それでも少女は求め続ける …1
どさり、という音。
「え……」
足下を見ると、足が何かを踏んでいた。
踏んでいた? いや、足の下を何かがゆっくり流れているのだ。
……赤い。どろどろした、赤い液体がアスファルトの上を流れている。
……血?
「お、おい、何で撃ったんだ!」
前を向くと、私服の警官が発砲した警官に叱咤を食らわせていた。
「……でも、奴は全国に指名手配されている極悪犯ですよ! 迷う余地などないです!」
「だからってな。発砲には許可をだな……」
そこで警官たちは呆然と立ち尽くしている私に気付いたらしい。
私服警官が私の方に駆け寄る。
「君、大丈夫か?」
「……はい」
力無い返事を返すと、警官は少し渋るような顔をした。
……血だ。人の身体を流れる液体。命の象徴。生きるあかし。原動力。
浅滅は倒れたまま、ぴくりとも動かない。動かない。動けない。
何……? 撃たれた? 何で……?
「おい、君、本当に大丈……」
何だか警官さんの声が遠くで聞こえる。
何だろう? 何でだろう?
次の瞬間、私の意識は一瞬で、それこそテレビの電源を切ったかのように、途切れた。
――――――――――――。
眼を開くと、そこは真っ白な空間だった。
右も左も無い。
上も下も無い。
私はそこに浮遊していた。
ふいに、目の前に笑顔を浮かべた少女が現れた。
「おはよう、私と私」
「……おはよう」
……誰?
その少女は、白いワンピースを着て、おそらく髪に巻くであろう長いリボンを手に持っていた。
そこで気付いた。
この女の子は私だ。服装は小さい頃のお気に入りと全く同じ。リボンは、今私が巻いている物と一緒だ。
「私は私と同じもので作られた幻想だよ。……ふふふ、誰の幻想か、分かる?」
誰の……? どういうことだろうか。
これは私が見ている夢か何かじゃないのだろうか。
「……覚えてないの?……ふふ、無様だね」
そう言われても……。
「何の話……? 説明してくれないと分からないよ、私」
「分からない? 覚えてないの間違いでしょう? ……はあ、どうして幻想の私がオリジナルなんかに話しかけているのかしら」
「そんなの……」
知るわけないじゃないの……。
「全く。あなたもそうだけれど、●●君も哀れだよね。私にはどうしても、あなたを逃がすという選択が良い結果を生むとは思ってなかったけれど」
……誰?
そう問うと、少女は――“私”は苦笑を洩らした。
「……そうだったね。そこまで忘れちゃったんだ。かわいそ」
そう言うと、少女が身をひるがえした。
次の瞬間、目の前には今の私と同じ身長で、同じ姿の“モノ”が立っていた。
「報われないよね。いくらこれが世界の法則だとしても、生命は戦うことから逃れられないのだとしても、いくら平和を語っても、夢物語にすらならないのに」
目の前の“私”の髪がざわざわと湧き立つ。
「……そんなに身がまえなくても大丈夫だよ。私の今のターゲットは●●君なんだから。“恐鬼”は一度定めたターゲットは逃がさないんだよ」
「だから、誰なの? その人は、誰なの?」
何だかわからない。頭が働かない。
頭の中が、……いや、心が何かを求めているような、そんな感じ。
「……ふふふ、そろそろ時間だね。偽物の出番はここまでだよ。……せいぜい、あなたも“鍵”として、この盤上の負け試合を踊り狂うといいよ。“私”もその駒のうちの一つな訳だしね」
そう言うと、私の姿をした“私”はふっとその姿を消した。
……後に残るのは、真っ白な空間のみ……。