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記念すべき10人目の彼氏は杉くんというらしい。笑ったときに眼鏡の奥の細まる瞳が、なんか可愛い。
初心そうだと思っていたが、どうも呼び出しのときは緊張していただけらしい。慣れたら結構気さくにしゃべる人だ。
女子にも男子にもわりと人気があるらしいが、全然知らなかった。
まあ興味ないし。そもそもあたしも梓も女子に嫌われてるから、そういう情報とか全然入ってこないし。
ああ、嫌われてる理由は簡単。梓は美人なうえ他人に関わったり媚びたりしないから気取ってる、とか思われる。あたしは単にたいして美人でもないくせにもてるから。
女の嫉妬は見苦しい。
まあ、あたしはちょっとくらい嫉妬したほうがいいのかもしれないけど。
付き合い始めて3日目。学校帰りに杉くんが家まで送ってくれた。
でも帰り道反対方向らしいから、申し訳ないよとあたしが言ってみると、俺が斎藤さんと一緒にいたいだけだから、と笑って返された。なるほど。人気があるわけだ。
家の前に到着したので、上がってく?と聞いてみた。
でも杉くんは家の大きさに圧倒されたようで、やんわりと上手に断られた。
お互いにばいばい、といった後にあたしは玄関のドアを開く。
「おかえり」
「…ただいま」
目の前に色気の塊が立っていた。
仲はそんなに良くないが、挨拶を小さいころに両親にしっかり叩き込まれたため、最低限の会話くらいはする。
閉じかけのドアから外を見ると、もう杉くんは当然ながら後ろを向いていた。
「…新しい男?」
シンはただ無表情に問う。
「まあ、そうなのかな」
少しぼかしてあたしが答える。
シンは、ふうん、と靴を履きながら気の抜けた返事をした。
そういえばここ数年、お互い2人でいるときに感情出すことなんてなかったな。
普通の兄妹はどうなんだろ。そもそもあたし達ってやっぱり普通じゃないのかな。
「バイト?」
「うん。あ、夕飯いらない」
「わかった」
両親は基本家にいない。仕事がすごく忙しいみたいだ。
母が客観的にみてすごく大きな会社の社長をしている。父はそのサポート役みたいな仕事らしい。
まあどうせあたしは後継ぎじゃないから、詳しく知らないけど。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
シンがドアを開ける。さすがにもう杉くんは近くにはいないだろう。
無駄に広い玄関に、1人残される。
そういえば、初めての彼氏がシンとキスしてたのはこの玄関だったな、とぼんやり思い出した。
今回いつもより短めです。書きたかったところまで書くといつあげられるかわからなかったので…。(汗)
とりあえずキリのいいところまで。