六話
「さて、行くぞ」
俺とアリアは今街の外の草原にいる
あの後色々と道具を買い、アリアの「ショウ様の服装は目立ちますから」と言う提案で外套を買った
道具屋でも服屋でもいやな対応されたのは言うまでもない
道具は買ったらアイテムストレージに勝手に収まった
アイコンをタップするといわゆるドロップ化するので何ら問題はない
外套は取ったら制服姿だがまあ大丈夫だろう
黒髪を隠すのにもちょうどいいし
その買い物で銀貨1枚と銅貨50枚を失った
「は、はい……」
緊張のためか、アリアの声は震えている
俺も平静を装っているけど内心緊張している
街の近くだから強い魔物は出ないと思うけど死ぬときは死ぬ
緊張しながら辺りを見渡すとスライムみたいな半液体状の生物がいた
スライムと言うかアメーバというか、二つを足して割った感じだ
「あれは?」
「あ、スラーバですね」
……本当に足して二で割ってた
と言うか自分で言っといてなんだがスライムとアメーバの違いってなんだ?
「とりあえず攻撃してみるか」
腰の鞘からスモールソードを抜く
アリアも俺と同じようにダガーを手にとった
剣が届く距離まで近寄る
あまりアクティブな魔物じゃないらしく攻撃してくる気配がない
剣を振り上げ、心の中で念じる
剣術スキル、発動
その瞬間、剣が勝手に動いた気がした
振り上げた状態にもかかわらず、勝手に体の横に移動しそのまま横に一閃
スラーバは溶けるように消えて行き、なにも残らなかった
剣術スキルはこの動きしかできないのか?
ちょっと不便だな……威力は申し分ないが
「この辺りの魔物なら安全そうだな。アリアもやってみろ」
「はい」
俺があっさり倒したのを見て安心したのか、今度の返事はしっかりとしていた
別のスラーバを見つけ近寄って行く
やはりスラーバは攻撃してこない。全体的に大人しいようだな
アリアは短剣を構え、力強く一突き
スラーバは俺のときと同じように一撃で溶けるように消えて行く
「今のが短剣スキルか?」
「はい……何か腕が自分のものじゃないみたいでした」
俺と同じだな
腕が、と言うより剣が勝手に動くようになっているんだろう
俺は剣術スキルを詳しく見てみた
剣術スキル
Lv1 剣を横薙ぎに振るうスキル
消費SP:2
Lv2 ?
完結に説明されていた
いや、それよりもその下だ
Lv2の説明がない
Lv1と2は違うのか?
そういえば確かヘルプに書いてたな……
スキルには補助スキル、攻撃スキル、パッシブスキル、その他諸々に別れているって
剣術スキルは攻撃スキルに、幻惑スキルは補助スキルに含まれているのだろう
だからスキルの説明に違いが出たってところか
おそらく短剣スキルも攻撃スキルに含まれている
剣術スキルと同じようになっているだろう
「よし、このまま隣町まで行ってみよう」
そう言って道具屋で買った地図をアイテムストレージから出して広げる
ジャポネは日本の様な海洋国ではなくて大陸の沿岸部にある
このアリスベルグを基準にすると正確にいえば東北東の方角に位置している
だが遠い。幸い隣国ではあるものの、このアリスベルグが広い
ジャポネにつくまでにいろんな街や村を通ることになるだろう
ここからすぐ近くにある街なら今日中につきそうだ
それ道中で魔物を倒して出来るだけレベルアップしよう
魔物のドロップ品とかを売れば金にもなる
まさに一石二鳥。いや、ジャポネに近づくことも合わせれば三鳥だ
で、隣町
近いと思ったが歩きなのがいけなかった。もう日が落ちている
ちなみに成果だが、ステータスはこうなっている
黒崎翔/Lv7
装備/スモールソード 外套
スキル/幻惑スキルLv1 剣術スキルLv1 採取スキルLv1
アリア・ラーン/Lv6
装備/ダガー 外套
スキル/短剣スキルLv1 幸運スキルLv1
まず俺がLv7まで上がり、アリアがLv6まで上がった
そして俺とアリアでスキルがそれぞれ一つずつ増えた
採取スキル
パッシブスキル。採取可能回数上昇
幸運スキル
パッシブスキル。ドロップ率上昇
採取スキルは俺が薬草をとったとき、幸運スキルはアリアが魔物を倒したときのドロップ率が高かったので確認させたら習得可能になっていた
幸運スキルはちょっと羨ましい気がする
ちなみに二つともパッシブスキルでSPを消費しないらしい
これは便利だ
そしてアイテム
薬草を二つが三つ使っただけでまだまだあるので問題ない
あとスラーバからゼリーなるものがドロップされた
23個あるのだが食べ物かどうかもわからない
これは換金ようだな
と言うか道中スラーバしか出なかった
ゴブリンとかも出てくるかと思ったのだが
あとスラーバから銅貨がドロップされたんだがどう言う原理だ?
