それでも少女は求め続ける …6
痙攣はしだいに激しくなっていく。
やっぱり。運転手――“蕾”の時と同じだ。
これが、奴らの変異の仕方なのだ。
少し狂い目のタップダンスを踊っている“守宮”の身体を見ながら、実を言うと、私はどうしたらいいのか全く分かっていなかった。
さっきは武器があった。……じゃない、武器を持った浅滅が居た。
でも今は……。
周りを見回す。残念なことに、窓は無い。密室だ。
そうこうしているうちに突如、めりめり、というまるで木をへし折ったような音を立てて、“守宮”の頭が登頂から半分に分かれていった。
これも、さっきと同じ。でも、
「い、厭ああああああああああああああああ!!」
慣れられるわけがない。
まるで昆虫がさなぎから羽化するかのように、その分かれ目から、数本の脚が出てきた。
長く、蜘蛛の足のような“それ”は節々に羽毛のごとく毛が生えており、先端には鋭いかぎ爪がついていた。
8本――今目測で数えたら8本だった――の脚の後から、続いて頭が出てくる。
蜘蛛の顔を巨大化したようなものが出てくると思っていたのだが、違った。
緑色の複眼。
大きなアゴ。
ギザギザとした、稲妻のような形の触角。
――昆虫の頭部だった。といっても、何の虫かは分からない。
……人間の意識というものは本当に不可解なもので、嫌なモノをそうだと認識したとたん、意識を保つために現実から目を逸らす。
私もそうだった。この状況で、足どころか身体じゅうが震えているというのに、何故か頭には浅滅が歩きながら話していた言葉の一節が浮かんでいた。
「恐鬼……。恐怖を喰らい、闇に潜む悪意の創元……」
「ぶふぶ……。魔弾に教わったのか。言っておくが、あいつも俺達と同類だぞ」
昆虫の頭部があごを動かし、しゃべる。
魔弾……確か、浅滅を黒ローブの男がそう呼んでいたような……。
そう思いながらベットの上を後ずさる。
ふと、部屋のドアの向こうに影が見えた。
よく見ると、部屋の外から中を窺っているらしい警官が見えた。
駄目だ。あれでは簡単にこいつに気付かれてしまう。
相手は化け物なのだ。不意打ちが通じるはずがない。
「負々……、お前の中に蠢く恐怖を感じるぞ。おおお……凄い、これが、“鍵”の力の片鱗か……!」
昆虫頭がぐぎいいいいと奇怪な音を立てながら上を向いた。
「ふふふふふどうだ恐ろしいか怖いか恐怖を感じるか。もっと恐ろしい物を見せてやろうか、さあ、さあ、さあ!!」
そう“昆虫”が叫んだ瞬間、その八本の足のうちの二本が伸びていき、部屋の向こうに廊下に消え、しばらくして、
「うごはっ……」
首を絞め付けられた警官を引きずって部屋の中へ戻ってきた。
やはり、気付かれていたようだ。