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 「知花ちかあんた、山本と別れたの?!」

 「うん」


 あたしの前で彩り豊かなお弁当を食べながら、驚愕と呆れを半々くらいに感じさせる表情をしているのは友人の梓。背が高くてすらっとした美人だ。

 いいな。ネギ入りの卵焼きおいしそう。頼んだらくれないかな。

  


 知花というのはあたしの名前だ。

 斎藤 知花。うん。わりと気に入ってる。

 梓は倉本 梓。こっちもなかなかいい名前。



 ちなみに山本くんはつい3日前まであたしの彼氏だった人。

 礼儀正しくて優しくて、わりと気に入ってた。



 「もうすぐ2ヶ月だったんでしょ?

 なんで別れちゃったのよ!」

 「んー。性格の不一致?」


 兄にとられたなんて言えるわけがない。

 

 ああでも、いい人だったな。


 シンと、あ、シンってのはあたしの兄だ。斎藤 森太郎しんたろう

 

 シンと関係持ち始めたときもあたしにばれないように気をつかってたし。

 なんだかんだで優しかったし。


 山本くんの前の前の彼氏は最悪だった。

 家に遊びに来たときは、シンがいないとわかるとみるからに落胆の表情を浮かべるし。

 シンがいるときはあたしにはほとんど話しかけないで、シンの気を引くのに必死だし。

 あたしと2人のときはシンの話ししかしないし。


 

 「でも高校入ってから最長記録じゃん!7人目だっけ?」

 「中学入れたら9人」


 「……もうあんたには山本しかいないと思ってたんだけどねー。


 妹がこんなにころころ彼氏変えてたら、シンさんも心配するよ」


 「いやそれはありえない」


 

 梓はシンのファン。年が2つ上で、去年まで同じ高校だったからあたしの学年の子はみんなシンのこと知ってる。

 

 シンは目立った。良くも悪くも。

 

 顔立ちが信じられないくらい綺麗だった。

 兄妹なのに全然似てなかった。



 似てるのは白い肌とちょっとふわふわした髪質くらい。


 シンは全体的に色素が薄くてきれい。

 あたしは目も髪も真っ黒。肩よりちょっと長いくらいの髪は毎朝言うことを聞いてくれなくて、まとまりがない。

 シンのはきれいにまとまってて、普通にパーマをかけてるみたいに見える。ずるい。



 シンはいつでもどこか色気があった。むんむんだ。

 老若男女問わず、時には教師だってシンを一目見ただけで夢中になった。


 歩く麻薬みたいな人だ。

 

 あたしは控えめに言うとふつう。

 ひいきめに見て、ちょっと可愛いかな?ってくらい。


 でも(シンに似て)肌がきれいなのと声が可愛いせいで、寄ってくる男子には困らなかった。

 まあ1人残らず取られちゃったわけだけど。



 

 「……でもあんた、ほんと元彼たちになにしてんの?

 あんたと別れたあと、誰も新しい彼女作ったとか聞かないんだけど」

 

 梓が眉間に皺をよせ、訝しそうな目つきをする。

 美人は何をやっても様になる。



 「なにもしてないって。ほんとに。

 あたしと付き合って、女って生き物に絶望したんじゃない? 

 あたしけっこうずぼらでいいかげんだし」



 嘘は言ってない。決して。


 あたしと正式に別れたあとみんな喜んでシンのところに行くんだけど、そのころにはもうシンのほうは興味を失ってるらしい。

 つまりあたしと別れたあとはもう用なし。


 まあそれでもみんなけっこうしつこく付きまとってるけどね。

 よく元彼がシンを口説きに家に来たりするし。


 あたしは気にしてないけど。






 うーん、と梓が納得のいかないように唸る。


 「ありがと、梓」

 

 あたしが少し笑ってお礼を言うと梓は、もうこれ以上は何も言わない、とばかりに肩をすくめた。




 そしてあたしが、最近お気に入りの苺オレをストローから吸っていたら廊下から教室へと声がかかった。


 「斎藤さん、ちょっといい?」

 

 このあまり控えめな声の主は、隣のクラスの草食系っぽい男子。名前は知らない。

 あ、けっこう顔整ってる。



 「あの、ちょっと話があるから、ちょっと中庭まで来てくれる?」

 

 この人『ちょっと』が多いな。

 でも顔を赤くして目も合わせられない姿が、初々しくて好印象。



 「いいよ。ごめん梓、ちょっと行ってくる」


 少し急いで紙パックの中身の残りを飲み干して、席を立つ。


 後ろで梓がため息をつくのがわかった。









 10人目の犠牲者がでるのか、と思うと少しだけ暗い気分になった。

 

 

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