それでも少女は求め続ける …9
再開します。気が付いたら第100部いってると思える今日この頃。
ショットガンで三発分の鉛玉の大群に身体を引き裂かれた怪物は、床に倒れ伏したきり、動かなくなった。
破片やおそらく体液であろう緑色の液体が床を流れていく。
「おい、戌海」
「……」
「おい、“鍵”」
「……」
「おい! 記憶喪失者!」
「あ、はい!」
呆然としていて浅滅がすぐ近くに来ていることに気がつかなかった。
「ったく……」
そう言うと、浅滅は片手に持っていた斬り落としショットガンを懐にしまった。
ロングコートがはためいた隙間から、革製のホルスターのようなものが見えた。
「……急ぐぞ。俺達は闘いに乗り遅れている。ただでさえ人質が戦闘から除外されている状況なのだ」
「“街”に戻るんですか?」
「ああ」
そう言うと、浅滅は死体や遺骸には目もくれず、すたすたと部屋を出ていこうとする。
「あ、あの」
浅滅が歩を止め、振り向く。
「何だ?」
「怪物が“いる”ことは納得できました。でも、あなたは……どうして戦っているんですか?」
浅滅は一瞬怪訝そうな、面倒くさそうな顔をしたが、すぐに、
「戦っているんじゃない。戦わなければならないのだ。それが、世界の法則だからな」
そう返し、再び早足で歩いて行った。
私が警察署の玄関から出ると、急に目の前でトヨタの……よくわからないが、こう、山道でも余裕で走り抜けそうな車が止まった。
ちなみに私は車には詳しくない。
運転席のガラスから浅滅の横顔が見えた。
どうやら彼の車らしい。
しかし、どこに置いてあったのだろうか。
わたしだって、そこまで空気の読めない人間ではないつもりだ。すぐに、助手席のドアを開け、中に飛び込む。
「これ、あなたのですか?」
「いや、さっきそこにいた小太りの男から借りた」
聞くと、浅滅は当然のようにきっぱりと答えた。
「え……」
「警察という組織は厄介だ。人数で優劣が決まるのは戦闘を行う上では常識だが」
知らないわよ。
「こうも人数が多くては、話をしても通じない。もう飽き飽きしてるんだ、こんな茶番には」
浅滅が勢いよくアクセルを踏み込む。
「……ッ」
勢いに座席にめり込みそうな錯覚に囚われた。
ほどなく、後ろの方からサイレンの音が聞こえてきた。
「チッ……」
「あの……」
「何だ!」
「そういえば、どうして、あの警察署に来れたんですか? それに、銃に……撃たれてたのに……」
疑問だった。
警察は気を失った私を、パトカーに乗せて警察署まで運んだのだろう。
だが、道路に倒れていた浅滅はどうしてあそこが分かったのだろうか。
「俺は死ねないんだ。死にたくても、な」
「死ねない……?」
不老不死ということだろうか……。
「それとは違う。他の人間より少し寿命が長く、少し身体が頑丈なだけだ。役目を終えるまで、その身が枯れることはない」
「そんな……」
どこかの哲学者が言っていた。
死ぬことは虚無であり、生物にとって永遠の謎だ。
だが、生きていること自体が、苦痛なのではないのか。
……たしか、そんな内容だった。
「酷いと思うか? だが、これは俺自身が選んだことだ。誰のせいでもない。俺だって、三百年前まではこういう不幸に巻き込まれた、ただの男だったからな」
ん……?
「さ、三百……」
「ああ」
しだいにパトカーのサイレンが遠ざかっていくのが分かった。
「油断するな。日本の警察は仕事熱心だからな」
浅滅が、会話を切るように、そう言った。