第14話 長期休み明けはつらい
ちょっと遅いですけど明けましておめでとうございます。
今年もこの小説を暇つぶし程度に読んでくれるとうれしいです。
次回は明日投稿します。
「じゃあ私たち、学校行って来るから」
「行ってきます」
私たちは使用人の皆に一声かけ家を出ようとする。するといつもの奴が出てくる。
「お嬢! 行ってきますのチューは無いんですか!?」
「意味わかんないこと言ってんじゃないわよ」
私はこの使用人、双馬時雨の言ったことを軽くあしらった後、玄関に置いてある革靴を履く。補習があったとはいえ、しばらく学校に行ってなかったので革靴の履き心地に若干の違和感を感じる。
「今日は始業式だけだからすぐ帰ってくるわよ、でも友達と遊んで帰ってくるかも」
「と、友達…!? もしかして男ですか!?」
「女よ! 女友達!」
別に嫌とまでは言わないけど、朝から時雨のテンションに付き合うのは正直疲れる。
「はぁ、じゃ行ってくるね」
「いってらっしゃいませー」
時雨達に見送られ私達は屋敷を出た。私が通っている新沢高校は私の屋敷から徒歩15分で行けるほどの近さなので私はそこを中学時代に受験した。ちなみに早苗が通う東祭中学も10分程度の距離だ。
隣に一緒に歩いている早苗だが、徹夜した所為か目がウトウトしててフラフラ歩いている。早苗は基本10時間以上寝ないと1日が持たないからこの子的にはかなり今日は辛い日であろう。
「早苗、フラフラしてて転ばないようにしてよ」
「う~ん…眠い」
「いいじゃない、宿題はちゃんと終わったんだから、きっと担当の先生も驚くわよ「あの鳳咲が宿題をちゃんとやってくるなんてー」ってね」
「そうかも、今回は怒られずにす済む」
早苗の担任の教師はおそらく早苗のことを宿題をやってこない問題児として認識してるのであろう。タダでさえ授業中に寝ているらしいし、教師にとって相当悩みの種だろう。…あー…でも副担のアイツはなんとも思ってないでしょ。
私と早苗は他愛のない会話をしながら歩いていると、すぐそこに早苗が通っている東祭高校が見えてくる。
「じゃあねお姉ちゃん」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
早苗は私に小ぶりに手を振りながら、校門に向かっていった。早苗が校門を通り抜けて見えなくなったところで私は再び歩き始める。
早苗と別れると特に何もするわけでもなくタダ学校に向かって一人で歩いていくだけだ。たまに友達に会ったりして一緒に登校したりはする。
この通学路を通うのは補習に通ったとき以来だからかなり久しぶりだ。それにしても、通学路を歩いているとまた学校が始まるという憂鬱感がある。夏休みの生活に慣れてしまった身としては学生としての生活に戻るのは少し辛いところだ。さっさと冬休みにでもなってほしい。
すぐそこに私が通う新沢高校の校門が見え始めたところで久々に聞き覚えのある声で後ろから声をかけられる。
「やあ早月君。久しぶりだね」
「あ、三茅君久しぶり」
この男性は私のクラスの同級生の北王子三茅。真面目っぽくまとめた黒味がかかった赤色の前髪に黒縁のメガネをかけている。見た目通りにとても真面目で学級委員長、そしてこの学校の生徒会副会長をも務めている。いかにも優等生って感じである。何かと私に話しかけてくるのだが正直な苦手なタイプだ。
素っ気のない私の反応に三茅君は「ふむ」と一言。
「早月君は夏休み中に何処かに出かけたりはしたのかい?」
「海と温泉地くらいしか行ってないけど…えっと、三茅君は?」
「私は夏期講習が忙しかったものなのでね…何処にも行けなかったのだ。早月君が羨ましいよ」
「そ、そうかな」
うん、やっぱり断言できる。凄く私とは気が合わない。
真面目すぎるのかな…。時雨みたいな変態とは対照的に三茅君は真面目すぎるんだよ。…というか私はずっと変な使用人たちに囲まれてるから真面目な人には少し慣れてないのかもしれない。不真面目とまでは言わないが、変な奴らの環境に慣れてしまったということにもなるのかな…。
私は半ば一方的な三茅君の話を聞きながら校門を抜け校舎内へ入り、そのままま階段を上っていき自分の教室へ入っていく。私は教室の窓際に存在する自分の席に着席する。すると私の席の前にいる少女が声を掛けてくる。
「早月ー私英語宿題やり忘れちゃったよー。てへへ」
「ええー」
私の前の席の少女の名前は黒澤千里。綺麗な茶髪のポニーテール。笑う姿がとても可愛らしい私の親友である。どうやら宿題をやり残したようだ。
