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七話

「しっかし玲がこの街にいたとは……」


てっきり魔王討伐のために頑張ってレベル上げしてるものだと思っていた


ちなみに魔王についてだが、この世界には大きな大陸が3つある

人族や亜人などが住むメールブ大陸、魔族や魔王が住む魔大陸、そして魔物が多く生息するアルテン大陸だ


メールブ大陸には様々な国があり、一つの国が統一しているわけではないらしい

対立している国ももちろんあるが魔王が復活した今は一時休戦している

その中でも一番力を持っている国が南にあるこのアリスベルグ、次が北西にあるシーマだ


そして魔大陸だが、まず魔物、魔族、魔王の違いを説明しておこう

魔力を持った生物が基本的に魔物と呼ばれ、知能が高い人型が魔族と呼ばれている

そしてその魔族を統べるのが魔王、というわけだ


魔大陸には基本的に魔物が少ない

魔族が魔物を狩っているのかそれとも島の特性で魔物が住みにくいのか

原因ははっきりとしていない


アルテン大陸はその逆で魔物が多い

一説では魔大陸から逃げてきた、ともいわれているがこちらも原因は不明だ

冒険者たちが特訓のために赴くことが多いんだとか

俺たちも近々行くことになるかもしれない


以上、黒崎翔の異世界地理講座


「あれが水の勇者さん……変わった人でしたね」


まあ否定はしない

さん付けしているのは言い方が悪いけどアリアの中で俺より立場は下になっているんだろう

でもここで優越感に浸ったりしない。それは俺が一番嫌いなことだ


「他の勇者も一癖も二癖もありそうな連中だったなぁ……」


俺は城で全員が自己紹介していた時のことを思い出す

玲は特に俺のこと気にしてなかったけど他の連中はどうだろうか

黄田あたりは気にしてなさそうだな

あいつはまだゲーム気分でやってたし、最悪ゲームのイベントとか思ってるんじゃないのか?


