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第7話 こんな事もあろうかと…

 

 俺、生きてて良かったなんて思ったこと案外今までになかったのかもしれない。

 双馬時雨16歳、生まれてこのかたモテたことがない。もしかしたなら幼稚園生、小学校低学年のときとかモテてたかもしれないが、そんな頃の記憶などもうないに等しい。

 故にクラスの女子だとかと一緒に出かけたりなどした試しがない。まして女子と一緒に海に行くというリア充行為は俺にとって夢といっても過言ではなかった…少なくとも昔までは…。



「夏だ! 海だ! 水着だ! 女の子だ!!」



俺に広がるのは壮大な海。猛暑の中でもこの青く輝く海を見ると少しだけ涼しい気分になれる。そして賑わう水着のキュートな女の子達…がいない!?


「何で俺たち以外いないんですか! ばっきゃろー!!」

「それは僕達がこの地域全部貸し切ったからだね」

「なんでやねん! 海は可愛い女の子がいるからこそ価値があるというものなのに!」

「え…じゃあ海は…」

「グリコのおまけ程度の価値しかありませんよ! 馬鹿ですか!?」

「後輩にバカ呼ばわりされた!?」


 

 この日をどれだけ楽しみにしていたことか…。なのにビーチ貸切だと!? だから嫌なんだ金持ちは!


「それに何で俺達は水着に着替えないんですか! 燕尾服えんびふくのまんまなんですか!?」

「だって僕達あくまで使用人だしね、護衛の任なのさ」

「ちっくしょー!」


 笠神かさかみさんと俺はいつもと同じ、真っ黒な燕尾服を着こんでいる。もちろんこの猛暑の中この格好というとかなり暑い。熱中症で倒れちゃうよ。

 俺や笠神さんと同等にかえでさんもメイド服を着ているが見る限り俺達よりも暑そうに見えたりする。


「楓さん! どうせですから脱いでもいいですよ! 暑いですしね!」

「いやですよ!」

「いや待てよ…フフフ、汗だくの楓さんも素敵ですね。頑張れば下着が透けるような気がします!」

「脱ぐのも着てるのも嫌です!!」


 俺にいじられて益々汗をかく楓さん、エロい。エロいぞぉぉ!! 

 しかし本当に厚そうだし楓さんくらいは水着になって遊んでもらいたいものだな…あくまで俺の利益のために。


「お譲達遅いなー、唯一の楽しみだなー!」

「まだ着替えてるみたいだね~」

「今日の日のために一眼レフを購入しました!」

「じゅ、準備がいいね時雨くん」


 これでお嬢たちの水着姿を激写しまくるぜ! ポロリ希望! しかしその前に


「楓さん撮りまくります!!」

「やめてください!」


 いい写真とれた! これは吾輩のコレクションになるで! 嫌がってるところもso good!

 それにしても気が遠くなるほどの暑い中、唯一の希望はお譲達の水着姿なのだ。はやくこの暑さを吹っ飛ばしてもらいたい。あれほど海に行くのを迷っていた早月さつきお譲の水着をするのは特に楽しみである。


「そう言えば、鬼船さんは今日は屋敷に残ってるんですよね」

「うん、きっと外に出たくないんだろうね」


 あの人、鬼船幸助きふねこうすけは何と言うかその…引き籠りの傾向がある。ずっと部屋でゲームかたまに仕事。執事長ってそんな偉いんだな。まぁどうせゲームでもやってるんだろうな。

 そう頭の中で思っていたら、遂にお譲達が着替え終わったようで、俺達の前に現れた。


「さ…早苗お譲! ロリが分かってらっしゃる!」

「別にそういうつもりはなかったんだけど…」


 少し不満そうな顔をした早苗お譲は見事に幼さを生かしたとばかり言えるスクール水着だった。

小学校の時、女子が来ていたスクール水着を見て以来、もう一生見ることはないだろうと覚悟を決めていたのだけれども、まさかもう一度この目で拝める時がくるとは思いもよらなかった。

 そして早月さつきお譲と言うと、早苗お譲の後ろに身を隠すような体制で此方の方を見ている。


「早月お譲~?」

「み、見るな!こっち見るなキモイから!」

「ちょっと酷くないですかお譲!?」


 見るなと言われても見えてしまうので仕方がないのではないだろうか。

 早月お譲は可愛らしい水色のビキニを着ていた。いつもは見ないその姿に俺はかなり心震わされた。


「早月お譲、そんな恥ずかしがらなくてもいいですよ。すっごく似合ってます!」

「え? そ…そうかな?」

「はい! すっごく興奮します!」

「死んでしまえこの変態!」

「ひでぶっ!」


 俺はお譲の拳からの顔面クラッシュを喰らって太陽の所為でかなり熱くなっている砂浜に背中から打ち付けられる。


「ただでさえ暑いのに、すっげえ砂が熱い!」

「ただでさえ暑いのに時雨は真っ黒な服なんて暑苦しいわね」


 俺は状態を起こして、服の周りや、髪の毛についた砂をはたき起こす。今の俺の姿は暑苦しい、つーか暑い、このままだと死んでしまいそうだ。その上大量に汗をかいている体に砂浜に倒れた所為で砂がこびりついてすごく気持ち悪い感覚がする。


「お譲、俺暑いです、死んじゃいそうです、全裸になってもいいですか?」

「駄目に決まってるでしょ!!」

「お姉ちゃん、逆の立場になって考えてみてみなよ…私だったら全裸になる」

「…なん…だと?」

「あんたはそこに反応するな! 面倒くさいから!」


 早苗お譲の全裸か、考えただけでも興奮するな。しかしながらそんなことを考えている余裕もなくなるほどに頭がボーッとしてきた。

 早月お譲はその俺の姿をジッと見つめて、こう言い放つ。


「確かに暑いのにこんな格好ってのは可哀想だし…それに、私と早苗だけで海で遊ぶのも何か寂しいし笠神達も水着に着替えれば?」


 な…なんて女神なんだ!俺は心の底から思った。

 だが、しかし


「笠神さん…俺ら水着持ってきてましたっけ‥」

「うん、抜かりはないよ」


そう言ってバッグから大量の水着を取り出した。笠神さんのその顔は如何にもドヤ顔であった。

何だかんだでこの人も海に来るのかなり楽しみにしてたんだなあ。


「この中から好きな水着選んで来てよ、もちろん楓さんのもあるよ」

「ほ、本当ですか!?」


 楓さんは顔をパアッと晴れさせて笑顔で自分が着る水着を選ぼうとしている。その顔はもうおもちゃを買ってもらおうとしている子供のようで、微笑ましいものであった。

 よし、自分の着るのも決めるかと、俺は笠神さんと一緒の自分に似合いそうな水着をバッグの中から漁りだした。



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