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 5月ももう半ばだというのに、まだ風が肌寒い。

 高校生らしく短いが、教師たちに特別な注意をうけるほどではない程度の長さのスカートを下せばいいのかもしれないが、それは現役女子高生としてのプライドが許さない。


 あたしは今日のように、不定期的だが意図的に早く帰宅する日を作る。

 もう慣れたもので自宅で今頃何が行われているかもわかっている。




 鍵のかかっていない玄関を開け、二足の男物のスニーカーの存在を確認する。そのうちの大きくて、踵の潰れた方の靴を踏みつけ、家に入る。


 いつもより足音を立てて階段を上がる。

 一家4人が住むにしてはだいぶ大きすぎるこの家に、どすどすと音が響く。


 二階に上がり、すぐ右手にある自分の部屋のドアノブに手をかける。

 隣の部屋からは、少し曇った男の人の声。


 ああやはり、と自分の予想が確信へと変わったことに少しだけ安堵し、部屋に入る。


 いつもよりゆっくりと制服を脱ぎ、皺にならないように丁寧にハンガーにかける。

 そして、本当に適当な部屋着を身に纏い、着替えを終わらせる。


 

 少しくつろいだ後、部屋を出た。

 隣の部屋のドアノブに手をかける。


 さっき確認できた声は、もうすでにただそこに存在するだけの音として変わってしまっていた。



 カチャリ、とドア独特の無機質な音がする。

 

 それは、確信が事実へと変わる瞬間。








 裸の青年が2人、ベッドの上で絡まりあっていた。


 部屋の中に一切無駄なものがなく、非常に殺風景な印象を与えるためか、ベッドの上の肌色のかたまりの存在が際立っている。

 



 「おかえり」

 

 かたまりの、下に組み敷かれている方が、無表情にあたしに声をかける。

 それとは対照的に、かたまりの上担当の方は、目を見開いて顔が真っ青になっているが。



 「……ただいま」


 あたしの方は、まあ妥当な言葉を返し、この光景をガン見する。

 絶句とは何か違う、この沈黙。これ以上どんな言葉を続けていいのかわからない。


 なんなんだ。

 ごめん、続けて。とでも言えばいいのか。


 

 結局適当な言葉は見つからなかったので、そのまま無言でドアを閉め、部屋から出る。


 これからどうしようか。

 そうだ。リビングでテレビを見よう。


 そのまま階段を下りる。

 先ほどの部屋から、ち、違う!とかいう声が聞こえてきたが気にしない。



 






 そのあとのことは、よく覚えていない。


 

 ただ寝つく直前に、ああ、また彼氏を兄に盗られてしまった。とだけ思った。

 


  

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