but 少女は善と悪に乱れ …5
目の前で人の頭が真っ二つに裂けた。
衝撃。
驚愕。
そして、恐怖。
「き……きゃあああああああああ!!」
私は悲鳴を上げた。当然の反応だと思う。……だよね?
「五月蠅いぞ、戌海琴音」
隣で浅滅が足を組み換えながら気だるそうに言う。
……むしろ、なんで浅滅が驚いてないのかが不思議である。
慣れているのだろうか。出会ったときに彼は言っていた。
自分は“狩り人”である、と。
響きからして、何かと戦ったりする人なんだろうな……とは思っていた。
この態度はそれからくる余裕なのか、はたまた経験の賜物というやつなのだろうか。
……運転手の裂けた頭から飛び出してきた“丸い物”は、ただ紅く、ただ丸いだけではなかった。
紅一色の“それ”は、大きな蕾らしかった。それは蕾の後に首から生えてきたどす黒い茎のようなものを擡げて、私たちの座っている後部座席の方に“蕾”を向けた。
“それ”の花弁が目の前でゆっくりと開いていく。
そして、花弁の開いた奥には、人間の顔が覗いていた。
次の瞬間、能面だったそれが急に表情を豹変させ、甲高い悲鳴を上げた。
浅滅が悲鳴を上げるそれの顔面に拳を叩きつけた。
「グギャッ」
奇妙な声を上げながら“蕾”がのけ反る。
「早く外へ出ろ!」
ドアを荒っぽく開けた浅滅が私の方を向いて叫んだ。
さっと外へ出た浅滅に続き、私も転がるようにして車外に出る。
「痛っ……」
膝を少しすりむいてしまった。
痛みに顔をしかめながら、道路に立つ浅滅を見上げる。
「……ったく。こんなところでのんびりしてる暇はねえんだよ」
そう言うと、浅滅は着ているそのロングコートに手を入れると、
その中から、ショットガンを取り出した。