「言っておくけど見せないわよ」
「えぇ!? そ、そこを何とか早月様!」
千里は両手を合わせてお願いをしてくる。私は昨晩の早苗のことを思い出し面白くなってしまった。仕方ないと私は思い、バッグの中にある英語のテキストを一冊取り出し、千里にそれを手渡す。
「何か奢ってね」
「ありがとう!! 今度奢らせていただきます!」
千里は早速机に向かいだした。答えを写し出すだけなら30分もかからないだろう。私は提出する予定の宿題を机にすべて出しておく。すると予鈴のチャイムが学校中に響き渡る。
「後5分で始業式始まるから宿題は後にしておきなさい」
「あ、あと少し!」
千里は必死でテキストを写しているが私はその手を無理やり止めた。始業式は講堂で行われるのでそこまで歩いていかなければならない。教室からそこまで行くのに大体3分近くかかる。
「間に合わなくなるから行くわよ」
「ちょ、ちょっとちょっと!」
私は千里の手を引いて教室を出た。
☆
『えー、皆さんは充実した夏休みを過ごすことができたでしょうか…』
自分で言って悲しくなる限りだけど私はクラスで一番背が低い。だから私は学校の朝礼の際に列の一番前という屈辱を味わうハメになってしまう。だから朝礼は好きじゃない。
校長の長い話が始まりもうすでに5分以上だ。この長い話を久々に聞くのは中々の酷だ。恐らく私以外にもそう考えているだろう。話が終わったと思ったら、新しい話題を話し出し、これを長々と繰り返す。
私は基本校長の話は耳からシャットアウトして違うことを考えていたりする。お昼ごはん何にしようかなーとか、来週のジャ○プの漫画の展開はどうなるのかなーとか、ハ○ターハンターの新刊はいつだとか、何とも下らないことである。
それにしても長い、校長…1ヶ月近くこういった朝礼で話す機会がなかったからだろうか、話したかったことを今すべて話しきるつもりなんじゃないかな…。
私は退屈すぎて欠伸が出てきたところで校長がまたしても話の話題を変える。
『えぇー、本来はここで話を終わらせたいところだったのですが』
だったら終わらせてよ。と私はため息をし、心の中で言い放つ。
『本来ならば1年B組のクラスだけで紹介するはずだったのですが、本人至っての希望でここで転校生を紹介させていただきたいと思います』
1年B組、それは私のクラスだった。1年生の夏休みの終わりのこの時期に転校してくるなんて何かあったんだろうか。私は転校生が男なのか女なのかを考えていると、校長が「じゃあ上ってきて」と言い。校長は転校生が台に
上ってきたところで校長は場所を譲る。そして転校生はマイクを片手に持ち「あーあー」とマイクのテストを始める。
どうやら転校生は男の人のようだ。黒髪で少し背が高めで………………………あれ? 私どこかで…………
『よしよし、OKかなー』
『コホン、えっと…この度この新沢に転校してきました双馬時雨って言います!』
『好きなものは女の子! むしろそれ以外に好きなものがないといっても過言ではないっスね! 要するに俺が言いたい事は現在彼女募集中ということです! あ、ちなみに彼女は複数人可能です! あ、言っておきますけどチャラ男とか女たらしって訳じゃないですから! 俺はタダ純粋に女の子と幸せになりたいだけなんですよー! 俺と付き合いたいというお方がいる場合は是非1年B組においでなさって下さい! あ、別に胸が小さい大きいとかそういうのまったく俺は気にしませんし、むしろどちらにも価値があると俺は思っています!』
『あ、後できれば俺はこの学校の全員の女子と付き合いたいと思ってます!! 今日から皆さんどうかよろしくお願いしマース!』
な……何で、時雨がこの学校に…何で転校してくるの!? あれ? 時雨は確か屋敷で使用人として働いているはずなのに…。でも、時雨はここにいる。何で…何で………
時雨は朝礼台から立ち去ろうとしたが、何かを思い出したかのようにもう一度マイクを握る。そして私の存在に気付いたのか、時雨は私に向かってウィンクをかませて来た。おいやめろ! 気持ち悪いから!
『言い忘れていましたが俺、一年B組の鳳咲早月ちゃんとは将来を誓い合った仲なんですよ! 凄いでしょ! ねー? 早月ちゃん!』
…私の何かが壊れるような音がした。どうやら私の学園生活がぶっ壊れる気がした。
講堂の何百人といる生徒達がざわつき始めた。時雨のやつ…変な嘘を言いやがった! 皆が変に信じたらどうするつもりなのよ! やばいどうしよう…どうしよう…何で時雨が転校してくるのよおおおおおおおお!?
『はい、じゃあ校歌斉唱~』