問題は赤坂とか白石あたりだよな……

あいつら正義感強そうだったし俺が使用人殺したってこと信じてそうだ


「ま、とりあえずはこれからどうするかだな」


「そうですね。とくにこの街に用はありませんし、もう出発しますか?」


俺たちの目的はジャポネに行くこと

この街にとどまる理由はないな


俺たちは次の街を目指すことにした






街の外に出て地図を広げる

次に通るのは森の中にある小さな村だ


「この森……」


「何か知ってるのか?」


「あ、いえ……噂で聞いたんですけどこの森には主がいるとか……」


「主……? まあ、合わなければ大丈夫だろ」


「目撃情報も少ないようですし、早々会うことはないと思います」


……何故だろう。今フラグが立った気がする


しかしそんなこと気にしていられないので出発する


「あの、失礼ですけど殺人ってどういうことなんですか?」


アリアが控えめに聞いてきた

さっき玲と話している時のことか


「殺人とは人を殺すことだ」


「ふざけないでください」


冗談で答えると注意された

アリアの目を見ると本気だった

俺のことを信じている。信じているからこそ、真実を知りたがっている


「……俺が闇の勇者として異世界から召喚されたのは知ってるよな」


「はい」


「その翌日、城の使用人が殺されていて俺が犯人にされた。そのあとは奴隷送りさ」


「? でもショウ様が犯人とは……」


「仕組まれてたんだよ。架空の証言で俺を無理やり犯人にしたんだ」


「そんな……! いくらなんでもひどすぎます!」


「なんでお前が怒るんだよ……」


確かに俺もムカついてるけどアリアが怒る理由にはならない

そのまましばらく歩いていると、アリアがポツリと漏らした


「……でも良かったです。ショウ様が犯人じゃなくて」


それを聞いて俺はアリアにチョップする


「痛いっ!?」


「だから最初から犯人じゃないって言ってるだろ」


「は、はい。すみません……」


そういうアリアの顔は笑顔だった

俺が犯人じゃなかったことのなにがそんなに嬉しいのやら……


そのあとは特に会話もなく歩き続けた

村がある森が視界に小さく入り始めた頃、魔物が現れた


小さな新緑の体。その手には棍棒が握られている

ゲームでおなじみのゴブリンだ


「新しい魔物か」


ゴブリンに気づかれる前に近づく

そのままスモールソードを抜きスキルを発動する


剣術スキル、発動


剣が自動で動きゴブリンを一撃で葬る……とはいかなかった

どうやら敵のHPすべてを奪うことができなかったようで、ゴブリンがこちらを振り向いた

下がろうにもスキルの反動か、動くことができなかった


「アリア、やれ!」


俺はとっさに叫んだ

ゴブリンの攻撃に耐えるとは思うがわざわざ痛い目に合うつもりはない


俺の言いたいことを理解したアリアはダガーを手に持ちスキルを発動する

ゴブリンが反応するよりも早く、その切っ先はゴブリンを捉えた

ゴブリンはうめき声をあげて溶けるように消えて行く


「棍棒……これがゴブリンのドロップ品か」


アリアの幸運スキルの効果か、ゴブリンのドロップ品であろう棍棒がその場に残された

俺はそれをアイテムストレージに収納する


そう言えば換金するのを忘れていた

ゼリーが残されたままだ

村で換金できたらしてもらおう


「助かった。まさか一撃で倒せないとはな」


「この辺りの魔物の方が強いみたいですね。気をつけないと……」


確かに強くなっている。それこそゲームのようにちょうどいい程度で

でも倒せないほどじゃないから引き返す必要はない

それからもゴブリンを倒しながら村を目指した






そしてしばらく歩くと森にたどり着いた


「ここを越えたら村に着くな」


そう言って森に立ち入る

森の中は道が舗装されていて道に迷わないようにしている

ここを通れば村にたどり着く


ちなみにここにくるまでの成果だが、俺がLv10、アリアがLv9にまで上がった

新しいスキルは特に習得できなかった


森の中は魔物より小動物が目立つ

リスや小鳥、野狐が目の前を横切ることさえある

この森は特に危険はなさそうだ


ふと横をみるとアリアがそわそわしていた

もしかして……


「……少し、遊ぶか?」


「へ!? い、いえ、別に動物が可愛いとか一緒に遊びたいとか微塵も思っていませんから! お構いなく!」


聞いてもないのに全部話してくれたよ


「はいはい。幸い、この辺りは魔物も出ないみたいだし遊んで来いよ」


「で、ですから……」


「んじゃ、さっさと先に進むか?」


「う……ショウ様意地悪です……」


そう言ってむくれるが正直言って全然怖くない

意地悪な二択を迫ると、アリアは悩んだ末結局ここで少し遊ぶことにした


ここの動物は人懐こいようでアリアが近づいても逃げようとはしなかった

リスを撫でたり狐を抱きしめたり、見てると微笑ましい光景だ

…………いつ出発すればいいんだ


この光景に水を指すのは流石に悪い気がする

まあ、まだ日が登り切ったわけじゃない。もうしばらく待とう


----そう思ったその時、動物たちが一斉に逃げ出した


「あっ……」


アリアが追いかけようと立ち上がると、途轍もない地響きが襲う


「地震!? いや、この振動……!」


遠くの衝撃がここまで伝わったような感じだ

地震じゃない


そのことに気づくと同時に聞こえてきたのは悲鳴

この声どこかで……


「ショウ様!!」


……これは、行かないといけないのか

俺ため息をつくと、アリアと一緒に悲鳴の聞こえた方に走り出した




「なん……だこれ」


目の前に広がる光景は悲惨なものだった

木々は倒れ、草花は散り、同じ森とは思えないほどだ


そして視界を埋める3メートル程もありそうな巨大なイノシシ

あれがこの森の主だろうか。奴が原因と見て良さそうだ


その巨大イノシシと対峙している数人の冒険者パーティがいた

それを見て俺は悲鳴の声が誰のものが理解した


「大変です、誰か襲われてます! 助けないと!」


「んー……別に大丈夫なんじゃないか?」


「何言ってるんですか! 早くしないと手遅れに……」


光と火の勇者(・・・・・・)なら助けなくても大丈夫だろ」


そう。巨大なイノシシと対峙している冒険者は光の勇者白石美奈と火の勇者赤坂仁だった

他に何人か知らない奴がいるがどうせ城から紹介された仲間だろう


木の影からこっそりと見ていると、巨大イノシシが勇者御一行に突進した

ものすごい衝撃が当たりを襲う。だがその攻撃は勇者たちに当たらず光の壁によって遮られていた

あれは美奈のスキルだろうか。あの攻撃を防げるのならかなり便利だな


突進の反動でイノシシが動けないでいると仁が横に回り込んだ

その手に持っている片手剣は俺の持ってるシンプルなスモールソードとは違い、豪奢で全体的に紅く染められた片手剣だった

城の宝剣とかだろうか。少し、というか正直かなり羨ましい


仁がイノシシに向けて構えたその煌びやかな剣が突然炎で包まれる

そのままイノシシに斬りかかり距離をとる仁


切られたイノシシは切られた箇所が燃え、そこからじわじわと体全体に炎が回って行った

その炎の熱さに苦しみ、悶えて、どんどん燃え盛る炎とは逆に命の灯火が消えて行く

そして体全体を痙攣させ、そのままピクリとも動かなくなった


あの巨大なイノシシを一撃で倒すとは素直にすごいと言える

いかにあいつらのレベルが高いのかがわかる


「見つかる前に早く立ち去るか」


俺は踵を返して整えられたあの道に戻ろうとする


「は、はい。…………あっ!」


「ん?」


アリアが突然叫んだので振り返ると、そこにアリアの姿はなかった

どこに行ったのかと当たりを見渡すと、さっきの戦闘の衝撃か、今にも倒れそうな木の下で何かの上に覆いかぶさっていた

でもあのままじゃまとめて潰されてしまう


「ったく。あのばか……!」


俺は小声で文句を言って身を隠していた場所から飛び出す

それと同時に木もミシミシと音を立てて倒れようとしていた


間に合うだろうか……

……いや、間に合わなければ目の前で潰されるか一緒に潰されるかしかない

何としても先に助けないと


俺はあと一歩のところで思い切り足を踏みこむ

アリアを抱きしめてそのまま勢いに任し、木の被害を受けない位置に倒れながら着地した


そしてすぐに衝撃が襲ってくる

足元で木が倒れたのだ

あれに巻き込まれたらと思うと少しぞっとする


「ん……? っ! し、ショウ様!?」


目を瞑っていたアリアが異変に気づいて目を開ける

俺が助けにはいるのがそんなに意外かコラ


「お前は……あのままじゃ自分も巻き込まれるって気づけよ!」


「ご、ごめんなさい……」


「ったく……」


「お前……何でここに……!?」


突然降ってくる疑問の声

そう言えばアリアを助けるのに必死で忘れていた……

振り返ればそこには驚愕……というより困惑の表情を浮かべた勇者御一行がいた

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