それでも少女は求め続ける …5
二人の制服警官は部屋へ入ると、ドアの前に立ったまま、こちらを見ていた。
「心配しないでいい。ここは警察署の中だ。奴もここまでは追ってはこない」
私服の警官が言った。
どうやら突然自分や警官が現れ、私が困惑しているのと思ったようだ。
確かに困惑はしてるけれど、私が心配しているのは浅滅のことだ。
「奴に関しては謎な部分が多い。年齢、出身などの情報が全くないんだ。しかも、昔から犯罪を繰り返していて、大声じゃ言えないけれど、警察の中ではトップシークレットに相当する人物だ」
「何で、私たちがあの橋の上に居るって分かったんですか?」
「君の乗っていた、タクシーがあっただろう? あれの運転手から通報があったのさ」
運転手。車の中で突然、変異を起こした、化け物が。
先手を取っていたらしい。
「とりあえず、君には申し訳ないが、さっきと同じで、記憶の話をしてもらうけれどいいかい?」
少し間を空け、「……はい」と返事をする。
「じゃあ、君が浅滅に会ったっていう電車のところからもう一度……」
そう警官が言った時、部屋のドアが静かに開いた。
その向こうには、さっき入ってきた二人の警官と同じように制服を着た警官が立っていた。
警官は、ぎくしゃくとした足取りで、中へ入ってくる。
「ああ、守宮さんじゃないですか。どうしたんですか?」
ドアの前に立っていた警官のうち一人がそう話しかけた、その時。
耳をつんざくような、ぱん、という音。
銃声だ。今度は一瞬で理解出来た。
「え……」
制服の警官が自分の腹部を見下ろす。
そこには、どす黒い染みが広がり始めていた。
先ほど入ってきた守宮と呼ばれた警官は、手にリボルバーを握っていた。
あの形は大柴君にさんざん見せられたことのあるものだ。
S&W。スミスアンドウェッソンという警官に支給される銃の内の一つ。
たしか、いくつかその中にも種類があるらしいが、会話に疲れて、それ以上は大柴君の聞いていなかった。
銃の先から青白く、細い煙が上がっている。
今の銃声は、これのものだろう。
「あ……ぁあ……」
どさ、と音を立て、制服の警官が地に崩れ落ちた。
守宮と呼ばれた警官はというと、無表情で銃を再装填している。
振り向く。
“守宮”より先に入ったうちのもう一人の制服警官の方に、銃口が向けられた。
「ちょ、守宮さ……」
ぱぁん、
どさ、
「ぁ……嫌……」
声が漏れた。
“守宮”が呆然としていた私と私服警官の方を向いた。
「ヴヴう……ガ…ギ……」
その無表情の口から、およそ人もモノとは信じがたいほど濁った声をあげる。
「……下がっていて」
気がつくと、私服の警官が私の前に立っていた。
「ガギ……ルラ゛ァ゛ザマニ……ガギ…ヲ」
その手に無造作に握られている拳銃がゆっくりと上げられ、私服警官の方を向く。
「くっ……一体何が……」
「……その人、多分もう“守宮さん”じゃないです」
「え……?」
私服警官がこちらに目を流す。
「何かに乗っ取られた、タイプです。そういうのもいる……と、浅滅さんが言ってました」
「なんでここで指名手配犯の話をするんだ……?」
そう言いながら、私服警官がうなるように目を伏せる。
ぱぁん、
銃声。
「ぐっ……」
腹を撃たれたらしい私服警官がうずくまる。
「バガメ……タダノ゛人間ノ分際デ、出しゃばるカラダ」
“守宮”が拳銃を投げ捨てた。
からから、と銃は床を滑り、制服警官の死体に当たって止まる。
「サア、私と共ニ来い。“支配者”は待っている」
いつのまにか流暢にしゃべりだした“守宮”がこちらを見据える。
その目に生気は……無い。
「……嫌だよ。あなたたちの元には、行かない」
「そうか……残念ダ」
そう言った途端、“守宮”の身体があの運転手と同じように痙攣を始めた。