だからこそ、少女は進む …3
しばらく延々と続く草原を歩き続けていたが、ふと。
「……?」
目の前の景色が揺らいだ気がした。
「見つけたぞ」
浅滅はそう言うと、先ほどよりも速度を上げて歩き始めた。
私はあわててそれに着いて行く。
「『見つけた』って、何をですか?」
「次元の綻びだ。……いいか?」
浅滅は立ち止まると、前を見据えたまま話し出した。
「今、龍ヶ峰という街はここに存在している。日が立てば“移動”するが、まだこの場所に留まっているのだ。別の空間に存在しているが、な」
「……ここにあるが、ここに無い」
「そうだ。今この空間は矛盾に溢れている。存在自体がなかったことにされた街、無かったことにされた記憶、人間。歴史修正は今も行われている。だが、その世界の作業中に隙が出来ることがあるのだ。それを、“綻び”と呼ぶ」
“綻び”……。そこに突け入れば、“街”に入ることができるのだろうか。
「その通りだ」
そう言うと、浅滅は再び歩き出した。
風景が陽炎のように揺れていく。
そうしていると、揺らいでいく視界の先に見えたものがあった。
草原の中の小高い丘。その上にぽつんと建っている、一軒の、
「教会……?」
である。
それを視認した瞬間、景色の揺らぎがぴたりと止まった。
目の前には丘。教会。
「罠……か」
見ると、浅滅は状況を楽しむかのような顔をしていた。
「ふざけやがって……!!」
違った。怒っていた。
「……行くぞ」
「え、でも……」
罠なのではないのか。
「“街”を囲われた時点で俺達側は不利な状況に立っているんだ。罠と分かっていても、行くしか道はない」
――――――――――――――。
その教会は、本当に小さなものだった。
ただ入口の扉は豪勢な彫りがなされており、侵入者を阻むような、そんな印象を受けた。
その扉を浅滅が蹴り開ける。
中には誰もいない。
静寂。
「おい、クソ野郎。いるんだろうが、出てきやがれ!」
浅滅が教壇の方を向いて叫んだ。
しばし静寂。
そして、それを破る、嗤い声。
「ふふ、ははははは……」
地の底から響いてくるような低い声がしばらく鳴り響き、
「その姿は“魔弾”か。まだくたばっていなかったとはな、正直驚きだ」
と言いながら、前方に、男が姿を現した。
黒いローブに身を包んだ、西洋系の血の入っている男……。
「うぅっ……」
「どうした!?」
「あ、頭が……」
痛い。頭痛がする。
既視感……いや、そんなものではない。
私は、この男が、恐い……!!