ?」
イタチもどきはかわいらしく喉を鳴らし、アリアの顔を見つめる
アリアはアリアで、寂しそうにイタチもどきを見つめていた
もし連れていくとか言い出したらアリアを見捨てるか……
ひどい? 知らん。ペットを飼うほど金に余裕はない
やがてイタチもどきは森の中に逃げて行く
時々後ろを振り返るがこっちに戻ってくることはなさそうだ
「いくぞ」
「はい……」
俺が声をかけると元気のない返事をする
やっぱりまだ子供だな。
アリアの認識を改めて確認し、俺たちは少し先の村を目指す
アリスベルグの東北東に位置する小さな村
その唯一にして最大の特徴が村の環境だ
村の周りに森が……というより森の中に村があるので、森に生息する草食動物、木になっている果実などその村でしか取れない特産物が多い
そのため村の資金はそれなりにあるのだが、得もすればもちろん損もある
安全な動物の他にも強力な魔物も存在するため、村の安全のために必要以上の警備を雇っている
村の資金の大半はそこに使われているため、あまり蓄えはないらしい
さっき赤坂達が巨大なイノシシを倒していたのも村長に頼まれたからとかだろう
まあそれはどうでもいい。この村の経済なんて俺には何の関係もない
それよりも、ドロップ品の換金は道具屋でも行われていると聞いていってみたら、なんでこいつがいるんだ?
「お前確か前の街にいなかったかなぁ……青葉玲?」
頭を抱えて俺は道具屋のカウンターに座っている少女、青葉玲に問いかける
こいつとは前の街の道具屋で会った。会話もしたしそれは間違いない
でも俺はその後すぐにこの村を目指したはずだ
途中で思いがけないハプニングがあったが一時間にも満たない
一体いつの間にこの村に来たんだこいつは……
「女とは常に謎を一つ二つは抱えてるもの……」
「お前は存在自体が謎だろうが……しかもなぜドヤ顔」
すごい腹立つ。殴りたい
「まあいい。それよりドロップ品の換金、してくれるんだろ?」
「もちろん……」
玲の返事を聞いて俺はアイテムストレージからいらないアイテムを取り出す
ゼリー×22
棍棒×13
古びた鎧×15
古びた剣×3
数は合計53個
ちなみに古びた鎧と剣だが、これもゴブリンからのドロップ品だ
おそらく棍棒と古びた鎧の出る確率が半々。古びた剣が稀ってところか
玲は俺がとりだしたアイテムの種類と数を確かめる
「全部で銅貨95枚ね……」
銅貨95枚……思ったより少ないな
鎧や剣は金属だからもう少し高いと思ったが、やはり古びた状態はだてじゃない
俺は玲から銅貨を受け取り、袋の中に入れる
「そう言えば、お前の仲間はどうしたんだ?」
ふと思い聞いてみる
赤坂や白石には見たことない仲間がいた。あれは十中八九城の兵士たちだろう
まさか赤坂と白石だけに、というわけではあるまい
「……最初の街でバイトをして、次の街でもバイトをして、その次の街でもバイトしてたら自然消滅……」
「見捨てられてんじゃねえか!」
というか戦えよ! 仮にも勇者だろお前!
勇者についていったらバイトめぐりって……そりゃ逃げられるだろうな!
「ただいまレイちゃん! ……っと、お客さんかい?」
その時店のドアから荷物を置く音と女性の声が聞こえた
振り返ると大きな紙袋を地面に置いて、額の汗をぬぐうふくよかな体形の女性が立っていた
なんというか似てる……前の街の道具屋に
なんだか某国民的ポケットのモンスターを闘わせるアニメに出てくる人みたいだ
今回は外套をかぶっていたので黒髪だとばれていないようだ
と言ってもよく見たらばれるし、ここにはもう用がないから長居する必要もない
「じゃ、そろそろ行くか」
俺は外套を深くかぶり、店から逃げるようにして出ていく
「また来ておくれよ!」
出るときに背中に届くおばさんの元気な声
俺が黒髪だとわかったら次はどんな言葉が届くんだろうな……