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第52話 苦肉の策とやら

 数年前のおさらい。

 バレンタインデーの前日になっても女性陣が時雨にチョコレートを作ろうとしていないことに危機を感じた双馬時雨は、屋敷の女性3人にチョコをくれるかを遠回しに聞いてみようということで、最初にこの私、鳳咲早月に聞いてきた。でも、明らかにバレバレな感じに聞いていたものだから、思わずバレンタインデーそのものを忘れてたと嘘をつき、今更作るのが面倒くさいと言ってしまった。

 正直言うと、私は時雨に、少しくらいは感謝しているつもりだ。バレンタインデーくらいチョコの一つあげてもいいと思う。しかも、普段なんてお菓子なんて作らないから、時雨のストーキングを掻い潜って練習したのに! このままだと、笠神に申し訳が立たないわ。

 …困ったことに、変な嘘と見栄を張ってしまった建前、すごく作りづらい。今更「あの時言ったことは嘘よ。仕方ないから作ってあげたわ」とも言いづらい。

 笠神いわく、早苗と楓はチョコレートをもうすでに作っていて、ばれないように、笠神の部屋の冷蔵庫の中に隠しているらしい。楓はともかく、早苗がすでに作っていることに驚いている。普段動かないくせに、なんでこんな時だけ早いのよ…。

 前回は、もう作らない方向でいこうと考えたが、笠神に、色々言われて作ることにした。


 まぁ、そんなわけで時雨が、ショックで寝込んでいるっぽいから、今がチャンスということで、作り始めることにする! 笠神には時雨が来ないか厨房周辺を見張っていてもらう。

 練習も3日前から、少ない時間であるが練習してきたから、少しは手際良く進めていけている。板チョコを細かく刻み、湯煎して溶かし、バターと卵白、小麦粉を加えて…。

 わかってはいたけど、チョコレート菓子って工程がすごく面倒くさいわよね。面倒だけど、途中で手を抜かず、しっかりやらないと失敗したら、猶更面倒くさいから気を抜けない。

 ぐぬぬ、なんか時雨のためにここまでするのが癪だわ…。絶対調子乗るに決まってる…「お嬢! あの時はやっぱり照れ隠しだったんですね!」とか言いそうじゃない? あまりにも、時雨の発言が想像しやすくて、クスっと笑ってしまった。


「喜んでくれそうだから、ちょっとは作り甲斐あるわよね…」




                 ★




「はぁぁぁぁ…」


 思わず、大きなため息が漏れる。誰もいない薄暗い部屋で、独り俺は、布団にくるまっている。屋根裏だからこその狭さや薄暗さが、今の俺の気分にお似合いだ。

 誰も作ってくれないみたいだ。俺はなんのために、この日のために頑張ってきただろう。この楽しみのために頑張ってきたというのに…、俺には何も報酬はないというのか…!

 この世の中はおかしい、主人公だぞ。俺って一応主人公だよね? あまりにも待遇面で不憫すぎやしませんか!? 思わず涙が出ちゃう。男の子なんだもん。


「チョコ…チョコほちぃ」


 口に出すだけで、貰えるとは思っていないが、言わずにはいられない。

 クソ! 正直貰えると思ったよ! 屋敷に女の子3人もいるんだぞ! しかも、日は浅いとは言えど、仲は良くなったはずだ。そりゃ、俺じゃなくても期待の1つや2つ、してもおかしくないだろう!?

 考えが甘かった。もう少しアピールをするべきだった。情けでも貰っておけばよかったよ。早苗お嬢や、早月お嬢は難しいかもしれないが、楓さんは作ってくれそうだったのに!

 そんなことを考えていると、俺の部屋から、ドアのノック音が聞こえてくる。


「時雨くーん、入るよ!」


 部屋に入ってきたのは笠神さん。俺の執事の先輩にあたる英国風イケメン執事。なおホモ疑惑。


「今日ずっと引きこもりっぱなしじゃないか! 仕事ももちろんだけど、みんな心配しているよ」


 そういえば俺は、執事で、仕事しなくちゃいけないんだった。今まで引きこもってサボってしまっていたか。それは迷惑をかけてしまった。


「ごめんなさい、仕事のこと思わずサボってました」

「まぁ、そこは大丈夫。それより、チョコ貰えないだけでそんな落ち込むことかい?」

「笠神さん!!!!」

「は、はい」


 俺は思わず、被さっていた布団を吹っ飛ばし、笠神さん対して大きな声を上げた。笠神さんは驚いて目を丸くする。そのまま俺は、笠神さんを気にせず言葉を続ける。


「俺がどれだけ明日を待ち望んでいるかわかりますか!? 俺はその日の楽しみのために、どれだけ辛い仕事であろうと、過酷な労働時間であろうと耐えてきました!」

「過酷な労働時間って…」

「俺は、明日のために早月お嬢や早苗お嬢、そして楓さんにも積極的なアプローチも続けていました! そう、俺はバレンタインデーにすべてを捧げていったと言っても過言ではありません!」

「それってただいつも通りセクハラしてただけじゃ…」

「だまらしゃあああい!」

「ひい! 後輩に怒られた!」

「それを笠神さんは「チョコ貰えないだけで」って言いましたね! 俺の人生を否定しているのと同意義です! 俺は傷つきました!」

「まさかそこまで怒られるとは思ってなかったよ!! ごめんよぉ! 僕が無責任な発言をしたばっかりに!」


 まあ、ぶっちゃけ怒ってない。

 この憤り、誰かにぶつけないと気が済まなかった。笠神さんなら受け入れてくれるから好都合だっただけである。むしろごめんなさい。

 俺は荒げた声出したために、息切れした呼吸を一度整える。


「まぁいいでしょう、もう夜ですもんね。気を取り直して仕事再開しますね」

「う、うん…? まあ少し元気になったならよかったけど…」

「もう今回の件は吹っ切れました。もう望みを捨て、無の感情で働きます」

「それはそれで怖いよ!? それにまだ、貰えないとは決まってないじゃないか」


 正直、貰える可能性を捨てきれない俺がいる。しかし、下手な希望は死を招く。俺はこのまま、貰えないという前提で仕事をしていた方が楽だ。


「もういっそ逆チョコという手に出るか」

「ホワイトデー作戦!?」


本日も読んでいただきありがとうございます。

次回投稿は来週中に。よろしくお願いします。

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