しかし少年は苦悩する …2
玄関の戸を開けると、五月の薫る風が顔をなでる。
「ねえ、何組になるのかな?響輝君は」
戌海琴音の腰に届かない位のストレートヘアーが緩やかな風に揺れた。少し濃い茶が入っている感じの色だな。
「知らねえよ、学校に言ってからの楽しみにでもしとけ」
「ふーん……」
『少し眠りたいんだが……』
「……勝手にしろ」
一体何が原因で俺はこんなのと一緒に河原の土手道を歩いているのだろうか。
女子と河原を歩いて登校だなんて羨ましい、などと思うことなかれ。
俺にとっては苦手な人と仲良しこよししなきゃならんことの方が勘弁願いたい。
それが例え女であろうとも、だ。
隣のこいつはというと、何のわだかまりも無く笑っていやがる。
全く、何の冗談だ。誰か教えてくれ……。
十二歳の時の、ハーテッドが来たあの日より今の自分はイライラしている。
家庭の事情に振り回されるのはもうごめんだ。
そして俺は昨夜のことを思い出してなるものかと、過去を引っぱり出したりして頭を埋めているのだが。
「……ねえ」
…………。
「ねー…」
…………。
「ねえったら!」
……どうやら俺の横の五月蠅いのは不服らしい。
「ねー、ハーテッド。何で響輝君…。怒ってるのかな」
『こういう奴だ。別に怒っているわけではあるまい』
我が無機的な友、よく云った。
「……むう。…ねえ、響輝君」
「……ん?」
とりあえず答えてみる。
「ちょっとハーテッド、借りてもいい?」
「まあ、構わないが……」
何をしようというんだ、この女は。……まあ、特に断る理由もない。
「ありがと」
戌海琴音はそれだけ言うと、俺からハーテッドを受け取り、自分の通常歩行速度よりもゆっくり歩く俺を置いて、走って行った。
別に「走っていってしまった」と言う気はない。