あの体のどこに銅貨を……いや、もう気にしないでいよう
「とりあえず宿だな。近くにないか探そう」
「そうですね」
所持金は銀貨10枚と銅貨78枚。何とも微妙な枚数だ
明日にまた別の道具でも買いに行こうか
その後なんの問題もなく宿を見つけた
外套のおかげで黒髪だとわからなかったようで他の客の同じ対応をされたときは少し戸惑ったのは秘密だ
翌日
先に起きたアリアのノックで目が覚める
奴隷生活で時間の感覚がずれた上にベッドの寝心地の良さのせいで熟睡してしまった
まだ頭が覚醒しないまま起床し、アリアと宿の外に出る
夕飯朝食付きの一泊で銅貨70枚
一気に銅貨が減ってしまった
「んじゃ、道具屋を探すか……ふぁ」
「はい! って、眠そうですね」
「俺は基本朝が弱いんでな。まあ歩いてたら眠気も冷めるだろ」
そう言って歩き出す
実は特に道具屋で買いたいものはない
この街でしか売ってないものとかもあるかもしれないと思っただけだ
で、道具屋到着
「邪魔するぞー」
適当に挨拶してドアを開ける
「いらっしゃい……」
…………うわ
入り口の正面、つまり俺の正面のカウンターに座っているのは見覚えのある女の子だった
特徴的な下の方で結んだ青いツインテール
水の勇者、青葉玲だ
「? ショウ様、どうしたんですか?」
「……おいアリア、あのカウンターに座ってる女の特徴をあげてみろ」
「え? えっと……青い髪をツインテールで結んでいますけど……」
だよなぁ……
幻覚を見てるとかならよかったんだが現実はそうもいかないらしい
「水の勇者様がこんなところでなにしてるんだ?」
外套のフードを頭から取り玲に近づく
玲は一瞬目を見開いたがすぐに元の無表情に戻る
「久しぶり……」
「おう久しぶり……じゃなくて。しかもなんでピースサイン?」
俺が想像してた反応はそれじゃない
なぜ指を二本立ててこちらに向ける
俺が逃げ出した情報は届いてなくてもここにいることを不思議に思うのが普通だろ
しかも俺が城の使用人を殺したって言う嘘情報ももらってるだろうし
「あの……ショウ様、こちらの方は?」
「水の勇者の青葉玲様だ」
「えぇ!?」
何をそこまで驚く
俺がさっき水の勇者って呼んだ気がするが……まあいいか
「で、最初に戻るが水の勇者様は何やってるんだ?」
「バイト……」
……それ、勇者のすることじゃないよな
「……まあいいや。それで何かおすすめの商品とかないのか?」
「あるよ……」
そう言って玲は立ち上がり商品の並ぶ棚に移動する
その中から商品である小さな瓶を一つ手に取った
「例えばこれ……」
「どんな商品なんだ?」
「媚薬」
「んなもん勧めんな!」
そもそもどこで使えって言うんだよ!
しかも銀貨5枚って無駄に高っ!
「それじゃあ……これは?」
「……一応聞くがどんな商品だ?」
次に手に取った別の瓶の詳細を聞いてみる
「睡み……」
「いらん」
「まだ何も言ってないのに……」
残念そうに商品を棚に戻す玲
いま睡眠薬って言おうとしたよなこいつ
「ただいま、玲ちゃん。お留守番ごくろうさま」
俺が玲の勧める商品にあきれていると店の扉が開いた
そこから入ってきた大量の荷物を持ったふくよかな女性が、俺を見るや表情を一変させる
「ちょっと! 黒髪がこの店に何の用よ!」
「……あー、フード取ったまんまだった」
俺と違ってフードをつけたままのアリアはやれやれといった表情をしている
これからは不用心にとらないようにしないとな
目の前の女性からさらなる怒号が飛ぶ前に退散するか
「行くぞアリア」
「は、はい」
女性に睨まれたまま俺たちはその前を通り抜けていく
「塩まいときな、塩!」
……この対応は初めてだな