ばあちゃんとあたしと『ひよこ』
両親が共働きだったあたしは、学校が終わるとよく、近所に住むばあちゃんの家に遊びに行った。
たくさんいる孫の中でも、外孫だというのに、あたしは一番可愛がってもらっていた。
遊びに行けば、お菓子とお茶で御もてなしを受け、五目並べやおはじきなんかのレトロな遊びで長い時間盛り上がった。年季の入り方が違う。ばあちゃんには、どれだけ頑張っても勝ったことはない。例え、ガキのあたし相手でも、ばあちゃんは絶対に手を抜かないのだ。
今思えば・・・ちょっと大人気ない・・・。
でも、そんなばあちゃんと過ごす時間が、親を一人で待つ寂しさから救ってくれていた。
ある日、いつものように学校帰りにばあちゃんの家に寄ったあたし。
ばあちゃんは、温かい笑顔であたしを出迎えてくれる。
「まいこちゃん。今日はいい物があるんだよ」
ばあちゃんは、あたしの喜ぶ顔を予期して嬉しそうに言いながら、奥にあるばあちゃんの秘密部屋から、小さな箱を持ってきた。
「これ何?」
箱には、『ひよこ』と書かれている。
「美味しいお菓子だよ。食べてごらん」
ばあちゃんもあたしも、甘いものには目がない。
ばあちゃんが自信ありげに出してくれる物に、あたしの胸は高鳴った。
小さな包み紙を剥がすと、中から小さなひよこの形のお菓子が出てきてた。
「可愛いね〜」
小さなあたしの手のひらに、ひよこはすっぽりと納まった。
特別派手な飾りはないが、つぶらな瞳が印象的で可愛いお菓子を、あたしはすぐに気に入った。
「まいこちゃん。これ、どこから食べる?」
突然、ばあちゃんが変なことを聞いてくる。
幼いあたしは、しばらく考えながら、
「頭から・・・じゃない?」
と答えた。
その瞬間、ばあちゃんの眼が妖しく光る。
「頭・・・。残酷だね・・・」
「え・・・!?」
思いもかけない言葉に、あたしは言葉をなくす。
「こんなに可愛いひよこを、頭からがぶっといくのかい?」
「う・・・」
あたしは急に、この小さな愛くるしい食べ物が可愛そうに思え、
「じゃ・・・、尻尾から・・・」
と小さく答えた。しかし、
「尻尾から?普通は、頭から食べるよねぇ。変な子だね」
「え・・・!?」
ばあちゃんは、意地悪な、でもいたずらっ子のような笑顔であたしを見ていた。
「まいこ・・・この子いらない」
泣きそうになりながら、あたしはひよこをテーブルに置いた。
「おや?食べないの?美味しいのに」
言って、ばあちゃんはひよこにかぶりついた。
「あぁ!!ばあちゃん!!」
何のためらいもなく、がぶりと頭からいった・・・。かじられたひよこ・・・。「頭から食べるのは、残酷だって言ったじゃない!!」
「そうかい?別に、美味しく食べたら残酷じゃないだろ?」
何言ってるんだい?と言いたげな、でも面白いものを見るような目であたしを見ていた。
「食べてごらん?美味しいから。ひよこにお礼を言いながら食べたら、ひよこは喜んでくれるよ」
あたしは、言われた通り、ひよこさんありがとう。と言いながら、恐る恐る口にした。
「美味しい・・・」
それは、甘くて優しくて柔らかい味がした。
ばあちゃんは、あたしの感想に満足そうな顔をして、残りのひよこをたいらげた。
あなたは、ひよこを食べるとき、頭から食べますか?尻尾から食べますか?