but 少女は善と悪に乱れ …8
浅滅はロングコートを着ているにも関わらず、素早かった。それを言うなら戦い慣れている、の方が正しいのかもしれない。
「くそっ……、伏せろッ!」
「きゃっ……」
いきなり身体を地面に倒された。
若干の痛みを感じる。膝をすりむいてしまったかもしれない……。
続いて、耳をつんざくような、爆発音。
一瞬耳が聞こえなくなる。
「っつああ……!」
理不尽だ。あまりにも理不尽すぎる。
状況を脳が追い切れず、怒りの感情だけが頭の中を蝕んでいく。
「くそったれが……」
浅滅が今だ周囲に残ってい熱風を背に、立ち上がった。というか、あんたが爆発させたんじゃないのか。
私も続いて立ち上がる。
分かっている。……いや、今分かった。
私は今、そういう世界に立っているんだ。とても理不尽で、横暴で、どうしようもない世界の片隅に。
そう思いながら、彼の後を追おうとした時だった。
聞き覚えのある甲高いサイレン音が後ろから近づいてくるのが聞こえた。
浅滅が驚いたように後ろの方へ振り向く。
後ろから迫ってきていたのは、白と黒のカラーに、紅く光るサイレン。
……日本警察のパトカーだった。
私たちが驚いて立ちすくんでいる間に、迫ってきていた二台のパトカーの内の一台が前に停車し、もう一台は背後に横向きに停車した。
ドアが開き、中から制服の警官と私服警官が降りてくる。
私服警官が叫んだ。
「浅滅燎次だな! 強盗殺人、及び銃刀法違反の容疑で逮捕する!」
あ……。
私は思わず息を漏らした。
そうだ。ショットガンなんて、日本じゃ持っていてはいけないものだった。
「クソっ……」
浅滅が前後を塞いでいるパトカーを見、舌打ちをする。
「今すぐその女の子を解放しろ!」
制服の警官も叫んだ。
「……これだから警察って組織は……!」
浅滅がうなる。
私と言えば、状況を飲み込むので精一杯であった。
「あ、あの……私は別に攫われたりしたわけじゃ「銃を降ろせ! 腕を後ろで組んでうつぶせになれ!」
聞いちゃくれなかった。
「クソったれ共が! 邪魔するんじゃねえ!」
浅滅がショットガンを懐にあるであろうホルスターに収め、私の腕を掴んで走り出そうとした。
が。
ぱん、という小さな発砲音がしたかと思うと、浅滅の身体はゆっくりと、ほんとうにゆっくりと、地面に倒れ伏していった。