それでも少女は求め続ける …7
長い悲鳴が続いた。
首を絞めつけられた警官たちのその声がしだいに小さくなって、かすれ声のようになっていく。
……吸われているのだ。感情を。
首を締め付けることによって、死への恐怖を誘発させているのだと分かった。
「恐怖……恐怖、恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖、恐怖!!」
“昆虫”の頭部が捩じ切れそうに上や横を向く。
「最高だ……。ふぶぶふぶふ……」
既に二人の警官はぐったりしており、その顔に生気は無かった。
「次は、お前の番」
急にその緑色の複眼をこちらに向け、“昆虫”が流暢なしゃがれ声で云った。
「うう、く……」
目の前で人がいたぶられている。それも、怪物に。
冗談じゃない、精神的には十分すぎるくらい香辛料だ。
「っく、い、嫌……」
こちらを見続ける複眼から目が逸らせない。だんだんとその眼が近づいてくるかのような錯覚を覚える。
一歩、また一歩、怪物がこちらに近づいてくる。
今思い出した、若干カマキリに似たその頭部のアゴから粘液が地面に滴る。
どれもこれも、この化け物を構成する“全て”が、人間の恐怖を呼び起こすためのものでしかない。
奴らは姿形をターゲットの恐怖するものに変化させる、と浅滅は言っていた。
つまり、“恐鬼”にとっては、それらの取りうるありとあらゆる姿は仮初のものでしかなく、本当は、そもそも実体が無いのである。
かちかち、とアゴがぶつかりあい、目の前の餌――私のことだ――を襲うのが今か今かと待っている風だった。
恐怖を抱いてはいけない、と思いつつも、心の中に溢れてくる負の感情を止めることは出来なかった。
「そうだ、恐怖だ。もっと……もっと!!」
“昆虫”の頭がアゴをかちかちとぶつかりあわせながら、叫ぶ。
「嫌ああああああああ!!」
それにつられて絶叫が口から出てしまった。
それに呼応するように、恐怖がさらに高まっていく。